いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第十七話 新たな出会いと狂気のうさぎ

【霊創法御館大社・階段前】
「遅い」
「開口一番それですか・・・こっちはいつ来るか分からない敵から逃げながら茉莉愛さんを連れてきたのに」
 綾がうんざりとした態度で私を非難するが・・・あの事件から数カ月。私は身元不明になっていた茉莉亜を確保したこの烏人間を普段の行いからして敬意を表するのに躊躇っていた。なにせこいつは売れそうなネタはプライバシー関係なく記事にする。その癖自分のスキャンダルやらボロは書かない。立派なプライバシー侵害常習犯だ
「こっちは頑張ったんですからね!なにか対価があってもいいと思うのですよ!!」
 口調はうざったいが嫌な感じは不思議としない。こいつに部下が未だいないのが驚きだ。
「にしても、玲華さん?最近なにかありましたよね?近々里の辺りで見知らぬ男が魚屋の店主と親しげに話していたとか」
「・・・」
「変ですよね?だって魚屋の店主と言えば白煉の家にしか懇意にしないと有名なのに、明らかにその部外者に懇意にしている・・・今回のお代はこの情報について」
「・・・はぁ、分かった」
「おお!!それでこそ白煉の家の巫女!!これからもご贔屓に!!」
「アンタの新聞なんてどうでもいいわ。ただアイツの事を知らない奴らが多すぎる。  変に不信になられでもしたら迎え入れた私の家の責任になるの。あくまでアンタを利用するだけよ」
 多少強めに忠告するが、逆にニマニマした顔で「はいはい、まったくツンデレですね」と楽しげに見てきたので取り敢えずはシメとく。
「れ、玲華さん・・・今日も・・・随分と・・・過激で・・・」
「誰のせいだと思ってるのよ」
 掴んでいた首を地面に向かって放り投げる。うなじから落ち小さくバウンドした。
「いたた・・・もう!少しは手加減してくださいよ!」
「手加減したわよ・・・まったく」
「・・・今ので手加減か・・・流石の巫女だ」
「ちょっと!紅葉、私を怪力女みたいに言わないでよ!!」
「・・・事実」
「なんですって?」
「・・・なんでもないです」
「おぉっ!?あの紅葉が怯えている!!」
 確かに、中々見ない。
 紅葉とはあまり会わないのも事実だがイメージとしては冷静な顔をいつもしているような人物だが今は、顔に冷や汗と怯えた目が貼り付けられている。犬耳は後頭部に向かって垂れて怯えている。
「これは・・・売れます!!売れますよぉ!!」
 大の字に寝そべりながら喜々とした顔で懐からメモ帳を出しメモし始める。が、その動作に瞬間的に気付いたのか紅葉が鳥居の前から犬の獣人らしい脚力で加速して綾をメモ帳ごとストンプした。
「ぶごっ・・・!?」
「・・・いい加減にする!!」
 もしかしたら、私は勘違いをしていたのかもしれない。冷静沈着、無愛想が私の中の紅葉と言う人物像だが、こうして怒って顔を真っ赤にして犬耳を縦に立てる仕草を見ていると・・・なんだ、ただの女の子にしか見えない。
「・・・うえへへ、紅葉ぃ?ストンプしたままでいいんですか?」
「・・・どういう!?」
「下着。丸見えで――――――」
「・・・っ!!ばかっ!!」
 そのまま紅葉はストンプせずに綾の顔面向けて踵落としを決め込んだ・・・なるほど確かに綾の気持ちもわからなくもない。
 踵落としの衝撃で風に揺らめいた長いスカートがめくれ、清楚な彼女に似合うレースたっぷりのミントグリーンの可愛らしい下着ことパンツが一瞬だけ見えた。私はああ言うパンツが似合う女ではないので多少羨ましく感じる。
「・・・顔が・・・めり込むように・・・痛い」
「自業自得よ」
「へいへい・・・茉莉愛さんの容態はどうですか」
「先にそっちを聞きなさいよ・・・衰弱もあるけど大体は安定しているわ・・・一週間は安静って所ね」
「・・・一週間!?・・・巫山戯てるの?あの状態だと一ヶ月でも足りない!」
「そうね、紅葉。"普通"なら、普通だったらそれ位かかるでしょうね。けれど、私と茉莉愛は違う。白煉と霧醒の家は代々傷病の治りが早いの、異様に、ね」
「確かに、歴史的にも有名ですね。・・・しかし霧醒家は・・・」
「・・・流石に限界が近い」
「言わないでよ・・・薄々気づいていたけど」
 ふすまの奥に眠る茉莉亜を思う。霧醒家は亜里沙さんの世代でその力を衰えさせている。なんとかできることはないかできる限り伝手で情報を探しているが・・・中々見つからないものだ。
「・・・話は変わるが、最近神社近くの森に変な家が建った」
「なんですと!!?紅葉!それは本当ですか!!」
「・・・揺らすな、それに本当だ」
「おぉ・・・っ!!」
 綾が感極まったと言ったように目を輝かせる・・・ちょうどいい。ここで社の事を話しておこう。
「その家がさっきの男の家よ。例の紅華館の事件の賠償代わりにだって。」
「・・・なるほど、納得」
「それでそれで!!?玲華さん!ズバリ貴女とその男性との関係は!?」
「ちょっとした協力関係よ・・・詳細は本人に聞きなさい」
 そこに小さな笊に一杯の野菜を抱え込んで手を振る社が歩いてきた。












