世界を始める戦争か、もしくは最後の聖戦か〜敵国同士の剣姫と暗殺騎士
任務の準備1
王の間を後にしたクロノスは自室に向かうべく、果てしなく長い回廊を歩いている。回廊は中庭と隣接しており、中庭と言うには、完全に広場と言える程広々とした空間で、窮屈さを感じさせない作り。
王城を建てた人はとても配慮の出来る人格者だっただろう。勝手な推測論だが。
狭間を吹き抜ける風がとても心地よく、庭園の花の香りをこの場にいる人達と共有させてくれる。
この場所は本当に王城なのか?と言わせる程雰囲気が温かい。貴族は貴族同士「オホホホ〜」と高笑いは勿論の事、子供達まで庭で何の緊張感もなく遊びに興じている。
しかしそれを咎める者はいず、寧ろその光景を楽しんでいるようにすら見える。
王城とはとても思えない程、温かいのだ。
本来は貴族と使用人達は仲が良い筈はないのだが、王宮に仕える使用人達は気軽に貴族の婦人達と積極的に関わっているし…
この国は良くも悪くも階級差〜ヒエラルキーの意識が薄い。平民もそれぞれ特定の貴族とだが、交流をしている風景は珍しくない。それでもこの国が崩壊せず政治出来ているのは、ひとえに皆の悪行に対する意識の高さである。
盗みや殺しは無論処罰の対象であり、他の犯罪も厳格に抜け目無く行われる。
犯罪による行き違いが非常に少ない。
世界がどれ程広いかも、どれ程の国が存在するかは知らないが、この国は間違いなく幸福度が高いだろう。
一部を除いて…。
「あっ。クロノスおにいちゃんだぁ〜!」
「あっ本当だ!」
「クロにいぃ〜!」
近々この暖かい国を出るからか、久しく感慨に浸っていると、中庭で遊んでいた子供達が一斉にこちらに走ってきた。
やめてくれよ。余計に名残惜しくなる。
「よぉ〜元気かお前ら」
しかし子供達のこの無邪気な笑顔を見せられれば、例え冷酷無悲な暗殺者でも肩なしな訳で。
クロノスは暗殺者とは思えない穏やかで柔らかい笑顔で子供達と戯れる。
「クロノスおにいちゃん!ひさしぶりぃ〜。あえてうれしいよぉ〜」
そう言いながら俺の頭の上によじ登ろうとする女の子一人。
「ああ〜ずるい!俺も登りたい!」
そう言いながら俺の頭の上によじ登ろうとする男の子一人。
「ああおれも!」「わたしもわたしも!」
それに続きよじ登ろうとする子供達。
可愛いな畜生!
「こらこら、危ないだろ。そらよっとぉ!」
クロノスは最初によじ登ろうとして来た二人の子供をそれぞれ肩に乗せた。
「うわぁーたっか〜い!」
「スゲェェ!」
「そんなに嬉しがってくれるなら、何度でもやってやるよ」
「いいなあぁ〜わたしもやりた〜い」
足元を見てみれば、何という事でしょう!
純情でうぶで可愛くてしょうがない子供達が目をウルウルさせながら直視してくるではないですか。
はあぁ〜全く。何でお前らは…こんなしがない暗殺者に…こんなにも求めてくれるのだろうか?
