いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第十四話 姉妹喧嘩、勃発。

【紅華館・最奥】

「これはこれは、我の館に何用か?白煉の巫女殿?」
「分かって言ってるでしょ?外の霧を晴らしてもらうわよ!」
 ステンドグラスが不気味さを掻き立て、部屋の小さな灯りだけがソイツの姿を映し出す。
 吸血鬼。血を啜り生きるノスフェラトゥ
 レースをあしらった白のドレスに、リボンでワンポイントが付いているベレー帽らしき帽子。
 白い夜を思わせるその吸血鬼は悠然と空を揺蕩い私達を見下す。
「悪いが、出来ない相談だ。本計画は我ら吸血鬼の悲願。日の当たらぬ理想郷を作り出す第一歩なのだ」
 ケタケタと姿だけ少女の鬼はおかしいのか笑ってる。
「そ、悪いけど止めさせてもらう。」
「・・・・・・ほう?」
 紫芳のたくましい言葉に吸血鬼が反応する。
 突如。
 室内なのに風が吹き荒れ、床がえぐれる。
 まるでクッキーを砕くように、容易く。











「――――――なれば、やってみせよ」
 感じたのは、猛烈なプレッシャー。
「たかが凡愚が、我に叶うと思うなよ?」
「構えて!!紫芳!・・・本気で行くわよ!!」
「・・・ん!!」
 紫芳が頼もしい位の首肯と覚悟を顔いっぱいに浮かべる。
 正直、見るのも申し訳無い位だ、こんな小さな子に任せるなんてなんて情けない所まで落ちてしまった。だからせめて、この娘だけは守り通す!!!
「・・・ふむ、ならば楽しませて見よ。"三十分"ほどな?」
 それで十分だ、と言わんばかりにヤツは何もない場所から光の槍を投げてきた。












【紅華館・最奥】

「そ・・・そん・・・な!?」
「こんなのって・・・」
 最早圧倒的な力の差になす術無く私達は倒れ込む。服は所々裂けて、自分の肩を見れば深い傷痕と治癒が中途半端で完了した結果の裂傷。生々しい血肉が小さく見える。
「三十分でも、有り余る。我が眷属はこのような輩にやられたとなると・・・情けない」
 悠々とステンドグラスの空を舞う吸血鬼を恨みがましく睨む。
 魅力的なソプラノの声が悪魔のそれに聞こえる。そう、三十分とこの館の主である彼女は宣言していたが実際は十分掛かっていない。
 私達の攻撃は全ていなされ、カウンターで仕留められる。それをニ、三回繰り返されてこれだ。
「・・・これで、理解出来たであろう?幾ら巫女の力とはいえ種の差は埋められん。素直にお帰り頂こう、それが認められぬと宣うのなら、夜に消えよ!!」
 吸血鬼が未知の力で大きな槍を生成する、不覚にもそれは赤黒い血の色で、まるで今にも私達が射抜かれ其の血だまりで出来たかのような。
「紫芳・・・に、逃げ・・・て」
 隣に倒れ込み意識が先程途絶えてしまった、私より幼い少女に声を掛ける。
 そこには小さな血の海が形成されていた。服は赤黒く染まり、綺麗な銀髪も血で濡れてベタベタだ。
 かく言う私も、似たような状況なのだが、余り自分の事は気にならない。
 目の前に死が迫って来る。
 世界がスローに見える、私達は死んでも死なないから今度は、今度こそは。とても悔しいが次に託そう。
 青空を取り戻すためなら・・・。
 そうして、槍は私達を――――――




















 貫かなかった。
 槍の進行が何者かによって阻止されている。
「おっす!おまたせ!」
 倒れた私の隣に立った社は戯けながら声を私に掛ける。
「・・・ホントに、遅いわよ。どこ行ってたの・・・よ」
 そこで、私の意識は暗い世界に引き込まれた。












