花に願いを
第26話
「で、ここが事件のあった部屋やな。ここは使ってない部屋だったから、本当に軽猫ちゃんがいなかったらまずかったわ」
一階から広いギルドを案内された軽猫は、昨夜事件のあった部屋の前でフィオーレの説明を聞いていた。軽猫が割った窓も竜太郎が抜いた扉も元通りに戻っている。
「なぁ軽猫ちゃん、犯人の詳しい事を教えてくれへん?」
「あ、はい。犯人は影の中に隠れる能力を持っていました。仮面をつけていたので、顔は見えませんでしたが、声からして女性だと思います。私の知り合いの様な話ぶりでしたが、そんな能力を持った知り合いにも記憶は無いんです」
「……ま、仕方ないわ」
心なしか残念そうに言ったフィオーレは、部屋の中に入る。その背中を見て、軽猫は不意に疑問がわき上がった。
(あれ、昨日の犯人、なんでナイフと遮光石だけ置いていったんだろう……?)
一度沸き上がった疑問は止まる事なく溢れてきた。
もしも自分以外を影に入れられないのだとすれば服も仮面も置かれるはずであるし、逆に遮光石やナイフも影に入れられるのであれば影に入れて消えればよかったのではないか。
「軽猫ちゃん?」
溢れ出る疑問に蓋をしたのは、部屋を見終わって後ろ手に扉を閉めているフィオーレだった。心配そうに軽猫の顔を覗き込んでいるのを見て、軽猫もようやく正気に戻った。
「あの……犯人の凶器が私の部屋にあるんです。さ、先に自分で調べようと思ったんですが、もし駄目だったら持ってくるので調べさせてもらえませんか?」
隠してしまった罪悪感に、フィオーレの顔から目をそらして報告した軽猫は、怒られるのを覚悟して目を閉じた。そんな軽猫の頭に、軽く手が置かれる。
「軽猫ちゃんが調べたらええやん。別に、うちはその後に渡してもらえばええで? だって、犯人の事を一番わかりそうなのは軽猫ちゃんやろ?」
桃色の髪の毛が乱れないように注意しながら頭を撫でたフィオーレは、軽猫の肩を軽く叩くと、先導するように玄関の方向へと向かった。
しばらく驚いた顔をしていた軽猫だが、フィオーレの背中へと頭を下げると急いで後を追った。
「朝だから起きろやぁ!!」
「何?」
一階の案内が終わり、二階を案内されていた時に竜太郎のそんな声が聞こえて軽猫は声の大きさに驚いて振り返ってからフィオーレと顔を見合わせる。フィオーレも驚いていたが、口元に笑みを浮かべて呆れた様にため息をついた。
「……多分朝のご飯号令や。ちょっと急ぐで? 下が大変な事になっているはずやから」
「あ、はい!」
フィオーレの後を追う様に食事部屋へ急いだ軽猫は、ギルドのメンバーに囲まれて口々に文句を言われて、すぐにでも喧嘩をしそうな竜太郎を見て、こめかみを押さえながら深いため息をついた。
「……全く」
「あ、あはは、竜太郎がごめんなさい」
食事室で並んで座り、ゆっくりと朝ご飯を食べているフィオーレは、皿に乗ったおかずを一通り食べてすぐに食事室から姿を消す竜太郎を見て、呆れた様にため息をつき、隣に座る軽猫はそんな彼女をなだめていた。
「そうや、軽猫ちゃんがジュエル洞窟で食べていた食事はどうやった? あれ、うちが作ってたやつなんやけど」
