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プラスチックの兵士

阿刀翼

第二話 人を包み、空を歩くもの

 そんなことに思いふけりながら目的地まで半分といった所まで歩いただろうか、朝に汲んでおいた水と携帯食料を三人で食べながら休憩しているとエダマメが私の服のそでを引っ張った。


「アンカル…ん、あっちから…何か来る……」


 エダマメが指差した方を見た。この先の道を指しているのだが、私には何も見えなかった。


「特になにも見えないが、こちらに向かってきているのか?」


 エダマメはこくりとうなずいた。
 目を擦り、もう一度見るがやはり何も見えない。
 エダマメはずっと虚空こくうを指している。ヒナラキもこちらに向かっている何かに気付いたのか、警戒けいかいするためにスッと立ち上がり、少女が指す方向をじっと見つめた。


「動物か?人か?」


 腰についたナイフをさやから抜き、身構えた。
 たずねても返事はなかったが、念のため警戒けいかいすることにした。
 以前に盗賊や人さらいに襲われそうになったことが頭をよぎったからだ。


 じっと、その何者かが来るのを待っていると独特の機械音が耳に入ってきた。


「ウィーン…ギギギッ…ヒューン、ヒューン」


 方向転換するための足の駆動音くどうおん、飛行するための空気を排出するスラスター音。
 私はどこかで聞いたことがある音だと感じ、記憶を巡らせた。
 はっと気づいた私は、それが自分らに害がないものだと判断し、構えを解いてナイフを鞘に仕舞った。


「あれは『人を包み、エア・空を歩くものウォーカー』の音だ。警戒しなくていい」


 エダマメは指を下ろし、首を横に傾けながら尋ねてきた。


「えあ…うぉーかー?」


「ああ、分かり易く言えば、空に浮く黒い箱に二本のあしが付いていて、その中に人を乗っけて移動しているロボットのことさ。見たことないか?」


「ない」


 即答だった。


「だろうな、あれは都市部の乗り物だ」


「しかし、妙だな。こんなところに来るなんて、お偉いさんでも乗っけているのか?」


 エア・ウォーカーは黒色で二足で飛行ひこうするロボットだ。普段であれば、都市部で荷物の運搬や人間の送迎そうげいを行うロボットとして扱われているはずだが。今回は場合が違う。私もドームの外でそれを目にするのは初めてのことだった。


 しばらくすると機械音と共にエア・ウォーカーの姿が見えた。箱の正面にはだいだい色の乗車中のマークが出ている。
 私は意を決し、そのエア・ウォーカーに向けて大きく手を振ってみた。存在の認知と敵意が無いことを示すためだ。


「おーい」


 すると、エア・ウォーカーは三人の前で歩みを止め、その場で器用に足を折りたたんで乗客を降ろした。


「これはこれは、こんな所に人がいるとは珍しい」


 箱から出てきたのは、きらびやかな恰好かっこうをした裕福な体系の男性と白を基調としたドレスを着た清楚感せいそかんただよう女性だった。年齢はおよそ三十から四十代といったところだろうか。


「私らは夫婦で商いをやっております『ボリトー』という者です。何かお困りごとですかな?」


「妻の『シルカ』です」


 その言葉を聞き、安堵した。困りごとは無いかと質問したあたり、どうやら悪人ではなさそうだ。


「いえ、私たちは旅をしているものです。私は『アンカル』、この娘は『エダマメ』、あとペットの『ヒナラキ』と言います」


 自身らの紹介をいつわること無く説明することで相手が警戒心けいかいしんを解いてくれることを願った。


「ドームの外でエア・ウォーカーをお見受けするのは初めてのことでしたので、重役じゅうやくの方が乗車であれば我々の存在を認知してもらい、避けてもらおうと思いまして。」


 私は失礼の無いよう、知っている限りの丁寧ていねいな言葉で話した。


「なるほど、だからこちらに向けて手を振ったと…おや?」


 主人は顎髭あごひげを撫でたかと思うと何かに気付いたのか、カッと目を開いて私の胸元を指差した。


「おお!そちらの首からお下げになっているのは『都市部出身者の証』ではないですかな?」


 指差されたこの証は以前、都市部から出て行こうとした時に看守から渡されたもので、お守りの代わりに首からぶら下げていた。
 一見すれば赤い宝石の付いたアクセサリーにしか見えないのだが、実はこの赤い宝石に色々なデータが入っているらしい。以前に、ドーム外の盗賊らが話していたのを耳にしたことがあった。


「その通りです。私は都市部出身のものでございます。ある仕事で一儲ひともうけしましてね、今は長期の余暇よかをドーム外を旅しながら満喫しているところです」


 私は一つ、嘘をついた。この証は上手に扱えば有利に働くし、無下むげに扱えば命すらも危険にしてしまう物であることを知っていたからだ。
 同じ都市部出身の人間ならば多少の差別はあるが会話をしてくれるし、情報をくれることもある。
 一方で、この証が盗まれれば二度と都市部では住めないし、入るにも厳重な審査や身体検査が行われることになるのだ。この証を守ることが旅人にとって一番大切だと言っても過言ではない。