【紅華館・最奥】

「っ!!?」
 俺達が来たときに見たのは、巨大な血の海に浮かぶ玲華と白を編み込んだロリータドレスが紅に染まってしまった紫芳が巨大な槍に貫かれる直前だった。
「っ!!早くしなきゃ!!」
 慌てたように俺の隣を駆けた少女。黄金のサイドアップが一直線に飛び抜けるのを追い目で見ていた。
「"焔よ、蒼天を穿け!万象を灼き喰らい、数多の息吹を消し去れ!!レーヴァティン"」
 フランが何か唱えたかと思うと、その手には不定形の焔の剣が握られていた。
 フランはそれを番えたまま大きな槍に突っ込み跳ね除けようとする。
 その隙に無事を確認すべく駆け寄る。
「おっす!おまたせ!」
 あくまで心配させない為、"演じる"。戯けたように見せて、その奥にある感情を見せない技術は・・・悲しい事かな、現実世界で嫌なほど鍛えた。
「・・・ホントに、遅いわよ。どこ行ってたの・・・よ」
 糸が切れたように玲華が寝息を立て始める。
 無理もない。
 なんせ鈴さんと望月さんとの連戦で疲れているのに、この強敵と戦っていたのだ。
 流石、白煉の巫女は伊達じゃ無い。それは紫芳にも言える事だ。
「ゆっくりしてな・・・さて」
 目の前に立つ敵を見据える、フランが足止めをしているが・・・いつまで持つか分からない。
「行くぞ錺。・・・反撃開始だ!!」
『あぁ!!「第肆十伍章・参十弍文:白さに閉ざされし世界より、蘭と菊とを並べたもう!凪に囲われしその煌々たる瀨は咲耶此花さくやこのはな姫の吐息なり!!!」』
 錺の声が頭の中で響く。
 魔術の詠唱のような物を唱えると、持っていた本がゆるく淡い乳白色の光を放ち本のページが破れ、中に浮き、俺とフランの周りに揺らめく。
 それはやがて見えなくなるが、よく見ると景色が先程まで揺らめいていたページのところだけ歪んで見える。
「お兄様、ありがとう!!」
「いいって!そっちはそっちで頼む!!」
「・・・フランッ!?」
 敵の動揺が手に取るようにわかる、フランの、妹の反逆に驚いているのだろう。
 フランの目を見て、その後キッと俺を睨めつける。
「貴様・・・!!たかが人間如きが、私の家族になにを誑した!!!」
「誑かしてなんかいない!!お姉様!まだ分からないのですか!?」
「黙れ!!人間如きに誑かされるなど・・・我が家の恥よ!!」
「そっちこそ!!わたしを一度だって外に出す所か!能力の制御の確認すら来なかったじゃないですか!!」
「それは、貴女の事を思って!!」
「嘘よ!!なら・・・なんでわたしだけ一人ぼっちにしたのですか!!?」
「このッわからず屋!!」
「お姉様こそ!!」
 焔の剣と敵の槍が交錯する、ぶつかる度高エネルギーの衝撃波が風圧となってこちらまで届く。
 フランには先程媒体術をかけた、その効果が出始めている。
 敵がやっとバテ始めているのに対し、フランは全くそう言って様子がない、しかも焔の剣は洗練されて来ている。
「・・・これ俺も行ったほうが良いのかね」
『やめておいた方が良いよ、吸血鬼と人間とじゃぁやっぱり性能差が大きい。それに・・・』
 未だ喧嘩継続中の姉妹に目を向ける、両者共に譲れない一点を貫き通す為に刃と切っ先を交え相手の意見を実力を以て押し退ける。
『今邪魔したらいけない。この機会を失えば、次は難しいだろうからね』
「そう言うものか?」
『あぁ、姉妹や兄弟はそう言うものさ』
 俺は親戚の家に引き取られた時に兄妹達もいたけれど・・・でも、一度だって喧嘩した事もロクに話した事も少ない。
 だからこういった事はよく分からないのだ。
「これで・・・分かったでしょう!?お姉様!わたしはお兄様・・・カンザキヤシロ様と外に出るのです!!」
「・・・そう、貴女を誑した奴の名前。ヤシロと言うのね?」
「だから!誑かしちゃいないっての!!」
『バカッ!ヤシロ!反応するな!!』
 途端、息苦しくなった。
 何もされていないのに、首を締められた感覚が首に残っている。
「お兄様!?」
「フラン、協力ありがとう。あとはこの不届き者を煮るなり焼くなりするわ。・・・貴女も早く目を覚ます事ね」
「まさか・・・お姉様・・・絶対服従アブソリュートを・・・!!?」
「えぇ・・・貴女と喧嘩しても私が負けるのは確実なのは一目瞭然じゃない?なら元凶を断つのが早いでしょう?」
