いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第二話 目覚めとひきわり納豆と危険な匂い

【神社境内・???】

 声が、聞こえる
 とても澄んだようなそんな声
 だけど、どこか聞いた事あるようなそんな声は
 散りかけた花の儚さに、とてもよく似ていたんだ













「・・・と、・・・っと・・た」
 とても寝心地がいい
 暖かな陽だまりの中で日向ぼっこでもしてる気分だ
「ちょっと貴方!!!!」
「ぶっ!!」
 ゴッと音がしたと同時にお腹に凄まじく冒涜的な痛みが襲った
 そこで俺、神裂 社の意識が目出度く戻ったわけで。
 目を開けると、美少女の巫女さんが何ということか俺の腹部に馬乗りに乗っている。
 ふむ―――これは・・・所謂、
「騎乗i――――」
「変なこと言ったら、今度は逝かせる」
「・・・ハイ」
「よろしい」
 恐ろしい美少女だぁ・・・纏うオーラが常人ではない剣呑さを帯びている。
 と、すくっと美少女が立ち上がり脇に避ける。すかさず俺はムクリと起き上がる。
「ふむ・・・」
「な、何よ」
 やはり、美少女だ。巫女服を着ているがコスプレではなさそうだ、似非巫女服でなくきちんとした巫女服。
 露出が少なく清廉な雰囲気を醸し出している。年は、俺と同じくらいだろうか。茶髪のロングポニテに黒色の瞳。穴に落ちてもここは日本なのだろうか?
「いや、何でもない。しかし、ここ何処?」
「私が、巫女兼神主をやっている神社よ」
「ほへー。」
「何よ、自分から聞いておいて興味なさげね」
「いやぁ済まない俺、趣味以外は特に興味は無いようなんだよ。」
「そんな威張って言うことじゃぁ無い気がするのだけれど・・・まぁいいわ。」
「お、おう」
「それじゃぁ私は朝食を用意してくるわね。納豆は挽き割り派?そうじゃない派?」
「えと・・・俺は挽き割り派かな?」
 その時、美少女の眉がピクリと動いた
「へぇ、貴方わかっているじゃない。挽き割り派に悪い人は居ないわ。これからも仲良くしましょう・・・そう言えば名前もまだだったわね。」
 なんだ、その挽割り納豆絶対主義は・・・でもまぁちょうどいい。ここを逃すと何か、自己紹介せずに終わりそうだ
「あぁ、んじゃ俺から。俺は神裂、神裂 社。趣味は写真を撮ることと、読書、これからもよろしく」
「私は、玲華。白煉 玲華びゃくれん れいかよ。ここ、霊装法御館大社れいそうほうみかんたいしゃの第8代目巫女兼神主を務めているわ、どうぞよろしく」
「あぁ、こちらこそ」
「えぇ、それじゃぁ私は朝食の買い出しに行ってくるわね、今日はひき割り納豆が安いのよ」
 ルンルンと、まぁ随分とご機嫌なのか玲華は腰までかかるブロンドに近い茶色の髪を揺らしながらニコニコと玄関へ歩いていった。その背中に
「行ってらっしゃい」
「・・・えぇ、行ってきますね」
 少し驚いた様子でだが、笑顔で返してきた。その笑顔は多分、これから先忘れる事はないだろう

