世界を始める戦争か、もしくは最後の聖戦か〜敵国同士の剣姫と暗殺騎士
暗殺者は国を絶つ
任務の準備を終えた後、レドモンドに準備完了の報告を聞かせると「今宵は宴会だ!」と机に乗りだしそんな事を言い出したのだが、余計に任務に赴きたくなくなるので丁重にお断りした。
レドモンドがしょんぼりと沈み机に伏せてしまい、面倒臭い事になってしまった事はまた別の話。
現在、最後の夜を俺は一人で迎えている。
城の一番高い塔にて、夜の冷たい風に当たり、自分という存在が確かに存在している事を、この国にいる事を再認識する。
虚空の彼方を一人で見上るが、不思議と寂しくは感じない。
暗殺稼業に手を染めてから…何年経っただろうか?
今まで何人殺しただろうか?
「…!」
余計な事を思い出してしまったばっかりに気分が悪くなった。
生きとし生けるもの全ての生命は、同じ空の下に暮らしている、と誰かが言った。
その言葉は今のクロノスにとっては非常に慰めになる言葉である。
別に二度と会えなくなる訳ではない。
任務が無事終了すれば、またこの国に帰って来られる。
そう自分に言い聞かせ、明日に向かう度に込み上げる
任務を受けてしまった事に対する後悔と不安を押し殺すこの時間が、やけに長く感じた。
️ ️ ️
長かった夜が明け始め、世界の主導権が月から太陽へとシフトしている暁の時間。
クロノスはレドモンドの寝室に足を運ぶ。暗殺者お得意の気配隠蔽で徘徊する衛兵達に気付かれることなく。
この城もあの笑い声も聞くのは、一旦今日で終わり。
本当にこの国を離れたくないんだなと、軽く暗殺者である自分に対して自嘲する。
レドモンドの部屋の前まで来た。
冷え切った手でドアをノックする。
冷淡なその音は怖いぐらい廊下に響いたので、気付かれないか辺りを見回し、気付かれていない事を確認してホッと溜息を吐く。
するとドアが少し開いた。
クロノスはドアノブを引き部屋に入る。
「来たか…クロノス」
「レドモンド…お前今日寝てないな?」
レドモンドが疲れ切った声で「はは」と苦笑いを零す。
このいつも通りのやり取りも…今日で…。
「よく分かったな、流石はクロノスだ。一応、何故気付いたのか?参考までに教えてくれないか?」
「第1に声に生気が宿ってない。いつも無駄に響く声が途中で死んでる。そして、目に隈が出来てるぞ?」
最後の指摘にレドモンドがゆっくりと目の周りを擦る。
「隈だと?化粧で隠した筈だが?」
「化粧など好き好んでしないお前が化粧してる時点で怪しいさ。そして化粧とお前の死んだ声から、寝不足である事が大体察する事が出来る。因みに最近お前の部屋の出入りが過剰である事も気付いた要因の1つだ。とすれば化粧を施す理由は仕事のせいでできてしまった寝不足の証拠である目の隈を隠す為。違うか?」
レドモンドが張り詰めていた物が全て解けたように力無く椅子にもたれかかった。
「はは参った!降参だ!流石の洞察力。あっぱれだ」
「おい!そんな大きな声出すな!周りの連中に気付かれるだろ!」
「おおっとそうだったな。いや〜失敬失敬」
頼むぜ、まじで。
クロノスは思わず呆れの溜息を吐いた。
「もう、行くんだな…」
力無き声でも、そこには慈愛の感情があった。
「ああ。そうだ」
「クロノス…本当に…すまない」
「やめてくれよ。せっかく覚悟が固まったのに。皮肉か?」
悪戯心を含むそのクロノスの笑み。
だがそこに嫌味はなく、クロノスなりのコミュニケーション。
「そうか。では直ぐに出発してくれ」
「ああ。元よりそのつもりだ」
クロノスは踵を返してドアに向かう。
「クロノス!」
ドアを目前にした時そんな声がかかる。
後ろを振り返れば、レドモンドが椅子から立ち上がっていた。
「どうした?まだ何か?」