「ッ!!!お姉様!!貴女はどこまで・・・どこまで!!!!!」
 どうやら、そのアブソリュードとやらが働いてこの息苦しさが出ているらしい。
 錺の反応を見る限り対象の名前が分かれば使用可能っぽい。
 ってか今のはどう見たってフランのドジだよなぁ・・・あの子なりにお姉さんを試した積りなのだろうけど・・・ってかヤバイどんどん意識がっ―――!!
「やっと言う事を聞くようになったかしら・・・『フランを誑した理由を答えなさい』」
 聞き心地の良いソプラノが意識を侵食する。
 動かしたくもない唇が自らの意思とは別に動く。
「似ていた・・・から」
「『何に?』」
「・・・俺に・・・ここに来る前の俺に」
「ッ!!!貴方に・・・あの子の・・・フランの何が・・・何が分かるのよ!!!」
「何も分かっちゃいないっての・・・!!でも・・・でもなぁ・・・放っておけないんだよ!!あんな暗い場所で!!一人で泣いていて!!あんなの・・・本当に家族がやる事なのかよ!!?」
「ッ!!『黙りなさい!!!』」
 言い足りない口を重くのしかかるように強制的に閉じられる。
 まだだ・・・まだ足りない。
 目を向けると泣きそうなフランの顔が見える。
 もし言葉が伝えられたなら、今ここで泣いている彼女を慰めてやりたい。
『ヤシロ・・・君はどうしたい?』
『もちろん救いたい、あの子も・・・この世界の青空も、里の皆も!!』
『強欲だね・・・でもそうじゃなくちゃ!』
 すると、先程かけた媒体術が発動する。
 そう言えばこの媒体術は状態変化・・・つまり状態異常デバフや疲労と言ったものを無力化。
 咲耶此花姫・・・・・・かぐや姫が不死の薬を帝朝廷に授け、帝自身が兵を用いて天に最も近き山こと現在の富士山に投げ込む話に出てくる神霊の名前だったか。
 霊験あらたかな富士山の守護神。永遠の美を追求し続けた神霊。その権能を模した媒体術ともなれば・・・そりゃ閉じた口も開くわな。
『[永久の方舟、星界の帆、時頼の彼方に揺蕩いて]・・・』
「なっ!?アブソリュードが!!」
「お兄様!!」
「おう!!フラン!!こっちゃダイジョブ!!!」
 そう言うと安心仕切った顔を浮かべる、そして歪な翼を奮わせ焔の剣を携えながら姉に飛んで向かう。
『[久遠の世界、星降りの白矢、引かれし弦は神成の威光]・・・』
 錺の文言が紡がれるのと同時に、体が重くなって行く。
「まって錺、何してるの?」
 ちと不安になってきた、背中に冷汗がだらだらと流れる。
『ちょっとしたおまじないさ、ただ、これが終わったら意識が無くなるから[時の流れは唯一無二の世界より、煌々たり煌々たりと願い臨もう]』
 意識なくなるって!!?怖いんだが!?
 大きな音が響きそちらに目を向き直すと、フランはお姉さんとぶつかり合っていた。
 鍔迫り合いの後、両者距離を取る
「紅玉礼装展開!!!果てを見据えて穿つ槍グングニル!!!」
 お姉さんが何かを叫んでいる。その瞬間、淡い紅色の鎧を纏って蝋の灯りとフランの剣の焔で踊るフランのお姉さんが佇み巨大な槍を携えていた。
「お姉様・・・!!まだ分からないのですか!!紅玉礼装展開!焔を凪ぐ世界の魔剣レーヴァテイン!!」
 フランも同じように叫ぶ。
 似たようなフォルムの鎧がフランに纏わる。焔の剣は確かな形を伴って、刀のような形で権限していた。
『[涅槃の極地に我あり、邪見の渦中に汝あり、それぞれが至る場所は万象須らく光と影舞う地なり]』
 だんだんと、確実に体が重くなって行く。
 そう言えば、スカーレット・・・どこかで聞いた事が・・・あるような・・・ないような。
 それにさっきの二人の力。
 たしか、紅玉礼装だったか・・・それも聞いた事がない気がしない。
 媒体術がかかったこの状態ですら、この異常。
 まるで最初にマーガレトと聞いたあの時の感覚に似ている。
『なるべく意識を保っててよ!![今ここに調律せし運命を崩し、その御身を粗身に顕現したもう]!!!』
「―――――――っ!?」
 錺の声が遠くなって聞こえる、何だか誰かと入れ替わったような奇妙な感じが俺を微睡みに引き寄せる。
 意識と言う概念が雲上の果てにある気がする、上も下も右も左もわからなくなり位置感覚がズレを生じ、存在があやふやになる。
 俺は――――・・・・。。。















