気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹はバツの悪そうな表情を浮かべている。祐樹は大学入試に関係の有る科目は「それなりに」勉強していたとか言っていた。多分「それなりに」というのは祐樹の謙遜で、かなり本腰を入れていたのだろうが。ただ、それ以外の科目については手を抜きまくっていたということも聞いている。
 もしかしたら鉛筆転がしで答えを決めていたのかも知れないな……とか思ってしまった、微笑ましく。
 何だかそういう要領の良さも祐樹らしくて。
「いや、しかしさすがの私でも医師国家試験は至極真面目に取り組みましたよ?あのマーク式では、百発百中を誇る鉛筆転がしの秘儀を封印しました。
 看護師国家試験もそうですよね、きっと」
 両方ともマークシート方式で実技などはないことは知っている。問題文のレベルは当然異なるが。
 そんなことを思っていると、今度は柏木看護師が何だか複雑かつ曖昧な笑みを浮かべている。
「え?まさかと思ったのですが、国家試験でも鉛筆転がしをしたのですか?まあ、あのテストは普段の看護学校の授業を真面目に受けていれば必死にテスト対策をせずにのほほんと受けに行って、簡単に合格出来るという話を某ナースから聞いていますが?」
 柏木看護師が少し気の毒になって――試験の結果は大丈夫だったのだろうし、そんな机上の知識よりも実際に働き始めたら経験とか本人の努力次第で腕も上がる。少なくとも柏木看護師は手術室ナースとしては素晴らしい運動神経を遺憾なく発揮してくれている――慌てて口を開いた。
「お店の方にこれ以上迷惑をかけるのもどうかと思いますし……。手早く選んでしまいませんか?
 この二枚のどちらかを選ぶと言うことですよね?ちょっと手に取って頂けませんか?」
 柏木看護師がホッとしたような表情を一瞬だけ浮かべて、二葉の写真をそれぞれの手に持った。
「ああ、ではこちらにしましょう。それで良いですか?」
 祐樹は自分の判断の基準が分からなかったのか、少しだけ怪訝そうな表情を浮かべている。
 ただ、その二枚にそんなに大した違いはないので異存はないらしいが。
「はい。そうします。私もこっちの方が良いかな?と思っていたので」
 お店の人に必要事項を伝えて――そして後でもっと大判のサイズも頼みに来ようと決意を新たにしたのは言うまでもない――「やっと」帰路につくことが出来た。
「良く彼女があっちを選びたいと思っていたことが分かりましたね?あんなに似ている写真なので、どっちでも同じだと私は内心思っていましたが」
 祐樹の素朴な疑問に口を開いた。

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