長年閉じていた涙腺が緩むのを感じつつ、最後に位いいだろうと、クロノスは、貴族婦人達ですら落とせそうな程、慈愛に満ち溢れた笑みを零しこう言うのだ。
「そんな目をしなくても、皆やってあげるからな!」
パアッとこれ以上ない程明るくなった笑顔。
これを見れば、世界だって救える気がしてくる。
本当に良い子達だ。
クロノスは宣言通り全員にやってあげた。
皆嬉しそうに頰を赤らめてお礼を言ってくれるのだから、本当に罪な子達だ。
別に罪はないが。
「楽しそうですね、クロノス様」
最後の子供を下ろした所で、とても綺麗で透き通った声に心を囚われる感覚に陥る。
一切の邪気もなく、純粋な声に。
「これはこれは、ユリウス王女殿下。何故この様な所に王女が?」
声の主はこのアウストレア王国第一王女にして、王位継承権1位のユリウス・フォン・アウストレア王女だった。
清楚で整った顔立ちに、白く健康的な容姿、きめ細やかな銀髪。主張の少ないそれとは裏腹の豊満な胸。
さながら天界の女神様の様なお方である。
「うふふ。敬語は御止め下さいクロノス様。父と同じ様に接して下さい」
柔らかな笑顔とは本来この笑顔の事を言うのだろうか?無垢な子供達のとはまた違った優しい笑顔。
どんな視線も惹きつけてしまう。
そんな笑顔で王女様は言った。
「では御言葉に甘えるとします。ユリウス様は何しにここへ?」
「クロノス様の準備を手伝いに、ですよ。直ぐに任務で出てしまうのでしょう?」
「…!」
知っていたのか。まぁ当然か。王女様だしな。
「そうなのクロノスおにいちゃん?」
「またニンムなの?」
「いっちゃうの?」
子供達が悲しい顔をしてしまった。
子供の悲しい顔が苦手なクロノスである。
「それも、凄く遠くに行ってしまうのでしょう?」
ユリウス王女が態とらしく、遠くを強調して言った所為で余計に子供達の表情が悲しく歪む。
「あらそうなのですかクロノスさん?」
周りに居た婦人達や使用人達も今の話を聞いていたらしく、近くに寄って来た。
クロノスはその質問に押し黙る。
正直に話せば、子供達が泣き出しそうで嫌だったからだ。
でも、そう遠くないうちに風の噂などで聞くことになるだろうから、どうせなら自分の口で言おうとクロノスは決意した。
「えぇまぁ〜それも結構厄介な任務でして、いつ此処に戻って来られるかは正直分からないんですよ」
「えっ!」
「えっ」
王女様がそんな間の抜けた声を漏らしたものだから、素で返してしまった。
えっまさか?王女様俺が任務を受けたのは知っていただけで、内容は聞かされてなかったりとか?
「そうなのですか ︎」
近い!王女様が眼前に迫っていた。後数ミリで触れそうな位。
「ユリウス様近いですよ?もう少し離れて下さい!」
「嫌ですよ!」
えっ。嫌って何で?
訳がわからず、婦人達に助けを求めようと向くが既に婦人達は元の場所に戻って談笑を再開していた。
こいつら!被害が及ばない様そそくさ逃げやがって!
「嫌ですって、王女様、俺は任務の準備あるんでそろそろ失礼しますね」
強引に王女を離した。
「クロノスおにいちゃん…ぐすっ!」
ヤベッ!もう泣きそう!
クロノスはしばし狼狽してから、泣きそうになる女の子の頭をそっと撫で頰に手を添えた。
「ごめんな?お兄ちゃんお仕事があるからまた当分会えそうにないんだ」
「いやだよぉぉ〜クロノスおにいちゃんいっちゃやだー」
遂に堰き止められていた涙が決壊して頰をつたい始めた。
「大丈夫!ちゃんと帰ってくるから、ほら泣くな。なっ?」
「ほんと?ほんとうに?かえってくる?」
クロノスは少し答えに迷った。
実際無事に帰って来たいのは山々だが、失敗する可能性もある。失敗したら十中八九殺されるだろう。
それでもこの子をまず安心させたい!
