花に願いを

水乃谷 アゲハ

第43話

「名はコロノ=マクフェイル。種族は人蝶。元異星人討伐隊副隊長で"魔人"。戦うスタイルはこの顔に伸びている封印の鎖によって変わるんだ」


「副隊長だったんですか……」


「うん。ちなみに鎖の封印は三段階ある。一段階目、つまり普段の状態のスタイルは"ファイター"、二段階では"ジーニアス"。様々な属性魔法を使う。三段階目は"トランスフォーム"」


「あぁ、あの長い長髪の姿か。確かあの姿でも、妙な体術使えていたよな?」


以前砂浜で戦ったコロノの姿を思い浮かべた竜太郎が顎を擦って言う。


「あぁ、三段階目の姿は他の魔法も使える様になるんだ。まぁ、ほぼ使わないよ」


「ふぅん」


話が難しく、少し混乱している軽猫は小首を傾げながら呟く。陽朝はどこからか取り出したメモに、コロノの言葉を全てメモしては小さく頷いていた。


「それと、人蝶は『死者の器』という特性がある。死んだ者の魂を自分の中に取り込むんだ。この魂は魔力で出来ているから、人蝶は魔力には困らない。でも魔力を使わないまま身体にどんどんため込んでしまったら僕の体が壊れてしまうから、時折魂を解放するんだ」


「解放する時すげぇぞ。骨達が空を飛ぶんだよ。あれは怖いを通り越して感動出来る景色だったよ」


「え、竜太郎は見たの?」


「おう。鯨やら見た事ない巨大な竜やらが骨になって飛んでいたのは本当に感動したね」


「いやいや怖いでしょそれ……」


両手を使って景色の壮大さを伝えようとする竜太郎に、軽猫は落ち込んだ顔の前に自分の右手を持っていくと、否定の意思を込めて左右に激しく動かした。


「僕の年齢は多分この中で一番最高かな? 異星人討伐が行われた年から百を足した数が僕の年齢。大体三万くらいかな?」


「それはおじいちゃん通り越して化け物だよ……」


「そうですね、確か異世界討伐隊が生まれたのは三万と八千五百九年前でした」


「おいコロノ、ならお前は三万歳より四万歳の方が近いじゃねぇか。サバを読むな。俺よりおじいちゃんだなお前は」


「……誤差の範囲だよ」


竜太郎の言葉で顔を真っ赤に染めたコロノは、誤魔化す様にそっぽを向く。
そんなコロノの背中をニヤニヤした顔で小突く竜太郎。


「……『猛き風よ 不可視の刃になりて 対象の髪を失くしたまえ』」


「髪を失くすっておい! このリーゼント無くなったら俺のトレードマーク無くなるだろやめろよ!」


馬鹿にされ続けてプルプル震えていたコロノが小さく呟くと、気配を察した竜太郎がすぐに飛び退く。竜太郎のいた場所に小さな竜巻が生まれてすぐに消えた。


「そういやコロノ、お前の魔法って随分分かりやすい詠唱だよな。炎やら風やら金属やらって」


「イメージしやすいからでは?」


「イメージ?」


メモを取り終えた陽朝が不貞腐れるコロノの代わりに答える。


「そうです。魔法は本来自分の持った魔力を形にするものです。コロノさんはその魔力が魔法に向いたものだと自分自身で理解して、分かりやすくしているのかと。分かりやすく三節詠唱ですし」


「三節……あぁ、風云々と刃云々と最後に何か言っているな」


「そうです。三節の魔法は一番イメージを形にしやすいのです。コロノさんの例で言うと、初めの一節に属性とそれに見合った強化単語、二節に形状を表す言葉。最後の一節にどうするかを言って、その言葉を形にしているんです」


「ちょ、ちょっと待ってね陽朝ちゃん。そこまではあたしも理解出来たから、とりあえず強化単語って何?」


「強化単語って……先程の風魔法を思い出してもらうと、猛き風と言っていたと思うんです。普通に風よでも良いのですが、さらに自分のイメージを強く形にする為にそう言っているのだと思います。えーっとわかりやすく私の魔法で試すなら……『人形よ 傷だらけの姿で 甦れ』」


陽朝がメモ帳を二人に見える様に広げ、言った通りの言葉を指差して唱えると、何もないメモ帳の中から薄汚れた傷だらけの人形が生み出された。よく見ると人の形をしている人形だが、猫の髭が生えていたり耳や尻尾がついていたりと奇妙な形をしている。
それを二人に確認させた陽朝は、メモにペンを握りなおしてメモの文章を付け足す。


「何々? 『猫の形をした人形よ 傷だらけの姿で 甦れ』か。こうしたら猫の人形が出るのか?」


「はい。『猫の形をした人形よ 傷だらけの姿で 甦れ』。はいこの通り、今度は猫の人形が出ましたよね。こういう感じです。あ、軽猫さんそんな怯えなくてもこの子達は笑ったりしませんよ」


「あ、そ、そうなの? 前に見たのがトラウマになっていてどうしても怖くて隠れちゃった」


「まぁ何も知らないで見たら怖いですよね。その件は本当にすみませんでした」


「あ、良いの良いの頭を下げないで!?」


「い、いえ何か申し訳なくなってしまって……。とりあえず魔法の解説は以上ですので、あとはコロノさんにお譲りします」


「……僕も無い」


コロノは、未だにむくれていた。

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