いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第十一話 覚醒!社さらにチートになる!

【紅華館門前】

 スローになった世界の中でその変化を、俺は感じ取る。
 一方の錺は何処かホッとしているようだ。
 変化と言うものは余りにも変化無く、ささやか過ぎる変化故なのだろうか、今まで気付くことなかった。
『良かったよ、もしヤシロがこのまま気付くことが無ければ宝の持ち腐れになる所だった』
 "芯"が揺れる。
 今まで自分だった物が遠のいて崩落するように消えてゆく。
『吸血鬼の"力の黎明"より先か・・・まったく、一足飛びにも程があるよ。まさか』
 代わりに、自分だった物がまるで完成されたパズルを砕いて行くようにバラリと、変わって行く
『"第二能力開放オープンレコード"、びっくりだよヤシロ。ベースとなる【媒体行使】の能力を全く無視している能力だなんて』
 変わっていく世界の中で"視た"自分の変わってしまった姿を、同時に驚いた。今の状態ではまだ体が完全にこの世界に順応していなかったが、変化し切った自分は今の意識や思考、知識などの積み重ねた自分を本にこの世界に順応出来るようになっている。
『ヤシロ、君の2個目の能力ははっきり言って在り来りな、それでいて最も個性が現れる能力だ。それ即ち、
"ヤシロ自身が望む結果を創り出す"
所謂、【そうぞう】の能力』
 そうぞう。
 ひと括りにしてもその言葉に含まれる意味は膨大だ。
 想像、創像そして創造。そのうちのどれかなのだろうか。いや、全てのような気もする。
『さぁ、行こう!今君が手にしたのは、誰も成し得ない事をする為の可能性だ!』
 その声と共に俺は俺に書き換えられる、白書に墨を入れるように。












 その時、俺は俺ではなくなった。













「貰いましたよ!!!」
「まずい!!」
 社の様子がおかしくなった。
 かっこいい啖呵を切ったと思ったら急にブッ倒れたものだから敵の攻撃を凌ぐのが正直キツイ。
 その疲れのような諦めが油断を引き起こし、フェイントに引っかかってしまった。
「紫芳!!!」
「っ・・・!!」
 紫芳が急速に魔力を練り上げるのがわかった。魔力の流れが急に攻撃性から守護性へと変化を望んだため、途中まで攻撃性を持った魔力は守護性へと変化する前に霧散した。霧散は連鎖し練り上げていた魔力すら統率を失い散って行く。
「だめ!玲華お姉ちゃん!間にあわ――――!」
 そう、間に合わなかった。敵のかかとが社の頭蓋を目掛けて飛びかかる所の話ではなく、少女が見るには余りに残酷過ぎる程呆気なく、目の前で血の海が完成された。
 きっと、それは間違いなく。社の・・・神裂社と言う少年のどうしようにもない
 最期。
「あ、あぁ、あああああああああああああああああああああああああああああアァァァァアアア!!!!!!!!!!!?????」
「し、紫芳!!?」
「やはり堕ちましたか・・・この光景は少女には多少酷っすよねぇ。さて、終わりにしましょ―――」













「『死とはあって無いようなもの』」












 敵の足元で翠光がゆるく光る。
 其処には、パラパラと花が咲くようにページが揺れる本があった。まるで命が絶たれるのを拒絶するかの様に。












【紅華館・???】

「何かしら、この光」
 館の前で私の家族の一人である鈴が奮闘しているのが見える。
 彼女が負ける筈が無いのだか、やはり巫女の力は偉大なのか多少苦戦しているようだ。
 それよりも、いや、巫女の力もそうなのだが何より気になったのが先程の鮮やかな光だ。
 鈴の技だとするならば必ず闘気がこもる、それが無いとなると・・・
「どうやら・・・連れの方に厄介な力の持ち主が居るようね」
「誰が来ようとも、我々の計画を阻める者はおりません、お嬢様。彼女も、自分の成すべき事を成すでしょう」
星那せな、慢心はいけないわ。今、足元を掬われてはあの娘の為にならない」
「も、申し訳御座いません!」
「分かってくれれば、それで問題ないわ」
 望月 星那もちづき せな
 館のメイド長が自らの失態に頭を下げるが当の私は、それを柔らかく返す。
 そう、いま足元を掬われればあの娘の、妹の為にならない。あの娘を安心して外に出すためにこの計画は成功させなければならない。
 その為にも。
「そう、手段は選んでいられないの・・・  恨まれたっていい。私はただ、あの娘の笑顔を見る為ならば」
「お嬢様・・・」
 心配そうに声をかけてくれる星那を私はこれ以上心配させないように気丈に微笑むが・・・状況は余り芳しくない事を、門前の鈴が証明してくれた。