返事が返ってこない。もうこのまま無視して行こうかとしたその時、レドモンドがようやく口を開く。
「幸運を祈る。無事に返って来いよ」
クロノスは口角を吊り上げて、穏やかに笑い返した。
「ああ」
クロノスはレドモンドの部屋を後にして、次はユリウス王女の部屋に向かう。
片付けが終わり、ユリウス王女を部屋まで送っていた時、ユリウス王女に「明日城を出る時は立ち寄ってくださいね?」と強く言われたのだ。
部屋の前まで辿り着き、ノックをする。
「はい。どうぞ」
するととても綺麗な声が帰ってきた。
扉を開けると、ひだに様に薄く、透明度の高い寝巻き姿のユリウス王女が窓の前に立っていた。
下着が浮き出ており、豊満な胸のラインが完璧に出ている。
妖艶を際立たせるそれは、非常に際どく、目のやり場に困る。
「クロノスです。ユリウス王女と約束した通り来ましたがぁ?」
後半の声が裏返る。
もういろいろ服に問題があるユリウス王女がクロノスに抱きついたのだ。
「もう何も言いません。言ってもクロノス様は制止も聞かずに行ってしまいますから。だから…最後だけ、クロノス様…」
ユリウス王女が目を潤ませて上目遣いでクロノスの顔を見る。
その様子はいつも凛々しい姿とは打って変わって何処か頼りなかった。
「キス…して…して下さい」
「…っ」
ちょっと驚いた。
ユリウス王女が、普通の女の子っぽく見えたからだ。
ユリウス王女が目を閉じて口を近づけてくる。
その為により、大きなメロンがクロノスの体に密着してくる。
二箇所からの同時攻撃。これには稀代暗殺者でもなすすべなし。
唯一の最適解は…
クロノスはユリウス王女と暑いキスを交わした。
理性の権化であるクロノスはこの先まで求めたりはしない。時間も押してきているので、すかさずユリウス王女を優しく離した。
「クロノス様…ありがとうございます!」
満面の笑みとはこの事を言うのだろうか。
美の女神であるアフロディーテにも引けを取らないレベルで、とても嬉しそうに。
「どう致しまして、っ!」
ユリウス王女が今度はクロノスの頰にキスをした。
完全な不意打ちで、クロノスは思わず頰を触る。
「もっと先も…正直したかったのですが、仕方ありません。今回だけ今ので勘弁してあげますね。うふふ」
クロノスの頰が久しく赤らむ様をユリウス王女は可愛らしく笑う。
「クロノス様…どうかご無事で」
ユリウス王女がそう言ってクロノスを外に追い出した。
急すぎた展開だったが、その事に対して動揺はせずクロノスは姿勢を正して扉の先を見て…
「今まで、ありがとうございました。ユリウス王女。
お元気で」
そう言ってクロノスは部屋を後にして、王城の玄関口に向かう。
しかしクロノスは、扉の先で滴り落ちる涙を…知らない。
️ ️ ️
王城を出る時は既に空はまだ暁の名残が残るものの、青に染まっていて、衛兵や使用人達も起きて各自の仕事に取り掛かっていた。
レドモンド曰く、「王城に勤める者達や騎士団には既にクロノスが任務で遠くに長い間行く事を知らせた」と言っていたので、王城を出るまでは、別れの挨拶で大変だった。
しかも、国民も俺が新たに任務に赴く事は話したと、レドモンドが悠長に言いやがったので、帰ってきた時は一発ぶん殴ると決めたクロノスであった。
街に出てもクロノスの出発する事を寂しく思う者や
応援の言葉を送る者などいたが、一番辛かったのが、子供達が泣きながら「行かないで!」と群がれる事だった。
まじで泣くかと思った。
行きつけの店に立ち寄って、店主と最後の雑談をし、俺の大好きだった酒をもらった。
別れを惜しみながらも先に進む。
そして外門をくぐる。
背の向こう側から、沢山の人の気配と声援が聞こえる。
その気配から街の人口の8割がいる事が分かった。
本当にどこまでいい人達だよ!
