気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

70

 祐樹は男らしく整った眉を微かに寄せている。それとは対照的に柏木看護師は頬をさらに紅く染めている。
 ただ、彼女が自分に対して「そういう」感情を持っていてくれるのは何となく知っていたので――と言っても笑顔一つでこんな反応になるとは思ってもいなかった――そういう反応になるのだろうか。長岡先生くらいしか比較的若い女性との交流がなかったので良く分からない。しかも、彼女の場合は「普通」の反応をしないある意味稀有な存在なのであまりアテにならないことも良く分かっていた。
 ただ、知り合った当初は「関わった人間を皆不幸にする」と頑なに思い込んでいたので、そういう「特殊さ」を好んでいたが、今となっては「普通」の女性の反応の方が知りたく思ってしまうが。
「では写真館の方に移動しますか?直ぐですので……」
 何か言いかけた柏木看護師の口を封じるタイミングで祐樹が言った。何だかその焦った感じが祐樹らしくない。自分が救急救命室に足を踏み入れる機会が少ないので、あくまで憶測だったがどんなに急を要する患者さんが搬送されて来てもこんな口調にならないのでは?と思ってしまう。
「それは構わないが、せめて彼女が食べ終わってからで良いのではないか?」
 祐樹と自分は普段の職務が職務なので食べる速度も速いが、ナースの場合手が空いた人からランチとかの休憩が取れるが、キッチリ一時間と決まっている。
 この辺りは多分普通のOLと同じなのだろうと思う。ランチ休憩は1時間有るという点では。
 そういう点では各級的速やかに食事を済ますという習慣がついてしまっている自分達とは少し異なる。
「あ、すみません。冷たいモノを一気に食べると頭がツーンとなるので」
 それは脳の血管が口の中に入れた冷たさに連動して収縮するために起こるのは多分彼女も知っているのだろう、ゆっくりと匙を運んでいた。
「イマドキ写真館でお見合い写真を撮る人も居るんですね……」
 予約時間のキッカリ15分前に「寫眞しゃしん館店と旧字体で書くのに相応しい内装だった。
 そこで振袖姿の女性がお母様と思しき年恰好の人と出来たばかりのネガを前にどれが良いかを言っているのが聞こえてきた。その様子を見て祐樹が感心したように言っている。
「ええ、久米先生のお宅に伺った時が有ったでしょう?あの時にお写真が今では台紙付きのは少なくなったとかおっしゃっていましたわ。両親世代ではそれが当たり前だったのたいですけれど。
 それにあの置物は物凄く良いモノなので、久米先生のお相手として写真と『釣り書き』を持ち込んだお家よりも格が上みたいですね」
 何やら。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品