気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹の判断はいつも正しいので――もちろん、充分な根拠を示してくれている――その通りにした方が良いのだろうなと思った。
「では、柏木看護師に頼んでおきます。きっと喜んで同行してくれますよ。柏木先生が家に居ても『貴方はビールでも飲んで寝てなさい』とか言ってピザの出前を頼んでから嬉々として来てくれるでしょうね……」
 柏木先生のビール好きは知っていたものの、兼業とはいえ主婦がご主人を放置してそうそう出歩けるのだろうか?黒木准教授のご家庭では何でも「家庭内では横の物を縦にもしない」黒木准教授が家に居ると奥さんはずっと傍に居てそうな感じだったし。
「大丈夫だろうか?せっかくの寛ぎの時間を……?」
 自分なら祐樹が仕事ならば仕方ないと思うけれども、自分を置いて遊びに行くとなると、物凄く複雑な気分になるだろうから。そんなことは一度たりともなかったが。
 祐樹が呉先生とか森技官と遊びに行く時は必ず自分も誘ってくれるし――というか、自分が彼らからの誘いを受けることの方が多かった。
 それに自分の数少ない友達の柏木先生と呑みに行く時は絶対に祐樹が仕事で家に居ない時だけだった。
 柏木先生からとか――いや友達ではない――斉藤病院長の誘いで有ったとしても、その重要度にも依るだろうが祐樹が家にいるとなるとそちらを優先してしまうので。
「大丈夫ですよ。サイン会の時もシャネルのバックを諦めて本代に回して下さったようですし、柏木先生は病院長命令のほとんど義理というか義務で来て下さっただけでしたが、彼女はそんなご主人を置いて会場内に留まって下さったでしょう?
 それがほとんど毎週とか、先ほど話したジャニーズの追っかけのように全国ツアーを全日制覇とかそういう時間もお金も物凄くかかるようなモノだったら、私も声なんてかけないです。
 他人様の娯楽に類することだったら、それはそのご家庭の方針で大丈夫かダメなのかを見極めます。貴方が定時上がりの柏木先生と呑みに行くとかそういうのと同じですよ。
 ご家庭が崩壊するリスクがない場合は別に良いと思います。
 ま、彼女が断って来た場合はその時にまた考えましょう。彼女ではなくて、他の同好の士を紹介してもらうとか」
 祐樹の妥当というか、自分にも納得出来る考えを聞いて安心した。
 やはり祐樹がそう考えるのだったら、それが正しいのだろう。
 確かに。
 

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