クロノスは大きく右手を挙げ、アウストレア王国の国民や騎士達や門番の人達に別れを告げた。
ここに決意する。
この任務を無事に終わらせて、この我が母国、アウストレアに戻る事を。
レドモンドがしょんぼりと沈み机に伏せてしまい、面倒臭い事になってしまった事はまた別の話。
現在、最後の夜を俺は一人で迎えている。
城の一番高い塔にて、夜の冷たい風に当たり、自分という存在が確かに存在している事を、この国にいる事を再認識する。
虚空の彼方を一人で見上るが、不思議と寂しくは感じない。
暗殺稼業に手を染めてから…何年経っただろうか?
今まで何人殺しただろうか?
「…!」
余計な事を思い出してしまったばっかりに気分が悪くなった。
生きとし生けるもの全ての生命は、同じ空の下に暮らしている、と誰かが言った。
その言葉は今のクロノスにとっては非常に慰めになる言葉である。
別に二度と会えなくなる訳ではない。
任務が無事終了すれば、またこの国に帰って来られる。
そう自分に言い聞かせ、明日に向かう度に込み上げる
任務を受けてしまった事に対する後悔と不安を押し殺すこの時間が、やけに長く感じた。
️ ️ ️
長かった夜が明け始め、世界の主導権が月から太陽へとシフトしている暁の時間。
クロノスはレドモンドの寝室に足を運ぶ。暗殺者お得意の気配隠蔽で徘徊する衛兵達に気付かれることなく。
この城もあの笑い声も聞くのは、一旦今日で終わり。
本当にこの国を離れたくないんだなと、軽く暗殺者である自分に対して自嘲する。
レドモンドの部屋の前まで来た。
冷え切った手でドアをノックする。
冷淡なその音は怖いぐらい廊下に響いたので、気付かれないか辺りを見回し、気付かれていない事を確認してホッと溜息を吐く。
するとドアが少し開いた。
クロノスはドアノブを引き部屋に入る。
「来たか…クロノス」
「レドモンド…お前今日寝てないな?」
レドモンドが疲れ切った声で「はは」と苦笑いを零す。
このいつも通りのやり取りも…今日で…。
「よく分かったな、流石はクロノスだ。一応、何故気付いたのか?参考までに教えてくれないか?」
「第1に声に生気が宿ってない。いつも無駄に響く声が途中で死んでる。そして、目に隈が出来てるぞ?」
最後の指摘にレドモンドがゆっくりと目の周りを擦る。
「隈だと?化粧で隠した筈だが?」
「化粧など好き好んでしないお前が化粧してる時点で怪しいさ。そして化粧とお前の死んだ声から、寝不足である事が大体察する事が出来る。因みに最近お前の部屋の出入りが過剰である事も気付いた要因の1つだ。とすれば化粧を施す理由は仕事のせいでできてしまった寝不足の証拠である目の隈を隠す為。違うか?」
レドモンドが張り詰めていた物が全て解けたように力無く椅子にもたれかかった。
「はは参った!降参だ!流石の洞察力。あっぱれだ」
「おい!そんな大きな声出すな!周りの連中に気付かれるだろ!」
「おおっとそうだったな。いや〜失敬失敬」
頼むぜ、まじで。
クロノスは思わず呆れの溜息を吐いた。
「もう、行くんだな…」
力無き声でも、そこには慈愛の感情があった。
「ああ。そうだ」
「クロノス…本当に…すまない」
「やめてくれよ。せっかく覚悟が固まったのに。皮肉か?」
悪戯心を含むそのクロノスの笑み。
だがそこに嫌味はなく、クロノスなりのコミュニケーション。
「そうか。では直ぐに出発してくれ」
「ああ。元よりそのつもりだ」
クロノスは踵を返してドアに向かう。
「クロノス!」
ドアを目前にした時そんな声がかかる。
後ろを振り返れば、レドモンドが椅子から立ち上がっていた。
「どうした?まだ何か?」
返事が返ってこない。もうこのまま無視して行こうかとしたその時、レドモンドがようやく口を開く。
「幸運を祈る。無事に返って来いよ」
クロノスは口角を吊り上げて、穏やかに笑い返した。
「ああ」
