気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「そんなの簡単じゃないですか?まあ、ウチの医局は私が選考に臨んだ時以上に狭き門だと聞いていますので、よほど成績が良くてしかも、会話力に秀でた人しか受からないんですけど……。
 その『真珠の門』を突破して、ウチの医局に入ったら良いかと思います。個人的に」
 「真珠の門」とは確か聖書に書いてある「天国への門」だったと思う。そんな比喩ひゆ的表現がウワサされているとは知らなかったが。祐樹が何と話すのかをーー多分、自分以上に矢内君に響く言葉を掛けてくれることは分かっているーー黙って聞くことにした。
 ただ、天国の門と言ったって、天国にいるような幸せなモノでもないような気がした。まあ、自分は手技しか出来ないし、その得意な手技を祐樹が褒めてくれるだけで天国にいるような幸せを感じてしまっているが。
「才能が有ると判断した場合は、残業代とかはウチの科持ちで救急救命室にも『出向』扱いで行けますし。救急救命医の資格も取れますよ?」
 祐樹のナイスフォローに、矢内君の顔が夜目にも明るい表情に変わっていったのが分かった。
 夜といっても祇園にも近いこの辺りは、いわゆる観光地かつ歓楽街なので店の明かりも賑やかだった。
 ただ、祐樹と良く行くーーといっても最近は本の出版とかそれにまつわるイベントでプライベートな時間が削られていることもあって中々行けていないのも事実だった、不満とかではなくーー大阪とは異なって京都市の条例で明かりなどは制限されている。
「ああ!その手が有りましたね。難関中の難関で……、しかも他大学の人間も多数志望する狭き門ですが『パール・ゲート』を突破できるように頑張ります!!有難うございました!握手までして頂いて何だかもっと頑張ろうと思えるようになりました」
 ペコリと頭を下げた矢内君は、もう一度「有難うございました」と言って弾むような足取りで雑踏の中に消えていった。
「ウチの大学の学生だと良く分かりましたね?」
 気に入って通っているカウンター割烹の店に向かいながら、祐樹が感心したような口調で聞いてきた。
「いや、東北の方言が言葉の端々はしばしに残っていた。それほど東北と縁があるわけでもないが、野口陸士の言葉と似ていたから……」
 祐樹も懐かしそうな遠い目をしている。
 そして。

 

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