気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹は確かに病院イチのチョコ獲得数を誇っている。バレンタインディなどは医局もお祭り騒ぎになって、黒木准教授も苦笑しているくらいだった。ただ、ナースや事務局の女性なので患者さんを押しのけるような「暴挙」は流石にしない。まあそんな事態にでもなれば祐樹が血相を変えて怒るとか、医局ではない場所、例えば会議室とかに誘導するかのどちらかだろう。
 病院中の女性が群がっている様子も、歩行許可の出た患者さんはーーそもそも入院中は暇を持て余している人が多いーーわざわざ他科に入院中であっても見に来るとかいうウワサだった。
 バレンタインの恒例イベントとして定着している感じで、皆が楽しそうなので黙認しているというのが現状だった。
 しかし、祐樹だってーー自分は世界一カッコ良いと想ってはいるがーー「病院内」のアイドルという一部限定のような気がする。
 テレビに出ているような全国的知名度を誇る人気アイドルとは土台が違う。それなのにこんなに熱狂される理由はさっぱり分からない。
 ただ、柏木看護師の目をキラキラさせている様子は物凄く楽しそうだ。
「お疲れ様です。撮影は終わりました。フィルムは順次スナップ写真の大きさで焼いていますので、その中から選んで頂きます」
 店主兼カメラマンの声にそういえば、自分達の先に来た振り袖姿の女性も母親らしき人と必死な感じでセレクトしていたな……と思い出した。
「はい、分かりました」
 祐樹よりも早く柏木看護師が元気いっぱいといった感じで答えている。
 こんな女性だったのか……と職務中とのギャップにーーといってもサイン会の時にもちらりと思ったがその時は柏木先生に対してだったので「夫婦間の気心の知れた親しさ」だと思っていた。
 それが今日はーー自分は芸能界についてはほとんど知らないがーーなんだか二人のマネージャーみたいな感じだった。
 スタジオから出て、カウンターの所に行くと先ほどの気合の入った振り袖姿の女性ーー多分お見合い用の写真なので出来るだけ映りの良いものを選びたくなる気持ちは何となく理解できた。
 祐樹経由で聞いた久米先生の「縁談」話にも釣書つりしょとかいうこれまでの経歴から親戚などの勤務先とか趣味・そして身長・体重ーーこれはアテにならないと祐樹は苦い笑みを浮かべていたがーーを見たうえで写真で会うかどうかを決めるらしい。
 だから、写真選びが重要なのも分かるような気がした。
 しかし。

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