気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「野口陸士ですか?自衛隊も内部は厳しいと聞きますが、元気で頑張っていたら良いですね。
 彼ほどではないですが、確かに矢内君も東北の訛りは有りましたね、言われてみれば……」
 祐樹の声が感心したような響きを帯びているのが嬉しくて、心が弾む。
「それに『エンゼル・ケア』という言葉も使い慣れている感じだったし、医療関係系の学生かな?とは思った」
 祐樹の顔がちょうど開いた店の扉の向こうからの灯りに照らされて、男らしく整った端整な横顔が浮かび上がって、ついつい見惚れてしまう。
「医療関係って言っても、専門学校とかもありますよね。コ・メディカル系だと後は看護学校とか短大とかも?」
 祐樹でも分からないことが有るのかと思うと何だか無性に可笑しくて暖かい笑いを弾けさせてしまった。
「――失礼。確かに専門学校とか看護学校などの線も考えたが、東北からわざわざ京都まで学びに来るのは不自然だなと。
 東北にそういう学校がいくつあるかは寡聞にして知らないが、地元に無かったら東京で学ぶだろう?
 地理的に。
 わざわざ東京を飛び越えて、こちらに来る必要もないし。実際、東北から東京に学びに来ている人間は多いし『一度は東京に住んでみたい』と思っている若者も居ると何かで読んだ。
 わざわざ東京ではなくて、京都の専門学校を選ぶ人間は殆ど居ないだろう。
 親御さんだって、東京は家賃が高いとはいえ、やはり息子が専門学校で学びたいと言えば東京に決めるだろうし」
 祐樹が納得したように頷いた。
「そう言えば、京都よりも西側の出身者は多いようですが、東はそうそう居ないようですね。コ・メディカルの場合は。
 ただ、医学部となると、東大は少し厳しい状況だとウチを選びますよね……?だからそう思われたのですか」
 祐樹の滑舌の良い爽やかな声が夜の喧騒に心地よく響いている。
「それもあるが、後はあの『自信が有る』といった感じだな……。
 良い意味でも物おじしない性格というのは、なかなか専門学校生だと培われないので」
 自分で言うのも何だが、ナース志望とかは――特に自分の技量に自信を持っていない人に多く見られる特徴として――何だか卑屈さを感じることの方が多い。というか、医師志望が全然ダメで、仕方なくナースを選んだという人も居るのも現状だった。
「ああ、それは有りますね。
 というか……」
 祐樹が一瞬、言葉を切った。
 そして。

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