気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「ああ、マンガを愛読するのとかは確かに『表向き』にはあまり言えない趣味ですよね」
 祐樹も救急救命室の「凪の時間」などにはマンガ雑誌だけでなく女性週刊誌まで――患者さんとの世間話のネタのするとか言っていた――読んでいるのは知っている。マンガ雑誌は単なる暇つぶしだろうが。
 ただ、本が出版されて大ベストセラーになった今は、祐樹にも雑誌などの取材が来ることも有る。
 その時に当たり障りのない自己紹介、例えば尊敬する人とか趣味とかを聞かれることもあって「尊敬する人」には香川聡教授と嘘偽りのない申告をしてくれているが、趣味はスポーツ一般ということになっている。(何となく外科医に相応しいかな……)と思ったらしく、その上趣味らしい趣味を持っていなかったので。
 その記事を自分はは頬を薔薇色に上気させて見た後に「祐樹はスポーツが趣味なのか?」と真顔で聞いてしまった。すると祐樹は心の底から可笑しそうな笑みを浮かべて自分を見てくれた。
「貴方とデートするのが一番楽しいに決まっていますが、流石にそれは書けなかったので無難なところにしておきました。ほぼ、でっち上げですが……
 ああ、尊敬する人は本気でそう思っていますよ」
 その言葉はとても嬉しかったが。
「そうなのか?私と一緒に居てもスポーツはしたことがなかっただろう?だから私に合わせて遠慮してくれているのかと思っていたが、そうではなくて安心した」
 祐樹は身体能力も高いし、運動神経も良いのでその気になればどんなスポーツでもかなりの線は行くだろうと密かに思っている。しかし、スポーツに熱心な感じは受けないし――観るのもするのも――祐樹だって平日は文字通り走り回っているので休日はゆっくり休みたいのではないだろうかと思ってしまう。凪の時間が一晩中続くというラッキーな夜もあるらしいが、重なる時は休む間もなくすべきことをこなしていた上に、夜中にはほぼ帰宅してくれる祐樹の体力と精神力の強さには感謝しかない。
 確かに、表向きに出来ない趣味は――自分の場合は趣味というカテゴリーに含まれるのかも分からないが――「祐樹との愛の交歓」とか「祐樹とのデート」という一番楽しいコトは絶対に書けないのも分かる。
「私の場合は、寮住まいでしたし、その中で同好の士が集まって本まで作っていた過去が有るので尚更です」
 柏木看護師の意外な言葉に驚いた。
「本を作る?とは……」
 自分の常識だと大学の出版部に論文を冊子にしてもらうとか、祐樹との共著の時のように原稿をいったん提出したのが本になるというモノだったが、どうやらそうではなさそうだ。
 すると。
 

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