「え、あれフィオーレさんの手作りだったんですか? とても美味しかったですよ!」
「そら良かったわ。あんまり料理なんてしないから、不安だったんや」
「フィオーレ様」
二人で仲良く話しながらご飯を食べていると、机を隔てて向かい合う様にしてマークが姿を現した。席には座らず、立ったままフィオーレに声を掛ける。
「なんや?」
「テンさんとメイユさんが見当たりません。特にメイユさんは、昨日の事を聞く前に姿を消しています」
「ふ~ん」
普通なら大騒ぎする報告のはずだが、フィオーレは興味も無さそうにもう一口朝食のおかずを口へ運んだ。その様子を見てマークは頭を下げると、すぐに姿を消した。
「い、良いんですか?」
「ん?」
その様子を隣で見ていた軽猫は、不安そうな顔をしてフィオーレの顔を見つめるが、フィオーレの方は何事も無かったかの様に首を捻った。そしてまた一口おかずを食べる。
「て、テンさんとメイユさんが見当たらないって……もしかしたらまた襲われているんじゃ?」
「あぁ、ちゃうよ。竜太郎が出て行ったのを見てテンちゃん達が後を追っていたからそういう事やろ。ま、それで襲われたって言うなら犯人はほぼ間違いなく竜太郎やな」
「えぇ……」
それは無いと思いながらも、一抹の不安を覚えた軽猫は、食欲がなくなって両手を合わせた。ギルドメンバー全員分の食器を洗いながら、「洗い物も一緒にやってけよ」と小さく呟いているガンタタを見て小さく笑った。
「……こんな感じやな」
昼頃、ようやくギルドの三階の男子寮以外を紹介し終わり、玄関へと下りた時には昼になっており、ちょうどガンタタが呼ぶ声が聞こえていた。軽猫はフィオーレに頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「こちらとしてもありがとうやな。色々お話出来て良かったわ。まぁ、これからの冒険に役立ててほしいかな」
「勉強になります!」
フィオーレが手を振って食事室へ移動しているのを確認して、軽猫も歩き出そうとして食事室へ向けた目の端に、三人の人影が見えて足を止めた。三人の人影はゆっくりとギルドに近づいている。
しばらく見つめていた軽猫だが、ある程度三人が近づいてからようやくその三人が知り合いという事に気が付いた。
「テンさん! メイユさん! ……その後ろは、陽朝ちゃん!?」
テンとメイユ、陽朝が楽しそうに話ながらギルドへと戻ってくる軽猫を見て、事情を知らない軽猫は首を傾げる事しかできなかった。
一階から広いギルドを案内された軽猫は、昨夜事件のあった部屋の前でフィオーレの説明を聞いていた。軽猫が割った窓も竜太郎が抜いた扉も元通りに戻っている。
「なぁ軽猫ちゃん、犯人の詳しい事を教えてくれへん?」
「あ、はい。犯人は影の中に隠れる能力を持っていました。仮面をつけていたので、顔は見えませんでしたが、声からして女性だと思います。私の知り合いの様な話ぶりでしたが、そんな能力を持った知り合いにも記憶は無いんです」
「……ま、仕方ないわ」
心なしか残念そうに言ったフィオーレは、部屋の中に入る。その背中を見て、軽猫は不意に疑問がわき上がった。
(あれ、昨日の犯人、なんでナイフと遮光石だけ置いていったんだろう……?)
