花に願いを
第28話
「へ、へぇ……?」
昼ごはんの席に同行した陽朝から、先程あった事の話を聞いた軽猫は、頭に未だ疑問符を浮かべながらもとりあえず頷いた。
「ふむ、実力は申し分ないんやけどなぁ……」
隣に座るフィオーレは、口元に小さな笑みを作りながら陽朝を上から下までを妖しい瞳で見つめる。テンとメイユは、陽朝からもらったバケットの中身を見て笑顔で顔を見合わせた後、席を離れて食事をとっている。
「にゅ、入団試験なら受けます! ダメ……ですか?」
フィオーレの視線に身を固めながらも、陽朝は真剣な顔で頼む。その様子を見て、隣にいる軽猫もフィオーレの顔を見つめて、
「私からもお願いします。陽朝ちゃんの強さは私も保証します」
頭を下げて言った。そんな光景を食事室にいるギルドメンバーは不思議そうに見つめながらも食事を続ける。フィオーレは食事を続けながら二人の顔を見る。
口に入った物を飲み込むと、困った様に頭を掻き、懐から一枚の紙を取り出す。
「申し分ないし入団試験も免除出来るんやけど、この紙しか無いんや。軽猫ちゃんに書かせそびれていたギルド入団申請用紙やな。一応軽猫ちゃんの為に作った物だから既にチームのリーダーがコロノ君になっているんよ」
フィオーレの残念そうな顔に、軽猫と陽朝は顔を綻ばせて見合わせ、フィオーレに頭を下げる。
「はよ書かんと知らんで。一応今の段階では、陽朝ちゃんはうちのメンバーじゃないんやから、うちのメンバーにお前誰だなんて聞かれてもフォロー出来ないで」
それを聞いた陽朝は、紙の傍に落ちているペンを急いで手に取るのだった。軽猫がもう一度フィオーレに頭を下げると、フィオーレは微笑み返して料理を指さし、
「無くなるで?」
とだけ言って、また料理を口に運んだ。
「さて、とりあえず軽猫ちゃんにも本当に紙を書いてもらう為にギルド長室へ戻ってきたわけだけど、陽朝ちゃん、何か聞いておきたい事はある?」
ギルド長室で、紙に目を通している軽猫から陽朝へと視線を移動させたフィオーレは、椅子に腰かけて聞いた。
「え? あ、そうだ! も、もし良ければ私もコロノさんのチームに入らせてもらえませんか? コロノさんから許可は取ってあるので!」
「あぁ、ええよ?」
陽朝のお願いをすんなりと受け入れたフィオーレは、陽朝の書いた入団申請用紙に目を通して、もう一度顔を上げる。
陽朝の記入した面を陽朝へと向けると、指で名前の所を指さす。
「陽朝ちゃん、ついでにこの紙を名前の所だけでも良いから、月宵ちゃんにも書かせたいんやけど、ちょっと呼んでくれんかな?」
「あ、わかりました!」
フィオーレの頼みを快く引き受けた陽朝は、頭を押さえて「おねぇちゃん!」と小さく呟く。事情を知っているフィオーレにもその動作の不思議さに目を丸くする。
少し経ち、軽猫が紙を書き終えて顔を上げた頃、目つきが変わり、目の前に座るフィオーレを見下す様なポーズをした月宵が軽く手を上げた。陽朝の様な優しい眼差しから、きつい目つきに変わっているのを確認した軽猫はフィオーレの背後へと隠れる様に移動した。
「ん? なんじゃお嬢。妾が怖いか?」
「え、あ……」
「まぁ、無理もない。ま、安心するが良い。妾とこのギルドの人間は味方だと分かったからのぉ。で、お主がリーダーじゃな? 初めまして。陰陽星出身、影族のリーダーだった月宵じゃ」
軽猫の態度に大袈裟に肩をすくめた月宵は、フィオーレに向き直って頭を下げる。
「こちらこそ初めまして。うちはテクスタのリーダー、フィオーレや。早速やけど月宵ちゃん、君の事が知りたいから、その紙を書いてくれんかな?」
「お? これの事かや?」
「そうそう。ま、適当でええで?」
「そりゃ楽でいいのぉ。命と家……はっ、大層な脅し文じゃ。お嬢の様なタイプがよく同意したのぉ」
「ん、いや」
軽猫の書いた紙を見ていたフィオーレは、すぐに月宵の言葉を取り消して紙を見せた。堂々と同意しないという方にチェックを入れている。これには思わず月宵も呆れた表情で軽猫を見た。