 俺の、名前は・・・・・・――――

















 ・・・・・・・・・誰だっけ?
 思い出せなくなった。
 体はあるけど、俺のだと言う自覚が全く無い。
 そもそも、なんで俺なんだ?
 べつに、ぼくでも僕でもおいらでもなんでも良かったのでは?







 どうでもいいか・・・・・・・・・
 あ~、なんか眠くなって来た・・・。
 寝よ。














【紅華館・最奥】

「おに・・・ぃ・・・様?」
 お姉様の槍を受け止めながら横目でお兄様を覗き見るが・・・目は何処か虚ろげで、異常を感じるしかない別人の雰囲気を纏わせていた。
 まるで、"吸血鬼わたしたち"。
 人間に近しいお兄様からは感じる事すらないであろう鬼気と、王の風格。
「ッ!!!今!!」
「お姉様!!やめて!!!」
 今攻撃を喰らえば間違いなく即死は免れない!









 お兄様が・・・死ぬ・・・?











 それは嫌だ、お兄様は・・・わたしを・・・わたしを助けて、外に出す約束をしたのだ・・・なら止める!止めてみせる!
 たとえ彼の英雄蕃神オーディンが振るいし神槍であろうとも、追いついて見せる!!
 わたしはお姉様の投げた槍を追いかける。
 嫌だ!やめて!お願い間に合ってッ!!













【???・???】





 誰かの声が聞こえた・・・何かの約束をしたはずの誰かの声が。












 きっとその約束は、忘れちゃいけない。その誰かにとってとても、きっととても大事な事なのだ。







〜〜〜力が・・・欲しいか?〜〜〜







 今度は知らない声だ、どことなく聞いた覚えがあるような・・・ないような。
「力・・・ってなんだ?そもそも、アンタは誰なんだ?」










〜〜〜質問が多いな・・・しかしそれもまた常か・・・我は古き王だ〜〜〜









 王?王様か・・・しかし、王ならば分かる気がする。王様と呼ばれる系統は、民を治め国を治め未来を導く存在。
 この声にはそんな感じが含まれている。












〜〜〜再度問おう、汝が、汝の願いの為の力を欲するか?〜〜〜









「そりゃ欲しい、なんせ約束しちまったからな」








〜〜〜ほう、それは守らねばな〜〜〜


 とても聞き心地の良いバリトンが嬉々として揺れるのが聞こえた。同時に意識が浮上する。












 そうだ、俺は・・・














 俺の名前は・・・・・・

〜〜〜さぁ立て、我が記憶を受け継ぎし"九代目"。名を忘れ存在を忘れかけた"存在の死"を乗り越え、汝が守るべき約束を果たせ!!〜〜〜












 神裂 社。
 そして、さっきの王様の名前も思い出した。
 あの人は俺の・・・俺だった人のうちの一人。
 俺の、前世とも呼ぶべきひと
 名を【灰の王、アルテラ・EエルドラドKキング・グレイ】













 "一日王"とまで罵られた、愚王だ。

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