いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第十三話 こどくを強いられた少女の救済

【紅華館・地下】

「・・・地下って意外と寒いんだな」
 暗い道を歩く、人工芝に隠された扉の下は梯子になっていた。その先はずっとこうだ。暗くて前も十分に見えない。
『にしても、なんで寄り道なんてしたんだい?今頃、シオリ達は苦戦を強いられている筈。』
「なんとなくな・・・声が聞こえたんだ。いまこうして進んでいられるのはその声がまだ聞こえるから」
『それ・・・幻聴でしたってオチはカンベンだよ?』
「幻聴だったらこんなにサクサク進んでないから安心しろ」
 そう、歩いているのは一歩道じゃ無い。途中曲がり道が多くあったが行き止まりらしき所には行っていない、自然災害用のシェルターだったのだろうか。
「『っ!?』」
 まただ・・・!今度は錺にも聞こえたらしい、頭の中で同じ反応をしたのが分かった。
「なぁ!錺!?今の、どの方向から!?」
『真っ直ぐ行って!数えて二つ目の曲がり道を左!その後直ぐに曲がり道があるからそこを右に!!』
「おーけい!!なるべく全力で突っ走ってみる!!」
 今聞こえたのは、ただの声じゃない!
 "悲鳴"だ。痛々しい位悲痛な叫びだ!
 全力で駆ける!足が先程の二連戦で警鐘を鳴らす!関係無い!今、必要なのは!!
「この声の主を!笑わせて!笑顔にさせる力だけ!!」
 吼える、そして決意する。
 俺にそうぞうの能力が本当の意味で開花しているのならば、ハッピーエンドを作り出せる。いや、作り出してみせる。
 そうしてたどり着いたのは、中ですすり泣く声が聞こえる重厚で、堅牢な特殊合金の扉だった。ノブがあり材質以外は特に普通の扉。
 ノブを捻るとやはり材質の重みがあるが開けられない扉でも無かった。
 その中に居たのは、どんな美辞麗句を並べても比肩すること無い位の可愛さだった。
 暗くても分かる位に輝く星の光を鋳溶かしたような鮮やかな金髪。
 直ぐに壊れてしまいそうな程小さく華奢な体。小ぶりな形の良い唇。
 シルクのような健康的な白さ。尻尾のような長いサイドアップ。
 瞳は炎のような赤い色。
 纏った衣服は修道服をオシャレに繕い直したようなフリルたっぷりの朱色のドレス。
「・・・あ・・・なた、は?」
 少女が不安そうに手に抱えているぬいぐるみを抱き締めている。その問いはどんな想いを込めたのだろう。その容姿に似合わない程、声が掠れている。よくよく見ればつぶらな目の下は赤く腫れ上がっており、部屋を見渡すと、様々な物が壊れていた。 
 少女の手を見ると、痛々しい包帯が左腕に巻き付けられている。
 そんな彼女をやっと見つけた。
 ずっと泣き続けただろうこの少女は、きっと誰よりも優しくて、誰よりも寂しがり屋で、誰よりも一人こどくな、空を羽撃く翼を縛られた少女。
「俺は神裂社。鈴さんが言ってた妹様って・・・君であってるよね?」