【紅華館・門前】

「おいおい、確か鈴さんだったか?さっきまでよういたぶってくれたけど・・・さっきまで付属品みたいにガクブルしてた俺を狙ったって、余り意味ねぇだろ?それに、こんな状況じゃ連撃したって無駄かもな」
 皮肉げに笑って見せる、足元には多分がら空きになっていた時の物であろう血の海。
 推測するに頭蓋をやられたのだろうが、今の俺には頭部はちゃんとあるが服にものすごい量の生乾きの血液がべったり付いている。
「貴方・・・先程仕留めたと思ったのですがねぇ。そして何ですか?その大盾。魔力か何かで生成したと思われますが・・・"空っぽ"ですね。見るだけで貧弱の代物だと分かりますよ。自分、こう見えて1個軍は相手取ったことありますから」
 今俺の前にあるのは媒体術で創り出した大きな盾。
 ・・・さて、覚えているだろうか?
 媒体を強化するに当たって、星霊が媒体へと書き込まなければならない事を。
 つまり、今目の前で起きている現象"元々無かった媒体の生成"は今までの可能性を否定し、新たな可能性を生み出す事を成し得たのだ。
「社・・・あなた、生きてたの?」
 呆気に取られた顔で、玲華が呟く。が、俺はそれを否定した。
「んな訳有るか、おらぁただの人間だぞ?一度死んだよその証拠に、服に血がべったりだ!!
ったく、これ終わったら玲華が洗濯してくれよ!」
 明るめに声を張り上げる、こうでもしないと正直勝てる気がしない。
「・・・えぇ、そうね。でも、なめないで貰いたいわね!私だって、そこそこ腕があるんだから!幻想入りして2日位の新人には馬鹿にされたく無いわ!!!」
 玲華も負けじと声を張る。
 挑発され、闘志が燃え上がる。劣勢を巻き返す為、せめて気合の方で負けられないのたろう。
「・・・神裂・・・社・・・?」
 と、不安げに紫芳が問いかける
「おう、すまんな。ヤバい奴見せて。・・・立てるか?」
 右手で大盾を維持し、左手を差し出す。彼女はおずおずと手を差し出す。重なる手には間違いなく紫芳の人形では無い、人間としての温度がそこにははっきりとあった。
「・・・温かい・・・。生きてるんだよね?・・・外の世界にいた貴方は、とても人形くさかった。気づいていないだろうけど、私、お姉ちゃんと一緒にあなたの事を向こうで観察してたの、・・・ねぇ、もうあんな死に方はやめてね。やっと人形から戻れたのに、能力を使えば・・・また、人形でしか・・・無くなってしまうから」
 紫芳は俺の左手に頬を擦り付けエゴを漏らす、声は濡れてその姿は、年相応の幼さが見えた。
 そう、幼い。いや、彼女は幼すぎた、酷く優しくそして脆く儚く、それでいて人形の様な見栄を張る"少女"
「分かった。せめて死ぬときは寿命にするよ。俺しぶといから多分長生きかもな」
 そう微笑んで見せる、顔を上げ涙に濡れていた元人形は目尻に大粒の宝石を浮かべながら、無垢な微笑みをその顔に滲ませた。
「・・・ばか、神裂・・・ううん、お兄ちゃん」












 と、イイハナシダナー的雰囲気を醸し出していたがその中でも大盾の外では敵の攻撃は続いていた。
 それもものすごい速さの連撃で!
 正拳突き、マーシャルアーツ、抜手、アッパー、踵落とし、手刀、中にはかめは○波っぽいのまでありとあらゆる格闘攻撃を以て大盾を破壊せんとしていた。
 が、敵は大盾の強度を甘く見積もったせいか全く壊れる予感がしなかった。それに気付いた敵はサイドに回ろうとしたが、二人の会話の邪魔をさせまいと玲華が応戦してくる。