【霊創法御館大社、本殿内部・30分後】

 することが無いので取り敢えず境内を散歩する事に。
 本殿内部は、普通の茶の間と化している。ドンッ!とお釈迦様が食卓テーブルを覗き込む形で置かれており日本の常識ではありえない。
 お釈迦様を前にして柏手を打たないと気が済まない。
 ので、二礼二拍手きっちり済ませて頭を垂れ
 取り敢えず、もとの世界に戻れます様にと、お願いしてみる。まだまだ向こうでやりたい事はイッパイあるのだ、ここで立ち止まるわけには行かない。
 と、後ろで物音が。何か物が落ちる音。
 そして・・・
「お、お前・・・っ!ひ、人ん家で何やってやがる!?」
 振り返るとそこには、いかにも魔法使いのような格好と、魔法使いのような竹箒を落としたらしい金髪碧眼のロングヘアーな美少女が仁王立ちで、ない胸を張ってこちらをキッと睨んでいる。口調からしてボーイッシュな性格だろうか。
「あ、ども。ここでお世話になっている神裂 社と申します。以後、お見知りおきを。」
 ペコリと挨拶する。
 決まったぁ・・・・・今の挨拶なら面接は間違いなく受かるな!
「お、おう調子狂うな・・・私はこの裏にある山で雑貨屋の店主をやっている霧醒 茉莉愛きりさめ まりあだ・・・所で神裂」
「ヤシロでいいよ」
「んじゃ、社。玲華の家で何してたんだ?まさかナニをしてたとか言ったらこの箒であんたの顔を殴打する」
「探索してたんだよ、あと、こんな白昼堂々とナニ出来る精神力を俺は持っていない」
「そうか、ならいいんだ、あ、私の事も茉莉愛って呼んでくれよ。」
「了解、茉莉愛」
「・・・」
「どったの?」
 何故か、茉莉愛の顔が耳まで真っ赤に染まっている
「あぁ!?ぁいや、異性に下の名前で呼ばれると何か恥ずかしくてな」
「そうかぁ?俺はそうでも無いがなぁ」
「む〜〜〜〜〜〜」
 さも悔しそうに頬を膨らませる。表情がコロコロ変わって面白い人だ。
「そいやぁ、社。ここに世話になっているってどういう事だ?もしかして、さっき人里まで買い物した時に八百屋の前に大穴が空いてたが・・・あれは社がやったのか?」
「ありゃりゃ、大穴になったのか・・・人里の八百屋の主人さんに謝っとかないと・・・賠償金、いくらになるんだろ・・・」
 そう思うと背筋から悪寒が邪神の如く這い寄ってくる冷汗タラタラだ。なんせ、その大穴のせいで客足が途絶えたら営業の方がピンチだ。
 そうなると・・・賠償金、か?
 莫大な額になりそうだなぁ・・・・・・。
 そもそも、お金って同じなのかなぁ
「あぁ、心配すんな。八百屋の主人そりゃもう激怒してたがよぉ、物珍しく見に来た客がついでに買って行くものだから仕方なく許してやるそうだ。」
「八百屋さん、おおらかな人だな。そっちのほうがとてもとてもありがてぇ話だ」
 ホッと安堵する。結果論バンザイ。
「んで、世話になっているってどういうことだ?
社があの大穴を空けたにしろ、普通にしてりゃあんなの出来ねぇだろ」
 ふむ、ここはバッサリ言ったほうが混乱せずに済むだろう。
 しかし思ったら目のような穴に落ちたのだからここは地底では無いのか?ならこの幻想的な景色は何なのだろう。
 そこも後で玲華に聞いてみよう。
「あぁうん、落ちた」
「・・・へ?」
「だから、落ちたんだよ超高高度から。なんの補助も無く。」
「いや、待て。落ちた?超高高度から?訳わからん」
 いつの間にやら茉莉愛の周りには?マークが大量発生している。
 む、これは・・・一から説明した方が良さそうだ。
