気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹があからさまにムッとした表情を浮かべていて、物凄く驚いた。
 自分にこういうトゲのある視線を向けられたのは出会って間もない時のことで、今から思えば誤解に次ぐ誤解というか、自分の言葉足らずっが原因だった。
 ただ、祐樹のそういう表情は二人の時にしか浮かべられなかったという過去もある。
 それが柏木看護師やカメラマンの前でというのは心の底か吃驚びっくりしてしまった。
「貴方もあちらでは、そういうこともなさったのですか?」
 祐樹の鋭い視線に射すくめられたので、脳が麻痺マヒしてしまったのか「そういうこと」の意味が分からなかった。
「――ああ、デープキスか?流石にそれはしなかったな。ハグは時々したが……」
 目敏い祐樹にはウソはつけないし、実際性的嗜好がマイノリティの自分が深いキスをすると冗談では済まないような気がして避けてきたのも事実だった。
「そうですか……。それなら良いです。ハグは向こうでは挨拶みたいなものですし」
 祐樹がやっと鋭い眼差しから春の陽だまりのような瞳の輝きに変えてくれた。
「まあ!素敵!田中先生ったら、何だか嫉妬しているみたいですね」
 柏木看護師のはしゃいだ感じの声がした。嫉妬……してくれていたのだろうか?祐樹が。
 いや、それよりも何故そこでとても嬉しそうな声を弾ませているのだと思ってしまう。
 世の中には色々な考え方とか捉え方をする人間が居るのは知っていた(積り)だったが、柏木看護師の思考方法は全くもって理解出来ない。
 祐樹と二人で入った書店の一画では「貴方は見ない方が良いです」と言われたが、多分ああいう本とかマンガを買う人は――売っているからには需要があるのだろう――そういう考えをするのだろうか?
 考えても分からない問題は放置するに限る。それが仕事とかならまだしも個人の趣味の範疇なので。
「嫉妬ですか?していますよ、いつも……」
 その言葉に正直驚いた。後から分かったことだったが、アメリカの誰でも知っている大富豪に「そういう意味で」アプローチされたことが有って、祐樹がヤキモキしていたことは知っている。その当時はその大富豪の秘書兼ボディガードが「祐樹好み」の男性だと思ったので、自分はそちらにばかり気を取られていた。
 それ以外「嫉妬」をされる要因はないと思っていたし、そもそも二人きりでない場所で何を言い出すのかと背中に汗の雫が宿ってしまう。
 すると。

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