俺は特攻隊員として死んだ

Saisen Tobutaira

第10話 ありがとう

今月は勉学に追われ、月日の流れが早かった。2日前に晴子さんはアメリカを出て、二人の故郷である大阪に帰った。俺も来週日本に戻ることになった。運命なのか偶然なのかわからないが、お互い大阪に住んでおり家が近いということも知った。俺が日本に戻った暁には、ご飯にでも行こうと約束済みだ。

俺はマスターに別れの挨拶をするため、バーに来た。留学中何度も足を運んだバーとも今日でお別れだ。幸いなことにバーは空いており、マスターと話し込むことができた。

「俺、来週日本に戻るんです」

「そうなのね……」

マスターは寂しげな表情をしていた。しかし、なぜ戻るのかということは聞いてこなかった。きっとマスターは俺が戻る理由、日本人が戻る理由を知っていた。日本とアメリカの関係は非常に悪く、このニューヨークでも日本人差別がひどい。そのため、多くの日本人がアメリカを後にしていた。そして日本とアメリカの関係は今後もますます悪化し、もしかすると戦争になるかもしれないということも知っていたのだろう……

「今日が最後なのね?」

「はい」

俺の一番のお気に入りメニュー、肉をふんだんに使い、スパイスの効いたハンバーガーをサービスしてくれた。

「いつ食べても美味しいです。日本で食べれないのが残念です」

「いつでも食べにきて。賢ちゃんと別れるの寂しいね」

俺はハンバーガーを片手に涙を流していた。マスターの人間性は男ながら惚れるものがある。この情勢下、日本人にこのような言葉をかけてくれる人がいるのだろうか?俺はアメリカと戦争をしたくない、マスターの国と戦争をしたくないと心から思っていた。それにマスターの息子や孫とも何度か会ったことがあるが、マスター似のよくできた人間だ。彼らはアメリカ海兵隊に入っており、日本と戦争になれば戦うことになる。それもなんとしても避けたかった。

5時間もマスターと話をしていた。まだまだ話足りなかったが、客も増えてきたので帰ることにした。

「マスター、ありがとうございました。これからもお元気で……」

「またいつでも来るね。これ持って帰ってね」

それはマスターが大事にしているアクセサリーだ。いつも持ち歩いている。

「それはマスターの大事なものじゃないですか。受け取ることなどできません」

「ダメね。持って帰って」

マスターは無理やり僕のポケットに押し込み、会計もいらないと言い、ハグをした。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありが……」

涙で声が出なかった。重たいドアを開けバーに一礼し帰路に着いた。

ありがとう、マスター



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