本人は視線を感じて更にフィオーレの後ろで縮こまっている。
それを見た月宵は、フィオーレの顔を見ると紙を渡す様な仕草を見せる。その様子を怪訝そうな顔で見ていたフィオーレも、すぐに意図を察して紙を渡す。
「さて、と」
紙に何やら付け足した月宵は、フィオーレに返して自分の紙に視線を戻す。
「使用武器か。使用武器は影刀イチノセじゃ。戦い方ぁ? ふむ、強い奴と戦えればそれで良いわ」
「影刀イチノセ? それは文献で見た事あるわ。影族のリーダーが持っていた、全長を誰も知らん特殊な刀なんやろ?」
「確かに特殊かもしれんな。まぁ、全長は別に見せてやっても良いぞ。ほれ」
言葉と共に影刀イチノセの持ち手を引くと、一気に陰から引っ張り出した。陽朝の三倍はあるだろう武器を器用に回すと、月宵は肩に担いでみせる。
持ち手の先に伸びる刃は左右に伸びていて、一見両刃剣の並刃に見えるイチノセは、限界までくの字に曲がっている。
「影刀なんて名前をしておるが、これは刀でも両刃剣でも無い。回転投刃という代物で、お主等に伝わりそうな名前で言えばブーメランと言ったところじゃな」
重そうなイチノセを軽々振りながら説明した月宵は、満足そうに武器を影へとしまった。そして、身にまとう羽衣を翻してギルド長室の扉へ手を掛ける。
「おいお嬢。さっさとコロノの元へ向かうぞ。さっさとついてこないと置いていくから、道に迷っても知らんぞ」
「うぇ? あ、ちょ、ちょっと待ってよ月宵ちゃん!」
「それでこそ家と命を捨てる覚悟を持った者じゃ。急ぐぞ。あやつの魔力を追う」
何かを期待するような瞳を持った横顔を見て、すぐにコロノと戦うつもりだと確信した軽猫は急いで立ち上がり、扉に手を掛けた所で首を捻った。急いでフィオーレの元へと戻り、自分の記入した紙を確認すると、チェックマークが塗りつぶされ、同意するにチェックが付いていた。
昼ごはんの席に同行した陽朝から、先程あった事の話を聞いた軽猫は、頭に未だ疑問符を浮かべながらもとりあえず頷いた。
「ふむ、実力は申し分ないんやけどなぁ……」
隣に座るフィオーレは、口元に小さな笑みを作りながら陽朝を上から下までを妖しい瞳で見つめる。テンとメイユは、陽朝からもらったバケットの中身を見て笑顔で顔を見合わせた後、席を離れて食事をとっている。
「にゅ、入団試験なら受けます! ダメ……ですか?」
フィオーレの視線に身を固めながらも、陽朝は真剣な顔で頼む。その様子を見て、隣にいる軽猫もフィオーレの顔を見つめて、
「私からもお願いします。陽朝ちゃんの強さは私も保証します」
頭を下げて言った。そんな光景を食事室にいるギルドメンバーは不思議そうに見つめながらも食事を続ける。フィオーレは食事を続けながら二人の顔を見る。
口に入った物を飲み込むと、困った様に頭を掻き、懐から一枚の紙を取り出す。
「申し分ないし入団試験も免除出来るんやけど、この紙しか無いんや。軽猫ちゃんに書かせそびれていたギルド入団申請用紙やな。一応軽猫ちゃんの為に作った物だから既にチームのリーダーがコロノ君になっているんよ」
フィオーレの残念そうな顔に、軽猫と陽朝は顔を綻ばせて見合わせ、フィオーレに頭を下げる。
「はよ書かんと知らんで。一応今の段階では、陽朝ちゃんはうちのメンバーじゃないんやから、うちのメンバーにお前誰だなんて聞かれてもフォロー出来ないで」
それを聞いた陽朝は、紙の傍に落ちているペンを急いで手に取るのだった。軽猫がもう一度フィオーレに頭を下げると、フィオーレは微笑み返して料理を指さし、
「無くなるで?」
とだけ言って、また料理を口に運んだ。
「さて、とりあえず軽猫ちゃんにも本当に紙を書いてもらう為にギルド長室へ戻ってきたわけだけど、陽朝ちゃん、何か聞いておきたい事はある?」
ギルド長室で、紙に目を通している軽猫から陽朝へと視線を移動させたフィオーレは、椅子に腰かけて聞いた。
