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私だけの世界

いおちょす

修学旅行〜初日〜鈴木(1)

「え?」
鈴木が困惑を隠せないような、そんな声を発した。鈴木の胸に突き刺さったナイフ、そのまま鈴木は膝から崩れ落ちるように倒れた。どこを見てるかわからない、力なき眼差し、立ち上がろうとしているのか、手を床につき体は痙攣している。
「うぅ、あぁ、あぅぁ。」
なにかを喋っているのだろうか、それすらもわからない、言葉ですらないうめき声をあげ、その後すぐに動きは無くなった。

「ふふ、ふはははは、ふはははははははっ」

夜の旅館の共同トイレの中で宮藤聖都(くどうまさと)の笑い声が響く。こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。小学生の頃か?それとももっと前か?否だ、ここまで快楽に溺れ、ここまで高揚し、ここまで楽しんだことは人生で一度たりともない。目の前に流れる血、半目を開き、力なくそこに仰向けで倒れている同級生の姿を見て、俺は大満足だった。

「なぁ鈴木、調子どうだ?俺もさ、死ぬときの感触一度は味わってみてぇよ。俺より優秀になったな?代わりに俺は人を殺す感触味わえたぜ、ありがとうな鈴木、お前はまじでいい友達だったよ。お前とさっき“一緒に遊んだ„時が人生で1番楽しかった」

たったの一刺し、力はいらなかった。するりと肉体を刃が通り抜け、肉が刃の形に突き刺さっていく感覚があった。先ほどまでなにも怪我などしてもいない肉体に、今は俺が突き立てたナイフが刺さっている。
それだけで鈴木の血の気はすでにもうなく、真っ白な顔をしている。倒れている俺の親友の姿は、もはや芸術としか言わざるを得ないほど、見事な形(なり)をしていた。



俺がまだ小学生の頃、俺は何にでも興味を持つ子供だったと思う。ピアノに興味を持ち、ピアノを始め、小学生の頃は発表会にも出たことがあったり、数学に興味を持ち数学検定を受けたりと様々な分野に興味を持って、それを全て実行してきた。

そんなある日、普段なら特に気になるはずもない、時計がわりとしてつけていたテレビのニュースで殺人事件の犯人が捕まったと報道。もちろんそんなことに興味はなく、適当に聞き流していたのだが、犯人は被害者の娘で、その供述が
「内臓をこの目で見てみたかった」
とテレビで報道され、耳を疑った。「内臓が見てみたい?なんだそれ?」と心の中で思ったものの、たしかに少し興味があることであった。

ただそれよりも、内臓が見たいという理由で、自分の母親を殺してしまうという、そっちの気持ちの方がどうしても気になった。

「自分の母親を殺す?母さんが死んだら悲しく思うが、死ぬのではなく自分の手で殺してしまう?どうなってるんだ?」

幼いながらも自問自答をし続けたのを覚えてる。そこから先はもう迷宮で、自分で答えは出せなかった。そこで行き着いたのが、-自分で試すしかない- 
ただそれだけだった。



「さて、どうするか。」
誰にいうわけでもなく、ましてや目の前の“芸術„に対しても同様に、俺は1人つぶやいた。凶器は昼間にみんなで修学旅行中に回った店で買ったなんの変哲も無いナイフは未だ刺さったまま。パジャマとして着ている、学校指定のジャージや手は血まみれ。今ここで誰かが来たら俺は完全にアウト。

「知的欲求を満たしたかっただけなんになぁ。ここで誰かに見られて捕まっちまったら、意味ねぇよな。理にかなってないっていうか、もうちょいだけ“楽しみたい„」

俺は血を浴びた服を脱ぎ、ナイフを抜いて、脱いだ服を傷口に当てるように鈴木に巻いてやった。そしてトイレの外から足音が聞こえてくる頃

「おい鈴木!!おい!!!鈴木!!!!」
と大声で叫んだ。

するとドアが開かれ

「おい!うるさいぞ」

俺たちの担任でもある体育教師が顔をのぞかせた。
だが、流石の体育教師である若松先生でも、この現状を見て、なにも理解できないという顔で、いつもは鋭いはずの目つきも、今となっては口を広げ目は見開かれ、焦点もどこにあるのかわからないような滑稽な表情をしていた。

「ど、どうした?」

先生が言った。いつもの大きな声とは違い、ただ呆然に、現状把握が出来ずに発した、力なき声であった。俺は泣きながら

「鈴木がぁ、鈴木が、、先生。どうしよう、血が、、血が。」

むせび泣くような声(演技)で先生に訴えかけた。先生はそこに立ち尽くしたまま何も言わず、どうしたらいいかわからない様であった。痺れを切らした俺は

「先生ぇ、、ぎゅう゛ぎゅう゛しゃ゛〜!はやくぅ…」

またもむせび泣くような声で迫真の演技をし、先生に向かって叫んだ。

「あ、あぁ。」

先生はなんとも頼りのない返事をし、携帯を取り出して救急車を呼んだ。

救急車が来るまでの間俺は、「鈴木!」と叫び続けた。

 救急車のサイレンが近づいてくる頃、他の男子生徒がトイレの利用のためかトイレに近づいて来たようだが、先生が入り口前で入れないようにした。

だが、先生の肩越しから、その生徒がこちらを覗いてくる。
上裸で膝をついている(明らかに変態な)俺と、床に広まっている赤い液体、そしてそこに、一人の男が倒れている。流石にその生徒もそれを見てただ事ではないと悟ったのか

「先生!なにがあったんですか!」

と叫ぶように訴えかけ、応答を求めた。それに対し、

「今から救急車が来る。事情は俺にもわからないが、あそこに倒れてるのは鈴木だ。今救急隊が来た。入り口を開けろ」

と先生が言った。いや塞いでるのはあんたも一緒や!と思い「ふふっ」と笑いが出てしまったが、泣いてるフリをしてごまかした。

救急隊が来るまでの間、俺は体の震えが止まらなかった。高揚感からか、はたまた罪悪感なのか、頭と感情が追いついていない。ただ俺は目の前の俺の親友の姿になんとも愛おしい気持ちとなり、「鈴木」と訴えかけながら、頭をずっと撫でていた。

そうこうしているうちに、救急車の音がどんどん近づいて来ており、そこから少しした頃、救急隊が駆けつけて来た。

「通りまーす」

と救急隊の人が担架を持って来た。だが、鈴木の状態を確認した後搬送をすることなく、救急隊の一人が警察を呼んだ。俺はといえば「へぇー、死んでるってわかってるし、ナイフもそこに落ちてるからかわからんけど、事件性の疑いを見て、警察呼ぶんだ〜。」と少し関心をしていた。

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