その為には…
「あぁ必ず帰ってくるよ。だから元気出してな?お前達もだ。いいか?俺が居ない間に決して悪い事しちゃダメだぞ?」
「んっぐすっ!わ…かっ…た」
「うん!」
クロノスは笑いかける。心配させない為に。
婦人達がチラチラと此方を見てくるので婦人達にも挨拶しておこう。
「皆様も、この子達が悪さしないよう、見張ってやって下さい。お願いします!」
「ええ。分かりましたわ。クロノスさんもお気を付けて下さいね?」
「肝に銘じておきます」
こんなにいい人達が住む国なんだ。
もし、レドモンドの旧友が統べる国でも、この国に危害を加えるようなら俺は…鬼にだってなれるんだろうな。
王城を建てた人はとても配慮の出来る人格者だっただろう。勝手な推測論だが。
狭間を吹き抜ける風がとても心地よく、庭園の花の香りをこの場にいる人達と共有させてくれる。
この場所は本当に王城なのか?と言わせる程雰囲気が温かい。貴族は貴族同士「オホホホ〜」と高笑いは勿論の事、子供達まで庭で何の緊張感もなく遊びに興じている。
しかしそれを咎める者はいず、寧ろその光景を楽しんでいるようにすら見える。
王城とはとても思えない程、温かいのだ。
本来は貴族と使用人達は仲が良い筈はないのだが、王宮に仕える使用人達は気軽に貴族の婦人達と積極的に関わっているし…
この国は良くも悪くも階級差〜ヒエラルキーの意識が薄い。平民もそれぞれ特定の貴族とだが、交流をしている風景は珍しくない。それでもこの国が崩壊せず政治出来ているのは、ひとえに皆の悪行に対する意識の高さである。
盗みや殺しは無論処罰の対象であり、他の犯罪も厳格に抜け目無く行われる。
犯罪による行き違いが非常に少ない。
世界がどれ程広いかも、どれ程の国が存在するかは知らないが、この国は間違いなく幸福度が高いだろう。
一部を除いて…。
「あっ。クロノスおにいちゃんだぁ〜!」
「あっ本当だ!」
「クロにいぃ〜!」
近々この暖かい国を出るからか、久しく感慨に浸っていると、中庭で遊んでいた子供達が一斉にこちらに走ってきた。
やめてくれよ。余計に名残惜しくなる。
「よぉ〜元気かお前ら」
しかし子供達のこの無邪気な笑顔を見せられれば、例え冷酷無悲な暗殺者でも肩なしな訳で。
クロノスは暗殺者とは思えない穏やかで柔らかい笑顔で子供達と戯れる。
「クロノスおにいちゃん!ひさしぶりぃ〜。あえてうれしいよぉ〜」
そう言いながら俺の頭の上によじ登ろうとする女の子一人。
「ああ〜ずるい!俺も登りたい!」
そう言いながら俺の頭の上によじ登ろうとする男の子一人。
「ああおれも!」「わたしもわたしも!」
それに続きよじ登ろうとする子供達。
可愛いな畜生!
「こらこら、危ないだろ。そらよっとぉ!」
クロノスは最初によじ登ろうとして来た二人の子供をそれぞれ肩に乗せた。
「うわぁーたっか〜い!」
「スゲェェ!」
「そんなに嬉しがってくれるなら、何度でもやってやるよ」
「いいなあぁ〜わたしもやりた〜い」
足元を見てみれば、何という事でしょう!
純情でうぶで可愛くてしょうがない子供達が目をウルウルさせながら直視してくるではないですか。
はあぁ〜全く。何でお前らは…こんなしがない暗殺者に…こんなにも求めてくれるのだろうか?