「それは、喜ばしい限りですな。ワッハハッハ」


「こちらの可愛らしいお嬢さんは?」


 そう言って、奥さんはエダマメの目線の高さまでしゃがみ込んで、優しい声色でエダマメ問いかけた。


「こんにちは、可愛いお嬢さん。おいくつかうかがっても?」


 エダマメは少し困惑した表情でお得意の軽い会釈をすると、右手で五を、左手で四を作り上げて自身が九歳であることを証明してみせた。


「あら、可愛らしい。九つでしたか、お辞儀じぎもできて立派ですね」


 奥さんはよしよしとエダマメの頭を撫でた。


「ちゃんとあいさつしなきゃダメだろう?すみません。この子は姪っ子でしてね、分け合って預かっていまして」


 私はもう一つ、嘘をついた。
 エダマメの処遇について説明しても厄介になると思ったからだ。


 そんな他愛のない会話を続けていると、主人の方が私にズイッと近付いて耳打ちをしてきた。


「一つ、都市部出身の間柄として取引のお話がしたいのですが…」


 おそらく、二人きりで話がしたいとのことだろうと言葉をくみ取った。


「シルカ、ちょっとの間そのお嬢さんと遊んでやっといてくれないか?」


 私はヒナラキにエダマメと一緒に付いて行けとアイコンタクトを送った。
 奥さんはエダマメと手を繋ぎ、ヒナラキを連れて離れの花畑へ向かって行った。


「さて、さっそく商談に……」


 主人がつぶやいたところで、私は言葉を遮るように質問をした。


「ちょっとお待ちください。すみませんが、私は旅を長いことしておりまして大変、無知な存在であります。よろしければ都市部の現状とこの先の村のことについて教えていただけませんか?」


「ふむ、そうでしたな。では、ご質問からお答えましょうかね」


「都市部では現在、目立った問題や事件は起きてはいませんな。ニュースといたしましては段階的ではありますが人間のアンドロイド化が始まったとか噂されていましたな」


「人間のアンドロイド化…」


「ええ、なんでも医療チームにアンドロイドの天才と呼ばれる男が入ってきたとかでここ何年かで技術がえらい進歩したとか」


「天才ですか…」


「あとは、この先の村についてでしたな。この先の村は「ナニヤ・ニニ」という名で、周囲がここと同じ豊かな自然で囲まれた村ですな」


「今時珍しい、王が支配する貴族制の村でしてな。最南端には象徴である大きな城が立っていますぞ。城下町はいつもにぎやかで、常にもよおし物が開かれていましてね。それは、大層たいそうにぎやかな村でございます」


「それは、もはや『村』というよりかは『国』ですね」


「そのとおりですな、ワッハッハ」


 ここで、主人は鋭い目つきをした。


「さて、ここからが商談です。その村では人間、アンドロイド問わず奴隷制度を採用していましてな。私らは表向きは普通の商会をやっとりますが、裏では奴隷の密買をしているのですよ」


「都市部の買い手と村の売り手とで円滑な交渉をするための仲介人としてお考えいただければよろしいかと」


 私はその言葉に震驚した。


「な…なんで、そんな秘密を私なんかに…」


 主人はにやりと笑った。


「いやいや、これも何かの縁とございまして。都市部出身の方でしたら私の推薦すいせんがあれば、その村で奴隷を購入しても問題ないのですよ」


「旅をしていれば何かと不便でしょう?荷物持ちや見張りなど。奴隷がいれば何でもしてくれるし便利ですぞ。もちろん夜のお供にも……」


「いや…そんな、奴隷など。都市部の警備にでも見つかってしまったら」


 そう、基本的に都市部の中にドーム外の人間またはアンドロイドが侵入することは禁止されている。感染症がどうたらこうたらで何かと厳しいのだ。
 ましてや、奴隷制度が無い都市部では奴隷を購入するだけでも禁止されているし、見つかれば罪に問われる。


「これでも警備や王に融通ゆうずうが利く身でしてね、なにか問題があっても大抵のことはもみ消せるのですよ、ワッハッハ」


 混乱している私を他所に主人は一枚の名刺を取り出すと、こちらに渡してきた。


「これは?」


「それは、私が村で商う商会の名刺です。これを受付に見せれば裏口に通してくれますぞ」


 私はたじろいでいると、主人は奥さんとエダマメを呼んだ。
 エダマメと奥さんは頭に白い花で作った綺麗な花冠かかんをつけて戻ってきた。


 主人は自身の時計を確認し、こちらに一礼してきた。


「では、私たちはこれで失礼しますぞ。きっと気に入りますのでぜひお立ち寄りください」


 奥さんは私が手にした、名刺を見て怪しい笑みを浮かべた。
 二人は黒い箱の中に戻ると、エア・ウォーカーは音を鳴らしながら立ち上がり、都市部へと去っていった。
 私は去っていく姿を呆然と見ながら立ち尽くしていた。


 名刺を握る手はあせれていた。

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