気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 ちなみに写真撮影に備えて、自分は光線の具合によっては白にも見えるし茶色にも見えるスーツ姿でネクタイは「披露宴」の時に締めていた白いシルクのモノで、上着を脱ぐと青い薔薇の花が綺麗に咲いているという滅多に締めないのを、この時とばかりに出してきた。自分の身なりを見て祐樹が褒めてくれたのがとても嬉しい一幕だった。
 一方祐樹は黒のスーツに真っ白いワイシャツに赤と銀のストライプのネクタイを締めている。こちらも思わず視線が惹かれてしまうほど恰好が良い。そもそもが、祐樹の学会の講演者に選ばれた時にーーそれほど自分からのプレゼントは喜んでくれない。なんでも「ヒモ」に見えるからだそうだーー「負けた者が勝った人間の言いなりになる」という条件で鉗子と攝子を使った折り鶴勝負で勝利したので、祐樹の魅力を最大限に引き出す服をブランドから選ぶという心が弾む買い物に付き合ってもらって、それが実現した結果の「祐樹の今日の服装」だった。
 メガネを掛けるとさらに祐樹の「大人の」魅力がアップするのだが、講演会の時は祐樹の国際デビューなのでその気になってくれたものの、病院内とかその関係者だけに配布される写真は「普段のままの方が違和感を抱かないでしょうから」という理由で却下されてしまった。
 まあ、アメリカでの学会はーー実際日本人は実年齢よりも若く見えるのは体験済みだーー講演をする立場としての「貫禄」をメガネでも演出したかったので必須だと考えていたが「お遊び」に近い今日の写真撮影はそこまで気合いは入っていない。
 とはいっても、休日にスーツを着て、自分は前髪まで上げたのは「病院で皆が見ている」格好に近づけるためだった。
 その方が写真を買ってくれる人にも違和感を抱かれないで済むし、それ以上に自分が前髪を下すとかなり印象が変わる。
 休日のデートなどの時に前髪を下ろしてポロシャツとチノパンなどの恰好になると、祐樹の方が年上に見えるという指摘も祐樹のお母様からも頂いていた。
 そんなことを考えていると、隣に座った祐樹が瞳を輝かせていた。
「それは凄いですね。そういう誘導の仕方が有ったとは……」
 祐樹が本気で他人を褒めている時の熱のこもった口調だった。
「いえ、看護学校とかでは、割と普通なんですよ。
 ほら、私たちの趣味も特殊だし、その上、学生時代には『子供っぽい』とか判断されてしまいがちなので、同好の士を密かに探さなくてはダメなのです」
 学生時代には「子供っぽい」と思われる趣味とは一体何だ?と思ってしまう。
 すると。

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