気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「そうなんですか?中学の時だったかと思いますが『楽聖』と呼ばれる偉大な作曲家だ!と習った覚えが有ります。けれど、そういうお金で動く面が有るのですね。何だか人間臭くて良いですね。
 ほら、ゴッホでしたっけ?あの人は生きている間に一作しか売れなくて『プロの絵描き』というよりもただのアマチュアというか趣味が高じた変人とか呼ばれていたらしいですけど。まさか今では億円とかその一桁上で取引されるとは思ってもいなかったでしょうね。
 まあ、それはともかく『不滅の恋人』は封印します。その恋人の特定は出来ていないんですよね?なんか物凄く今までの大作曲家というイメージから一気に親近感を抱きました」
 祐樹が興味津々といった感じで聞いてくれるのがとても嬉しい。
 祐樹が主治医を務める患者さんの中にクラシック好きの人間も居るのだろう。関西という土地柄――といっても大阪ほどの熱狂的かつ傍若無人と新聞紙に評されたほどの熱心なファンは居ないらしいが――タイガースのファンも居れば、10割負担の外国の方がわざわざ手術を頼みにいらっしゃることもある。
 そして、祐樹の英語力は医局で抜群だった。もちろん遠藤先生のように論文やレポートを書くだけなら祐樹よりも上手い人は居るが、会話のキャッチボールがテンポよく行かないらしい。
 要は英語を聞き取ってから日本語に直した後に、答えを日本語で考えたのを英訳するという手間が必要らしくて、水が流れるような会話となるとお手上げらしい。
 その点祐樹は持ち前の器用さを発揮して、英語には英語で返すというシンプル・イズ・ベストな方法を取っている。そしてその方法を教えたのは――というか自分の場合は祐樹が綺麗な人を口説いている(と当時は思い込んでしまった衝動が切っ掛けだった――体験談としてそちらの方が早いと判断したからだった。
「人間臭い……か。確かにそうだが、インスピレーションが時と場所を構わず降りて来てしまう才能だったらしい。
 ゴッホなどと異なって、有名な作曲家というのは住んでいたウイーンの街の人は皆知っていたらしくて、しかもインスピレーションが降ってくる……」
 祐樹が複雑そうな、そして何だか苦いモノを知らずに食べてしまった感じの表情だった。
 直ぐに「不滅の恋人」として候補に挙がった女性たちを紹介しなかたからとも思えないが。
 一体。

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