一度沸き上がった疑問は止まる事なく溢れてきた。
もしも自分以外を影に入れられないのだとすれば服も仮面も置かれるはずであるし、逆に遮光石やナイフも影に入れられるのであれば影に入れて消えればよかったのではないか。
「軽猫ちゃん?」
溢れ出る疑問に蓋をしたのは、部屋を見終わって後ろ手に扉を閉めているフィオーレだった。心配そうに軽猫の顔を覗き込んでいるのを見て、軽猫もようやく正気に戻った。
「あの……犯人の凶器が私の部屋にあるんです。さ、先に自分で調べようと思ったんですが、もし駄目だったら持ってくるので調べさせてもらえませんか?」
隠してしまった罪悪感に、フィオーレの顔から目をそらして報告した軽猫は、怒られるのを覚悟して目を閉じた。そんな軽猫の頭に、軽く手が置かれる。
「軽猫ちゃんが調べたらええやん。別に、うちはその後に渡してもらえばええで? だって、犯人の事を一番わかりそうなのは軽猫ちゃんやろ?」
桃色の髪の毛が乱れないように注意しながら頭を撫でたフィオーレは、軽猫の肩を軽く叩くと、先導するように玄関の方向へと向かった。
しばらく驚いた顔をしていた軽猫だが、フィオーレの背中へと頭を下げると急いで後を追った。
「朝だから起きろやぁ!!」
「何?」
一階の案内が終わり、二階を案内されていた時に竜太郎のそんな声が聞こえて軽猫は声の大きさに驚いて振り返ってからフィオーレと顔を見合わせる。フィオーレも驚いていたが、口元に笑みを浮かべて呆れた様にため息をついた。
「……多分朝のご飯号令や。ちょっと急ぐで? 下が大変な事になっているはずやから」
「あ、はい!」
フィオーレの後を追う様に食事部屋へ急いだ軽猫は、ギルドのメンバーに囲まれて口々に文句を言われて、すぐにでも喧嘩をしそうな竜太郎を見て、こめかみを押さえながら深いため息をついた。
「……全く」
「あ、あはは、竜太郎がごめんなさい」
食事室で並んで座り、ゆっくりと朝ご飯を食べているフィオーレは、皿に乗ったおかずを一通り食べてすぐに食事室から姿を消す竜太郎を見て、呆れた様にため息をつき、隣に座る軽猫はそんな彼女をなだめていた。
「そうや、軽猫ちゃんがジュエル洞窟で食べていた食事はどうやった? あれ、うちが作ってたやつなんやけど」
「え、あれフィオーレさんの手作りだったんですか? とても美味しかったですよ!」
「そら良かったわ。あんまり料理なんてしないから、不安だったんや」
「フィオーレ様」
二人で仲良く話しながらご飯を食べていると、机を隔てて向かい合う様にしてマークが姿を現した。席には座らず、立ったままフィオーレに声を掛ける。
「なんや?」
「テンさんとメイユさんが見当たりません。特にメイユさんは、昨日の事を聞く前に姿を消しています」
「ふ~ん」
普通なら大騒ぎする報告のはずだが、フィオーレは興味も無さそうにもう一口朝食のおかずを口へ運んだ。その様子を見てマークは頭を下げると、すぐに姿を消した。
「い、良いんですか?」
「ん?」
その様子を隣で見ていた軽猫は、不安そうな顔をしてフィオーレの顔を見つめるが、フィオーレの方は何事も無かったかの様に首を捻った。そしてまた一口おかずを食べる。
「て、テンさんとメイユさんが見当たらないって……もしかしたらまた襲われているんじゃ?」
「あぁ、ちゃうよ。竜太郎が出て行ったのを見てテンちゃん達が後を追っていたからそういう事やろ。ま、それで襲われたって言うなら犯人はほぼ間違いなく竜太郎やな」
「えぇ……」
それは無いと思いながらも、一抹の不安を覚えた軽猫は、食欲がなくなって両手を合わせた。ギルドメンバー全員分の食器を洗いながら、「洗い物も一緒にやってけよ」と小さく呟いているガンタタを見て小さく笑った。
「……こんな感じやな」
昼頃、ようやくギルドの三階の男子寮以外を紹介し終わり、玄関へと下りた時には昼になっており、ちょうどガンタタが呼ぶ声が聞こえていた。軽猫はフィオーレに頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「こちらとしてもありがとうやな。色々お話出来て良かったわ。まぁ、これからの冒険に役立ててほしいかな」
「勉強になります!」
フィオーレが手を振って食事室へ移動しているのを確認して、軽猫も歩き出そうとして食事室へ向けた目の端に、三人の人影が見えて足を止めた。三人の人影はゆっくりとギルドに近づいている。
しばらく見つめていた軽猫だが、ある程度三人が近づいてからようやくその三人が知り合いという事に気が付いた。
「テンさん! メイユさん! ……その後ろは、陽朝ちゃん!?」
テンとメイユ、陽朝が楽しそうに話ながらギルドへと戻ってくる軽猫を見て、事情を知らない軽猫は首を傾げる事しかできなかった。
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