気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「良いですね。しかし、もう少し密着して貰えませんか?頬をギリギリ引っ付けつけるかどうかの程度でお願いします」
 手術室勤務というのは知っていたが、きっとその前は病棟看護師でもしていたのだろう。呉先生から――ちなみに彼は不定愁訴外来に来る入院患者さんの話を聞いて、これは明らかに病院側が悪いという事例を病院長に送っていると祐樹から聞いたことが有る――「看護師さんが事務的過ぎて冷たくて……怖いです」というクレームも実際有ると聞いている。
 ウチの科では看護師が少しでも高圧的に出ると、その場に居合わせたら医師が、居なかった場合主治医が病棟に巡回した時にそういう不満は吸い上げているし、その不満を解消するために務めているので呉先生に相談するところまでは行っていない。
 ただ、それは医局全体の取り組みとして行っているので、他の科には内政不干渉なことには変わりがない。
 だから柏木看護師もテキパキかつ有無を言わせない感じでグイグイ来るのはその時のクセが出たのだろう。
 祐樹の香りが頬から漂ってくる。それに首筋に回った指の優しい強さとか肩に置かれた腕の心地よい重さにも陶然となる。白い薔薇の薫りもほのかに部屋を優美な雰囲気を更に高めているし。
「良いですね?こんな感じです」
 柏木看護師がナースの歩き方でツカツカと近付いて来てスマホで撮影した画像を見せてくれた。
 そこには祐樹も優しく瞳を自分へと落として上を向いた自分と絡み合っていた。そして薄紅色の自分の頬が祐樹の白い頬が3ミリほど離れていて、その祐樹や自分の笑みがごくごく自然な感じで画面に映っていた。
 親密な友人同士にしてはくっつき過ぎのような気がしたが。
 学生時代のコンパだと――ほとんど出席していないが――酔っぱらって肩を組んで道を歩くなど珍しくもない光景だけれども。
「こんなので良いのですか?もっと密着しますよ」
 祐樹が半ば面白がるような感じでけしかけている。祐樹もネットに晒されない限りは利益中心にシフトしたような感じだった。
「え!!良いんですか??」
 彼女の顔がパアッーっと輝いた。普段よりも濃いお化粧越しでもその変化は一目瞭然だった。
「いえ、その前にこのポーズをお願いします。その後、『特別版』として1万円で売り出そうかと思っています」
 マニアの趣味は良く分からない。祐樹はともかく自分にも一枚1万円の需要が有るのだろうか?
 ただ。

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