気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「ああ、その件か。
 私もあの素晴らしい写真は柏木先生にも、そしてこの辺りで食事とかお酒を呑むに来るナースとかの病院関係者に露見しないように大判の『肖像写真』の永久版にしようと思う。
 祐樹と撮った写真はたくさんあるが、ちょうどその場に居合わせた人か、機械で撮ったものだろう。だからプロがキチンと撮った写真というのは凄いなと。
 先客の御嬢さんはお見合い写真用のサイズだったが、祐樹が想定しているのもあの大きさなのだろう。
 それはそれで嬉しい『宝物』の一つに加わるが、もっと細部まで映り込んでいる写真が欲しい。
 琥珀こはくの色をつけられた写真に出来上がるのだろう?柏木看護師が頼んだ薔薇の純白さがどれだけ出ているか分からないが、753の時などに、両親と主役の子供の集合写真みたいで――何だか本当の家族の肖像みたいで……」
 ちなみに母は病弱だったし、父親も亡くしていたので753には行っていない。
 祐樹にだけは自分の成育歴を細かく話しているので即座にピンと来たらしい、753の件は。
「法律で保証されては居ないのですが、ほら、婚姻届を出した夫婦でも仮面夫婦とか居ますよね。
 私達はフランスなどに多い『事実婚』で良いのではないでしょうか?
 ちなみに私は753に5歳の時に連れて行って貰っています。しかも奮発して和服姿なのは良いとして――もちろんレンタルですが――神社って砂利じゃりが敷き詰められていますよね。草鞋わらじじゃないですね、ああ草履ぞうりですか?あれって足袋は履いているとはいえ、地面に接する面積も多いので、物凄く居たかった思い出と、あと、その神社ご自慢の庭園には見事な鯉がたくさん泳いでいて、親が目を離した瞬間を狙って走って行って池に入って緋色の鯉を手づかみで捕獲しました。
 母はカンカンになって『池の鯉は神様の使いだから早く戻しなさい!そして池も神様のモノなので直ぐに上がって来なさい!!』って言っていましたけど、今思えば、レンタルの袴とか足袋や草履を弁償しなくてはならないからだったからでしょうね……」
 祐樹らしいエピソードに思わず笑い声を弾かせてしまう。柏木看護師と別れて繁華街を歩いているし、しかも京都は若者の街なのでこの程度の笑い声だと人の目を引かないだろうな……と計算はしていた。
「それはお母様もさぞかし驚いただろうな……。配色で値段は異なるが錦鯉にしきごいで一匹百万円とかはザラだそうだし。
 ああ!」

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