長年閉じていた涙腺が緩むのを感じつつ、最後に位いいだろうと、クロノスは、貴族婦人達ですら落とせそうな程、慈愛に満ち溢れた笑みを零しこう言うのだ。
「そんな目をしなくても、皆やってあげるからな!」
パアッとこれ以上ない程明るくなった笑顔。
これを見れば、世界だって救える気がしてくる。
本当に良い子達だ。
クロノスは宣言通り全員にやってあげた。
皆嬉しそうに頰を赤らめてお礼を言ってくれるのだから、本当に罪な子達だ。
別に罪はないが。
「楽しそうですね、クロノス様」
最後の子供を下ろした所で、とても綺麗で透き通った声に心を囚われる感覚に陥る。
一切の邪気もなく、純粋な声に。
「これはこれは、ユリウス王女殿下。何故この様な所に王女が?」
声の主はこのアウストレア王国第一王女にして、王位継承権1位のユリウス・フォン・アウストレア王女だった。
清楚で整った顔立ちに、白く健康的な容姿、きめ細やかな銀髪。主張の少ないそれとは裏腹の豊満な胸。
さながら天界の女神様の様なお方である。
「うふふ。敬語は御止め下さいクロノス様。父と同じ様に接して下さい」
柔らかな笑顔とは本来この笑顔の事を言うのだろうか?無垢な子供達のとはまた違った優しい笑顔。
どんな視線も惹きつけてしまう。
そんな笑顔で王女様は言った。
「では御言葉に甘えるとします。ユリウス様は何しにここへ?」
「クロノス様の準備を手伝いに、ですよ。直ぐに任務で出てしまうのでしょう?」
「…!」
知っていたのか。まぁ当然か。王女様だしな。
「そうなのクロノスおにいちゃん?」
「またニンムなの?」
「いっちゃうの?」
子供達が悲しい顔をしてしまった。
子供の悲しい顔が苦手なクロノスである。
「それも、凄く遠くに行ってしまうのでしょう?」
ユリウス王女が態とらしく、遠くを強調して言った所為で余計に子供達の表情が悲しく歪む。
「あらそうなのですかクロノスさん?」
周りに居た婦人達や使用人達も今の話を聞いていたらしく、近くに寄って来た。
クロノスはその質問に押し黙る。
正直に話せば、子供達が泣き出しそうで嫌だったからだ。
でも、そう遠くないうちに風の噂などで聞くことになるだろうから、どうせなら自分の口で言おうとクロノスは決意した。
「えぇまぁ〜それも結構厄介な任務でして、いつ此処に戻って来られるかは正直分からないんですよ」
「えっ!」
「えっ」
王女様がそんな間の抜けた声を漏らしたものだから、素で返してしまった。
えっまさか?王女様俺が任務を受けたのは知っていただけで、内容は聞かされてなかったりとか?
「そうなのですか ︎」
近い!王女様が眼前に迫っていた。後数ミリで触れそうな位。
「ユリウス様近いですよ?もう少し離れて下さい!」
「嫌ですよ!」
えっ。嫌って何で?
訳がわからず、婦人達に助けを求めようと向くが既に婦人達は元の場所に戻って談笑を再開していた。
こいつら!被害が及ばない様そそくさ逃げやがって!
「嫌ですって、王女様、俺は任務の準備あるんでそろそろ失礼しますね」
強引に王女を離した。
「クロノスおにいちゃん…ぐすっ!」
ヤベッ!もう泣きそう!
クロノスはしばし狼狽してから、泣きそうになる女の子の頭をそっと撫で頰に手を添えた。
「ごめんな?お兄ちゃんお仕事があるからまた当分会えそうにないんだ」
「いやだよぉぉ〜クロノスおにいちゃんいっちゃやだー」
遂に堰き止められていた涙が決壊して頰をつたい始めた。
「大丈夫!ちゃんと帰ってくるから、ほら泣くな。なっ?」
「ほんと?ほんとうに?かえってくる?」
クロノスは少し答えに迷った。
実際無事に帰って来たいのは山々だが、失敗する可能性もある。失敗したら十中八九殺されるだろう。
それでもこの子をまず安心させたい!
その為には…
「あぁ必ず帰ってくるよ。だから元気出してな?お前達もだ。いいか?俺が居ない間に決して悪い事しちゃダメだぞ?」
「んっぐすっ!わ…かっ…た」
「うん!」
クロノスは笑いかける。心配させない為に。
婦人達がチラチラと此方を見てくるので婦人達にも挨拶しておこう。
「皆様も、この子達が悪さしないよう、見張ってやって下さい。お願いします!」
「ええ。分かりましたわ。クロノスさんもお気を付けて下さいね?」
「肝に銘じておきます」
こんなにいい人達が住む国なんだ。
もし、レドモンドの旧友が統べる国でも、この国に危害を加えるようなら俺は…鬼にだってなれるんだろうな。
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