「二人の邪魔をしないで貰おうかしら?紫芳は・・・あの娘はやっと人形から人へと変われるのよ。その邪魔をしないで!」
 巫女さんが必死になって吼える。大盾のサイドを狙おうとも彼女に邪魔されて逆に大盾を狙おうとしても硬すぎて破れない。
 勿論、自分が全力でやっても巫女さんと大盾の強固で堅牢な、まるで城壁の様な防衛は破れなかった。
「くっそ・・・まるで玄武の甲羅を叩いているみたいっす・・・。しかし、巫女さん。貴女そろそろ消耗して来たのでは?先程、防衛の力が少し緩んでましたよ?」
 巫女さんはどうやらさっきのショックからの立ち直りに相当な力を使ったようだ。汗がうっすらと滲み、手刀で裂いた服の薄い部分には汗と血が滲み張り付いている、半分吸血鬼ハーフヴァンプ・・・吸血鬼の眷属である自分にはとても扇情的だったが正直、自分にそんな余裕は無い。
 こちらも油断を欠けば殺られてしまう、恩を仇で返した者らの一員なのだ。なぶり殺しでもまだいい方だろう。
「はっ!馬鹿言わないで!私は所詮時間稼ぎをしているだけ!貴女こそそれに気付いていないのかしら!?」
 ハッタリだろうか・・・まさか本当に時間稼ぎなのだろうか、刹那のうちに迷って悩んだ結果、その労力すら終わりを告げる声が大盾の中から聞こえた。
「玲華!!準備完了だ!やるぞ!!」












「玲華!!準備完了だ!やるぞ!!」
 声を張り上げる、紫芳と手を繋ぎながら俺は媒体術を紫芳は魔力をこね球体に固定してスタンバイする。
「了解!!派手にやってやりなさい!!」
「なっ・・・!?」
 大盾の向こうで鈴さんの狼狽した声が聞こえる、それと同時に玲華が鈴さんの前から離脱する。
「・・・!!逃しません!!」
「させるか!!錺!!」
『はいよ!!「『第弐項、第弐十仇節:それはまるで囚われに似た自由の詩』」!!!』
 スタンバイしていた、元々錺の、ノットリミットノーレッジの中にあった媒体術を起動する。
 すると、手にしていた本がパラパラとページをめくらせ、淡く空色に輝く。所々でページが本から五,六枚空へ羽撃く、空へ舞うページは鈴さんの周りで静止する。
「・・・ちっ!・・・せめてあの大盾さえ何とかなれば・・・」
「お望み通り、何とかしてやるよ!でもなぁ、その代わり突っ込んできたら紫芳の魔術でゼロ距離急所で貰うぞ!!!」
 その言葉の通りに大盾を消去、すぐさま静止していたページが術式を起動し、本の中から鎖が伸びる。
 その鎖は鈴さんの両手両足を拘束し、玲華の足を捕らえようと伸ばした腕を抑えた。そう簡単に千切れる程軟な代物では無いらしく、鎖を千切ろうとする鈴さんは藻掻くが微動だにしない。
「無駄だよ、その鎖はかの大英雄ギルガメッシュの唯一無二の親友であるエルキドゥが自らの宝具とした天の鎖そのレプリカさ・・・破りたいのならヘラクレスでも連れてくる事だね」
「錺!?いつの間に!!」
「美味しい所横取り・・・卑怯」
 いつの間にか俺の近くに、錺が姿を見せていた。彼女はノットリミットノーレッジにて司書の様な役回りだが・・・どうやらこちらの優勢にこぎつけたかったようだ。
「横取りとは酷いなぁ・・・さぁ、そんな事よりシオリ!フィナーレだ!!」
「言われなくても・・・【―――神魔、うたいし黑衣の龍、星の彼方を揺らめくきずな、その轟を以て我が眼前の敵を討ち果たさん】!!!」
 呪文を紡ぐ紫芳の声は、何かに呼びかける様な響きを持っていた。
 直後。
 球体に集中させていた魔力がその形を崩壊させ、極彩色の光線となって拘束された鈴さんに襲い来る!!!!!
「ありゃりゃ・・・やっぱ駄目でしたか。
・・・お嬢様、申し訳ありませんっす。星那さん、後は任せました・・・・・・妹様、どうやら自分では無理っぽいっす、のでどうか・・・この人達に―――」



















 穏やか笑みで敗れた門番は後に主人にこう語ったと言う
「慢心は駄目っすねぇ・・・あと高を括るのも大概にするっす。」
 と、少し拗ねた様子で語っていたとその主人は微笑みながらその様子を見ていたそうな。

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