クロノスはレドモンドの部屋を後にして、次はユリウス王女の部屋に向かう。
片付けが終わり、ユリウス王女を部屋まで送っていた時、ユリウス王女に「明日城を出る時は立ち寄ってくださいね?」と強く言われたのだ。
部屋の前まで辿り着き、ノックをする。
「はい。どうぞ」
するととても綺麗な声が帰ってきた。
扉を開けると、ひだに様に薄く、透明度の高い寝巻き姿のユリウス王女が窓の前に立っていた。
下着が浮き出ており、豊満な胸のラインが完璧に出ている。
妖艶を際立たせるそれは、非常に際どく、目のやり場に困る。
「クロノスです。ユリウス王女と約束した通り来ましたがぁ?」
後半の声が裏返る。
もういろいろ服に問題があるユリウス王女がクロノスに抱きついたのだ。
「もう何も言いません。言ってもクロノス様は制止も聞かずに行ってしまいますから。だから…最後だけ、クロノス様…」
ユリウス王女が目を潤ませて上目遣いでクロノスの顔を見る。
その様子はいつも凛々しい姿とは打って変わって何処か頼りなかった。
「キス…して…して下さい」
「…っ」
ちょっと驚いた。
ユリウス王女が、普通の女の子っぽく見えたからだ。
ユリウス王女が目を閉じて口を近づけてくる。
その為により、大きなメロンがクロノスの体に密着してくる。
二箇所からの同時攻撃。これには稀代暗殺者でもなすすべなし。
唯一の最適解は…
クロノスはユリウス王女と暑いキスを交わした。
理性の権化であるクロノスはこの先まで求めたりはしない。時間も押してきているので、すかさずユリウス王女を優しく離した。
「クロノス様…ありがとうございます!」
満面の笑みとはこの事を言うのだろうか。
美の女神であるアフロディーテにも引けを取らないレベルで、とても嬉しそうに。
「どう致しまして、っ!」
ユリウス王女が今度はクロノスの頰にキスをした。
完全な不意打ちで、クロノスは思わず頰を触る。
「もっと先も…正直したかったのですが、仕方ありません。今回だけ今ので勘弁してあげますね。うふふ」
クロノスの頰が久しく赤らむ様をユリウス王女は可愛らしく笑う。
「クロノス様…どうかご無事で」
ユリウス王女がそう言ってクロノスを外に追い出した。
急すぎた展開だったが、その事に対して動揺はせずクロノスは姿勢を正して扉の先を見て…
「今まで、ありがとうございました。ユリウス王女。
お元気で」
そう言ってクロノスは部屋を後にして、王城の玄関口に向かう。
しかしクロノスは、扉の先で滴り落ちる涙を…知らない。
️ ️ ️
王城を出る時は既に空はまだ暁の名残が残るものの、青に染まっていて、衛兵や使用人達も起きて各自の仕事に取り掛かっていた。
レドモンド曰く、「王城に勤める者達や騎士団には既にクロノスが任務で遠くに長い間行く事を知らせた」と言っていたので、王城を出るまでは、別れの挨拶で大変だった。
しかも、国民も俺が新たに任務に赴く事は話したと、レドモンドが悠長に言いやがったので、帰ってきた時は一発ぶん殴ると決めたクロノスであった。
街に出てもクロノスの出発する事を寂しく思う者や
応援の言葉を送る者などいたが、一番辛かったのが、子供達が泣きながら「行かないで!」と群がれる事だった。
まじで泣くかと思った。
行きつけの店に立ち寄って、店主と最後の雑談をし、俺の大好きだった酒をもらった。
別れを惜しみながらも先に進む。
そして外門をくぐる。
背の向こう側から、沢山の人の気配と声援が聞こえる。
その気配から街の人口の8割がいる事が分かった。
本当にどこまでいい人達だよ!
クロノスは大きく右手を挙げ、アウストレア王国の国民や騎士達や門番の人達に別れを告げた。
ここに決意する。
この任務を無事に終わらせて、この我が母国、アウストレアに戻る事を。
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