「え? あ、そうだ! も、もし良ければ私もコロノさんのチームに入らせてもらえませんか? コロノさんから許可は取ってあるので!」
「あぁ、ええよ?」
陽朝のお願いをすんなりと受け入れたフィオーレは、陽朝の書いた入団申請用紙に目を通して、もう一度顔を上げる。
陽朝の記入した面を陽朝へと向けると、指で名前の所を指さす。
「陽朝ちゃん、ついでにこの紙を名前の所だけでも良いから、月宵ちゃんにも書かせたいんやけど、ちょっと呼んでくれんかな?」
「あ、わかりました!」
フィオーレの頼みを快く引き受けた陽朝は、頭を押さえて「おねぇちゃん!」と小さく呟く。事情を知っているフィオーレにもその動作の不思議さに目を丸くする。
少し経ち、軽猫が紙を書き終えて顔を上げた頃、目つきが変わり、目の前に座るフィオーレを見下す様なポーズをした月宵が軽く手を上げた。陽朝の様な優しい眼差しから、きつい目つきに変わっているのを確認した軽猫はフィオーレの背後へと隠れる様に移動した。
「ん? なんじゃお嬢。妾が怖いか?」
「え、あ……」
「まぁ、無理もない。ま、安心するが良い。妾とこのギルドの人間は味方だと分かったからのぉ。で、お主がリーダーじゃな? 初めまして。陰陽星出身、影族のリーダーだった月宵じゃ」
軽猫の態度に大袈裟に肩をすくめた月宵は、フィオーレに向き直って頭を下げる。
「こちらこそ初めまして。うちはテクスタのリーダー、フィオーレや。早速やけど月宵ちゃん、君の事が知りたいから、その紙を書いてくれんかな?」
「お? これの事かや?」
「そうそう。ま、適当でええで?」
「そりゃ楽でいいのぉ。命と家……はっ、大層な脅し文じゃ。お嬢の様なタイプがよく同意したのぉ」
「ん、いや」
軽猫の書いた紙を見ていたフィオーレは、すぐに月宵の言葉を取り消して紙を見せた。堂々と同意しないという方にチェックを入れている。これには思わず月宵も呆れた表情で軽猫を見た。
本人は視線を感じて更にフィオーレの後ろで縮こまっている。
それを見た月宵は、フィオーレの顔を見ると紙を渡す様な仕草を見せる。その様子を怪訝そうな顔で見ていたフィオーレも、すぐに意図を察して紙を渡す。
「さて、と」
紙に何やら付け足した月宵は、フィオーレに返して自分の紙に視線を戻す。
「使用武器か。使用武器は影刀イチノセじゃ。戦い方ぁ? ふむ、強い奴と戦えればそれで良いわ」
「影刀イチノセ? それは文献で見た事あるわ。影族のリーダーが持っていた、全長を誰も知らん特殊な刀なんやろ?」
「確かに特殊かもしれんな。まぁ、全長は別に見せてやっても良いぞ。ほれ」
言葉と共に影刀イチノセの持ち手を引くと、一気に陰から引っ張り出した。陽朝の三倍はあるだろう武器を器用に回すと、月宵は肩に担いでみせる。
持ち手の先に伸びる刃は左右に伸びていて、一見両刃剣の並刃に見えるイチノセは、限界までくの字に曲がっている。
「影刀なんて名前をしておるが、これは刀でも両刃剣でも無い。回転投刃という代物で、お主等に伝わりそうな名前で言えばブーメランと言ったところじゃな」
重そうなイチノセを軽々振りながら説明した月宵は、満足そうに武器を影へとしまった。そして、身にまとう羽衣を翻してギルド長室の扉へ手を掛ける。
「おいお嬢。さっさとコロノの元へ向かうぞ。さっさとついてこないと置いていくから、道に迷っても知らんぞ」
「うぇ? あ、ちょ、ちょっと待ってよ月宵ちゃん!」
「それでこそ家と命を捨てる覚悟を持った者じゃ。急ぐぞ。あやつの魔力を追う」
何かを期待するような瞳を持った横顔を見て、すぐにコロノと戦うつもりだと確信した軽猫は急いで立ち上がり、扉に手を掛けた所で首を捻った。急いでフィオーレの元へと戻り、自分の記入した紙を確認すると、チェックマークが塗りつぶされ、同意するにチェックが付いていた。
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