「いやね、俺が普通に歩いてたら目みたいな穴に落ちて気付いたら空中真っ只中、重力に逆らうことが出来ずそのまま落下。綺麗な大穴の出来上がりって訳。納得した?」
 途中む〜っと唸ってたが、やがて一つの可能性にたどり着いたかのようにポンっと両手を餅つきし、こう結論付けた。
「つまり・・・"幻想入り"したってことか?」
 幻想入りとはなんぞ・・・?
 今度はこっちがはてな状態だ。
「幻想入りってのは、現実世界から大結界によって隔離されたここ幻想世界、その大結界の管理者である心凪 紫苑しんなぎ しおんによって現実世界からこちらに送り込まれる事を言うんだ。」
 おぉなんかセカイ系の話になってきた・・・ここまで来ると話がついて行くことが困難だ・・・かんたんな話、あの目の穴を作った張本人に聞くしかないんだな。
「しかし、なんで隔離されてんだ?」
「・・・この幻想世界は、普通"ある条件"がクリアされないと入ることが許されない。」
「ある条件?それって何?」
「忘れ去られること」
「「っ!!」」
「って玲華か、驚かすなよ」
「ごめんなさいね、茉莉愛。盗み聞きみたいな真似しちゃって」
「いや、構わないけど・・・どうしたんだ?」
 茉莉愛が袋の中身を指して疑問に思う
「どったの茉莉愛?」
「玲華・・・なんかあったのか?」
 茉莉愛が心配するのがなんとなく分かった、今の玲華は何だか元気が無いように思える。出てった時はルンルンだったのに・・・何があったのか
「・・・えぇ、大丈夫よ。ただ、ちょっとね」
 一体何が・・・・・・・・・?
「いつもの納豆屋に行ったらひき割り納豆が無かったのよ!!!」
 ドンッと不機嫌そうに近くにあった木を殴る。玲華はまぁ痛むのだろう握り拳を庇いながら蹲うずくまっている。殴られた木はと言うと、細かく振動している。
 木、と言うか殆ど大木に近いそれを震わせる程の力を持っていることに、俺は空いた口が塞がらない思いだ・・・。
 あと、ひきわり納豆ないだけでそんな落ち込むことないだろうに・・・。
「そ、そうだ!なぁ忘れ去られるってどういうことだ?」
 取り敢えず、本題に入らなければ。グダってばかりで話が進まない。
 俺の意志を察したのか慌てて茉莉愛がはなしを切り替える
「お、おうそうだな!ほら、玲華。今度、ひき割り納豆奢ってやるから?な?」
 そう言うと、玲華は落ち着いたのか
「・・・えぇ、そうね。それじゃぁ、今度奢ってね?
代金は、そこの素敵な賽銭箱にいれてお参りするって事で」
「えぇ!!そこまでするのか!?」
「勿論よ。ここを宴会場だと勘違いしてない?ここは由緒正しき神社よ。お参りの一つでもしなさいな」
 茉莉愛がまさにガクッとうなだれる。そんな茉莉愛に小声で
「なんか、悪い」
「いや、いいぜ。社みたいなのが来たら説明するのが習わしみたいなものだ」
「ってことは、他にも・・・」
「あぁ、そこら辺も後で説明する」
 そこで、誰かの可愛らしい腹の虫が二重奏を奏でる。
 勿論、茉莉愛と玲華の二人の物だ。
 ポンっと音がするくらい顔を赤くした2人
「さ、さぁ茉莉愛、上がりなさいな。今日はひき割り納豆が無いから茶漬けか卵かけどっちにする?」
「そ、そうだな!茶漬けにしてくれ、私は卵で何か一品作る。台所貸してくれるか?」
「えぇ、勿論よ!」
「よし!それじゃぁ社、話はまた後だ!まずは朝飯食べようぜ!」
 二人とも早口になって逃げる様に台所へ消えていった
 思いの外可憐な一面が見れてこちらは眼福でございました!これは・・・拝んどこ。