「ふおぉ!!!男性!お名前は!?」
「うぇぇ!?」
 誰この子!?
 玲華の神社の前で黒髪の女性に興奮した様子で食いかかってきた。ヘルプを目線で玲華に送るが親指を首に突き立てて横に切るポーズをしている。えぇ?シメていいの?
「あ、はじめまして。アタシ新聞屋をやっております在風 綾です。早速ですが貴方について多少お聞きしたいことが―――――」
「誰!?」
 その時、真っ白い獣人の女の子が耳を立て尻尾を逆立たせている。犬っぽいな。
 その声に釣られて獣人の子が掛けた声の方に振り向く。
 そこには何もなかった。何もいなかった。筈なのに妙な不安を感じさせた。何故だろうか。緊迫した声に引かれたからだろうか。
 人間心理ではあり得る事なのに、異常な位の心音が、静寂の中でそれを駆り立たせる。
 声なき場所に一人いる感覚。
 ふとある実験の事を思い出した。音を吸収する壁と床に包まれた空間に一人で一週間を過ごす実験。被験者は部屋の中で何をしてもいいと言う条件の下で行われたが結果として





 被験者は発狂した。












 実験開始二日目で。睡眠食事衣服全て揃っていたにも関わらず。
 その感覚がわかる気がする。声を出せば自分のが聞こえるからまだマシだが。
「何も見当たらないけど・・・皆?」
 振り向いてみんなの方を見る、がしかし
「え・・・?」
 戦っていた。さっきの白い子と玲華と在風さんが。三竦みで。
 その隣をみると。
 赤い目を爛々と光らせニタニタ微笑んでいる。うさ耳で、藤色の髪を長くストレートに伸ばし服は大正ロマン・・・と言う奴だろうか。アルバムでおじさんの学生時代の頃の学生服に近い服を着ている。
 ふと、うさぎの子がこちらを振り向いてその顔を驚きに彩らせる。
「驚いたのです・・・私の狂気の世界インサニティッドワールドを振り切るのがただの人間だとは・・・多少なりとも自信が失せるのです」
 どうやらこの人はこの現状を作り出した本人のようだ。その事実に汗がでる。
「・・・君は?」
「です?・・・あぁ、そうですね。確かに失礼でした。私は"濃霧の竹林"その最奥の病院にて看護医をさせてもらっております『石動彼岸宮稲葉蘭いするぎひがんぐういなばらん』です。どうぞ蘭とお呼び下さいです」
 ペコリとお辞儀をしながら笑う蘭と名乗った少女はしかし、そこにある笑みは常人がするような微笑みでは無く文字通り狂気を孕んだものだった。

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