気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 アルバイトと思しき女性が白い薔薇の花束を抱えて入室して来た。
 祐樹が時々贈ってくれるような綺麗にラッピングされたのではなくて――花屋さんにそんなモノが有るか知らないけれど――自分が行きつけの老舗ブランドでは「プレゼント用ですか?それとも……」と控え目に聞かれる、自分用に買うのが圧倒的に多かったので。
 後者の場合は包装も簡易だが、将にそんな感じだった。
「本当は真っ白な胡蝶蘭にしたかったのですが予算の都合で……。皆からカンパを募ったのですが、写真を数十枚とか買うとかで、そっちに回すお金はないとか。まあ、コアなファンが居るので薔薇だけは辛うじて入手出来ました。
 じゃあ、お願いね」
 白い色にことさら拘ったのは多分椅子の腰掛部分が赤いからだろう。
 スタッフの女性だけでなくてカメラマンも一緒になって椅子の手すりとか背もたれの両端とかに手際よく白い薔薇を針金で留めていく作業に没頭していた。
 そう言えば、祐樹と百合香ちゃんのマンガを買う時に「こんなのは読まなくていいです」みたいなことを祐樹に言われて表紙しか見ていないが、薔薇がバックで渋めのイケメン(?)エリートと言った感じの男性と胸がないのが――ほぼ全裸なのでその辺りは見て分かった――不思議なくらい可愛らしい男の子とか制服と思しきブレザー姿の後ろには薔薇の花が描かれていることが多かったな……と思いだしてしまった。
 ただ、15輪の薔薇を椅子にバランス良く飾られていくのを呆然と眺めた。
 少女趣味とでも言うのだろうか、薔薇で囲まれた椅子というのは落ち着かない。
 祐樹を見上げると、広い肩を竦めて「この際、言うとおりにしましょう」のような眼差しが絡まった。
 柏木看護師の友達――どうやら看護師仲間がメインでその他は事務の女性が喜んで財布の紐を弛める企画らしい。
「やはり濃い茶色の重厚な椅子には赤ではなくて白い薔薇が良く映えますね。教授と田中先生には薔薇とか胡蝶蘭が似合うと思っていました。ほら、サイン会の時の背景は滝のように流れる胡蝶蘭が素敵でしたもの。そちらを用意したかったのですが、この際我慢して下さい」
 彼女の言い分を聞いているとお花で飾るのは決定事項らしい。
 この写真の売り上げは外科親睦会のお金に回されるので、収益は多い方が良いのも確かだ。
「まあ、彼女に任せると言ってしまったので――プロの俳優さんとかが衣装とか台本にケチを付けられないのと同じかと思います」 
 そして。
 

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