気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹は一般論に紛らわせてはいるものの、自分たちのことを言っているのは明らかだった。その気持ちが嬉しくて琥珀こはくに蜂蜜をかけたような気分になった。
「その通りですね。ただ、私は実際の専業主婦を直接には存じ上げないのであくまでも想像の域を出ませんが」
 物心ついた時から母は病身だったし、そういう意味では「普通の家庭」ではなかった。しかも、患者さんとそのご家族と手術前の説明などは有るがそういう場合、主導権はこちら側だし――家庭内でどんな話し合いだか口喧嘩があったとしても――家族の総意も決定していた。だから一般家庭、しかも専業主婦が居るような「裕福な家庭」の内側は全く知らない。
「ああ、やっと決まったみたいですね。女性が絡むと――しかもお嬢様が一番綺麗に写っている写真をああでもないこうでもないと吟味を繰り返していているので余計のことですが――悩みに悩んだみたいですね」
 祐樹がスーツに包まれた広い肩を竦めている。楽しく(?)お喋りをしていた間も祐樹はしっかりと聞いていたらしい。
「あんなのスマホのアプリでいくらでも加工出来ますよね……。綺麗さをることだって自由自在なんですが」
 柏木看護師が理解出来ないといった風に口角をキュッと上げている。
 スマホのアプリ――確かにそちらの方が時間の短縮も出来るだろう。
「それはそうですが、あの悩みというかあれやこれやと注文を付けているお母様なので、画像加工アプリなんかを使ってしまうと収拾がつかなくなりそうですし、しかも盛り過ぎて本人が美化200%といった感じになりますよ、きっと」
 あいにくそんなアプリを使ったこともなければ全く関心はなかったが、祐樹の方が救急救命室での凪の時間とかにスマホで動画サイトなどを見ているらしいのでその通りのことが起こっているに違いない。
「教授は椅子に座って下さい。田中先生はその横に佇んで下さい」
 柏木看護師がテキパキと指示をする。手術室では道具出しという執刀医のサポート役に徹しているので後輩のナースのリーダーを務めることはないが、多分自分たちの知らないところで慣れているのだろう、多分。
 古式ゆかしい安楽椅子といった感じの椅子に座って視線をカメラの方に向けて笑みを浮かべた。
 こんな西洋骨董品のような椅子はないけれども、雑誌とかのインタビューでも写真を撮られ慣れているのでその辺りは大丈夫だと思う。
 それに。

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