【神社境内・朝食出揃う食卓】

「おぉー!!ウマそ!」
 そこにはもう見るからにプルンプルンな卵焼きと、ほうれん草のおひたし、それからメインとなる風味の効いた冷製緑茶漬けが三人分ズラリと並んでた
「社、貴方の分の茶碗は私の父が生前使っ出たものだけど・・・問題は。」
「あるもんか!こんなウマそうな飯と出会えるなら関係ぇ無ぇ!お父さん!失礼致します!いただきます!」
「え、えぇそう、それなら良かったわ。作り手として遠慮なく食べて欲しいものね」
「最初からそのつもりだ!!」
「そ、そう」
 玲華は顔を赤らめてるがそんな様子に気が付くわけない。だってうまいんだもん。 
 途中現実世界の話を聞かれるので、答え、笑みを交え楽しき朝食の時間が過ぎて行く。

【神社境内、茶の間・さらに10分後】

「んで、さっきの話、"忘れ去られる事が条件"って言ってたが・・・どういうことだ?」
 そう聞くと玲華はズズズとお茶を啜りながら、茉莉愛はちゃぶ台の上にある蜜柑を食べつつ話を進める。
「ズズズ・・・ふぅ、元々この幻想世界は、現実世界で人々がその"存在を忘れ去られる"事で社達の言う天界、私達が言う"天園"の付近に大きな結界が貼られていて、正式な通行ルートを通ってここに来るの。」
「むぐむぐ・・・ゴクン、多分ココらへん歩いていれば元々向こうの世界の物だった物がちらほら見かけると思うぞ」
「ほへー・・・つまり、ココは人が価値を忘れたその瞬間その存在自体がここへ移される。まさに"失われし楽園"って訳か・・・」
「正解、ついでに言えば不正ルート。つまり忘れ去られる条件を問答無用でかき消す事が出来る。ただ一人だけ、それをこなせる奴がいる」
「それが、例の人って訳か・・・」
「えぇアイツには代々境界面を監視、応じて境界を歪め人を呼び寄せる。歪みは彼女にしか感知出来ない。簡単に言えば、この世界を包む結界の守護者。境界の事は彼女に投げ出しているのよ。ただ・・・」
「ただ?」
「紫苑の奴、何時呼び寄せるのか良く分からなくてな。一報入れてくれればこっちも心構えが出来てんだけどな」
「心構え?・・・何か厄介事が起きんのか?」
「えぇ、大体は・・・こっちだけじゃ手に負えない様な面倒事を抱えた時、幻想世界に適合しそうな人間を呼び寄せ、導き才能を引き出す。」
「私達は、引き出された才能の事を"能力"って呼んでいるぜ。幻想世界の殆どの住人が何かしらの能力を備えている。」
「その能力って奴は、選べるのか?例えば、こう言う能力が欲しいって言ったらその能力が手に入るのか?」
「言ったでしょ、才能だって。開花する才能はその人個人の潜在意識の中にしか現れないのよ。自分では理解しようにも出来ないものなのよ」
「私達も一応能力を持っているが、何せその能力が便利系な物だから実践ではあまりだな・・・玲華を除いてな」
 ケラケラと楽しそうな笑みを浮かべる茉莉愛。
 どういう事なのか玲華に説明してもらう。
「・・・私の家は、代々神職の他にも"探偵"としてもやっているのよ。」
「なるほど、本来その厄介事を玲華の一族が解決してるけど対応出来なくなったから、外側から呼び出すのか」
「そうよ、一時的な協力関係の中で厄介事・・・総称、"異変"を解決した後に外側から呼び出した者を送り返す。今までも何回かその事例があったけど一度こっちに呼ばれた人はもう幻想世界には居ないわ。何せ・・・」
「存在があやふやな境界は自然に消滅するらしいからな、その存在を守るために作られたのが"隔離結界"
通称、白煉大結界。隔離しているのは幻想世界を守るため。ここは忘れ去られし者の楽園。仕方ないさ。」
「なるほど、大体分かった。って事はやんごとなき事情があって俺は呼ばれたんだな?」
 さっきまでの説明だと、俺は救世主にでもなるのか?
 ・・・・・・なんかちょっといいな。
 期待半分緊張半分で話を促す。
「無いわよ?」
「・・・へ?」
「だから、無いわよ?そんなやんごとなき事情」
 サラッと事実を告げ・・・え、無いの!?
「じゃぁ何で呼ばれたんだ!?」
「さぁ?」
「そんなぁ・・・バナナぁ」
 膝からショックで崩れ落ちる。その肩にポンっと手が置かれた。直ぐに折れそうな華奢なそれでいて綺麗な温もりが、こう囁いた
「何か・・・うん、ご愁傷さま。」
「俺、骨折り損だ・・・・・・」
 呼ばれた理由も不明なままとは・・・!!!
「まぁいいか。美少女2人に会えたからそれで」
 そう、開き直ることにした。
 ま、他の理由で単純にこの場所があの世界よりも居心地がいいってのもあるけど。
「「なっ!?」」
「ん?」
 急に、美少女2人がバッと顔を染める。無論前方に居る2人に言ったのだが、そこまでオーバーになるのがわからない上、このあとたっぷり怒られた。
 褒めたのに何故・・・ と内心泣きながら思うのであった。ホント、乙女心は分からぬな!!

【神社境内、奥の森・夜】

「いやー、ごめんなぁ送ってくれちゃって」
「あんたが夜になると、能力が使えなくなること位知ってるわよ。私、一応あんたの幼馴染だから」
「いやー、ホント玲華には頼りになるなぁ」
「任せなさいな」
 夜も深々暗い森も月の光が仄かに降り注ぎ星々が照らす空は神聖さを宿している
「社も悪いな、こんな夜深くに」
「いや、大丈夫さ。地形を知っておくと色々と便利だからそのついでって事で」
「二人ともありがとな」
 頬を少し朱に染めお礼を言われた。眼福眼福!!
 って暗いからよく見えないな・・・。