【紅華館・地下・幽閉された少女の想い】

「俺はカンザキヤシロ。鈴さんが言ってた妹様って・・・君であってるよね?」
 突然、扉を開けたのは知らない人だった。
 本を持っているから、図書室の司書さんかと思ったが。
 珍しい灰色の髪の毛にこの部屋と同じ位の黒い瞳。
 まるで星那さんが持って来てくれるお人形みたいな変わった格好。
 その笑みは、なんとなくなく温かで、甘えてしまいたくなる。けれど、きっと、いや、確実にカゾクの差し金だろう。でなければ、鈴さんの名前が出るはずがない。
 若しくは、わたしが余りにも、耐え難い程愚かだから、願ってしまった、暖かな幻。
 だから、
「・・・帰って・・・・・・わたしの事は、気にしないで」
 突き放せば、消えてなくなる。
 この温かな気持ちも、幻も。カミサマはきっと、愚かなこのわたしを許してくれない。
 だから・・・!!
「・・・なぁ?君、名前は?」
 ・・・なんで?突き放した筈なのに。
「・・・フラン。フラン・VフォンEエルトリア・スカーレット」
「んー・・・長い!だから、フランって呼んでいいかい?」
 何故この男の子は、話しかけてくるの?
「・・・別に、勝手にして」
「お、サンクス!んで、フランはなんでこんなとこに居るんだ?」
 なんで・・・歩み寄ろうとするの?
「お姉様が・・・お部屋から出ないようにって。お外には怖い物や人がいっぱいだからって」
「フランのお姉さんって、過保護なんだね」
 この男の子のこの苦笑いを見ていると、わたしを利用しようとしている訳ではなさそうに思える。
 けど・・・・・・・・・
「違うの・・・わたしがただ愚かなだけなの」
「・・・」
「わたしは、能力が制御しきれていないの。そのせいで何もかも壊してしまうの」
 見せしめの為に、能力を使う。
 両手を開くと小さな球体が現れる、それを思いっきり握りしめるとガラスが割れる。
 それと連動して、わたしの腕の中にあったお人形さんが細々に裂かれ中綿が漏れ落ちる。
「全て・・・全て無くなってしまうの・・・!!だから・・・だから、お姉様はわたしを・・・!!」
 さぁ、これでこの男の子ともさよならだ。
 こんな異物を見て何も思う所が無い筈がない。
 その証拠に、男の子はとても怖い目でわたしを見て・・・!!
「ほへ〜でも君だって壊したくて壊している訳でも無いんだよね?今のぬいぐるみのヤツも要は自分の意思で俺にどんな人物なのかを教えたくてやったんだろ?無作為に破壊するんじゃない、ちゃんと制御しきれている。」











 見ていない・・・?怖い目・・・じゃない。ぎこちないけど暖かな笑み・・・あぁそうだ、違う。この人は悪い人なんだ、わたしを利用しようとして・・・
「利用しようだなんても思ってないからね?」
「!!?」
「だって、確かに俺よりは強い子なんだろうけどそんな積りで来た訳じゃ無い。仮に鈴さんに頼まれ無かったとしても、俺はここに来た。」
 思っていた事を、全て言われた。心を読み取られたかのように、びっくりする程正確に。
「な・・・なんで、わ・・・わた・・・しなんか・・・!!」
 寄り添ってくれるの?恥に塗れたこんなわたしに。
「なんかとか言わない。フランはずっとここに居た、違うか?」
 そう、ずっと・・・ずっとここに居た、暗くて寂しい一人じゃないけど独りの部屋に。
「だろう?なら、行って見たくないか?外の景色、空は青くて、雲は白い。いろんな人がいて、いろんな事が起きて、それが日常になる。そんな景色」
「それは・・・夢よ」
「夢なんかじゃないよ?俺が話した世界なんてたった一部、見たことないけど・・・多分、壊れるものじゃない。世界って案外広いらしいからな、一つ一つ壊すのは骨が折れるって物だ」
「・・・・・・」
 的外れな事を言われて少し笑ってしまった、クスっとだけど・・・でも本当に楽しそうで、見てみたい景色だ。
「お、やっと笑ってくれた。」
「えぇ、貴方のお話がとても楽しそうで」
 とても楽しそうで行ってみたい。夢みたいな綺麗な景色。
「行ってみるか?」
「・・・うん、でも」
「まずは、お姉さんを説得させに行くか」
 そう言って、男の子が手を差し伸べてくれる。
 でも本当に行って良いのかな?
 そう思っていると男の子の方から手を優しく掴んで来た。引っ張られて立たされる、だけど、その所作はとても暖かで優しくて。
 掌に伝わる温もりが、とても懐かしくて。
「あたたかいのね・・・ねぇ、貴方の事をなんて呼べば良いの?」
「んー・・・そうだなぁ。呼びやすければなんでも良いよ」
「・・・分かったわ、行きましょ!!お兄様!!」
「お兄様!?・・・まぁいっか」
 笑いながらわたし達は扉を出る、開かない筈の重たい扉は見送るようにそこに佇んでいた。

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