【霧醒工魔雑貨店・30分後】

 30分位歩いてやっとこさ辿り着いた。
 茉莉愛の店はちょっとした可愛らしい感じのコテージになっている。残念なことに中の様子は見る事が叶わなかったが、なんとなくは想像できる。
 可愛らしい小物やこちらの世界での実用性溢れる品を提供している事だろう。そう思うとコテージ並みの大きさになるのも頷ける。
 あくまで想像や妄想の範疇だが。
「それじゃぁ、また明日な!夜道気を付けろよな!お休み」
「えぇ、お休み」
「お休み」
 それぞれに労いの言葉を口にし、俺達はその場を後にする。
 取り敢えず今日は玲華の神社にお世話になろうと、玲華の横顔に頼み込もうとしたその時、
 そこに、何かがあった。
 暗闇でよく見えないが、明らかに人ではない。この世界には妖精や妖怪、鬼やその他ファンタジーな存在もあるらしい。
 だが、明らかにそんな可愛いものではない。もっと稠密ちゅうみつな闇。それが多分2つ。
 あまりの異質さ、不自然な存在感が俺の体を釘のように縛り付ける。
「どうしたのよ?そんな所に突っ立ってないで早く」
「・・・玲華。たぶんヤバい奴いる」
「はぁ?何言って――――よく気付いたわね。勘がいいわ」
 途中でその異様な気配に気付いたらしい。
 すると、さすが慣れているのか袖から一本のお払い棒。
 それが示し合わせとなったかのようにやはり異質な咆哮が二重に大気を震わす。
「数は2、姿形が見えない以上、こちらから出向くのは危険ね」
「俺、闘えねぇ。外野にいるのはあまり好みじゃねぇな」
「相手が化物じゃ、なれない人間が闘っても足手まといよ。心意気には感謝するけど」
 しびれを切らしたのか、化物が茂みの中から出てきた。
「なっ!?」
 それはあまりに、存在として異質。
 まるで影を覗き込むような感覚に陥る、黒を塗りたぐったような配色、不自然な紅白と黒白。
 その横に、消し炭色を纏わせ周囲には大量の本、切れ切れになった紙片が漂っている人型の獣。
「あの変な巫女っぽい化物。なんだか玲華に雰囲気が似ている、その隣はなんだか俺っぽいな」
「こんなのと似てるって言われて少し腹立たしいわ、けど事実のようね」
 その時、影が動いた。巫女っぽい影が漂っている髑髏を操っているのだろう髑髏が玲華に襲いかかる、その髑髏に玲華は御札を投げつけ、張り付く。
 すると、髑髏は驚くほどあっけなく墜落する。
「なんだ、拍子抜けね・・・私とやるなら相当の武器で来なさいな」
「おいおい!慢心すんなよ」
「仕方無いじゃない。ホント弱いんだし、これなら前の異変の方が厄介だっ――――ッ!!」
 急に頭を抱えた玲華に驚く、紙片を漂わせた化物はまだ動かないが、小刻みに呻くその声はどう考えても嘲笑しているようだ。
「どうした!玲華!!」
「・・・あいつの髑髏を落とした瞬間、頭痛が・・・」
「頭痛?・・・どのくらいだ?」
「頭蓋が割れるように痛い」
 もう殆ど蹲って戦える状況では無い程の痛みなのだろう
 そして、巫女型の化物が動き出す。黒いお払い棒を構え前に突き出して突進してくる。
「ぬぉっ!!」
 位置関係としては戦闘で変わっているため玲華が前、俺が後ろ、巫女型の化物は玲華からターゲットを変えたらしく玲華の横を過ぎ去り俺の前に。
 咄嗟に俺は突き出されたお払い棒を躱し、突き出された腕らしき部分を掴み引っ張ってその反動のまま投げる!!
「よっこらしょういち!!」
 巫女型の化物はそのまま茂みに突っ込んだこの茂みの奥はちょっとした崖になっているらしいから多分、倒せるだろう
「よしっ!玲華!巫女型はやったぞ!後は逃げるだけ!・・・・・・え?」
 玲華は喀血し見るも酷い様子で血の池に横たわっていた。
 その近くにあの紙片の化物は居ない
「遅いわ・・・よ。でも・・・よ・・・くやった方・・・かしらね・・・。このままじゃ・・・ぁひき割り・・・納豆も・・・あんたと茉莉愛の・・・声も・・・お預け・・・ね」
 喀血を繰り返してなお想いを・・・日常に縋る想いを告げるその姿は悲しくなるほど可憐で儚い物だった。
「おい、・・・やめろ・・・喋るな・・・!!」
「後は・・・頼んだ・・・わよ。また・・・いつか・・・私の神社で・」
「分かった!分かったから!何も喋るな!!」
 気付けば俺の声はだらしない程嗄れていた
「ばかねぇ・・・男なら・・・軽々しく涙なんか・・・流すものじゃ・・・無い・・・わよ」
 そして、玲華の体は先の言葉と引き換えに淡い光の中で悔しそうに呆れたように笑いながら薄く消えていった。
 そこに、血の池しか残らなかった。

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