気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「タクシーだと一目瞭然なので、ハイヤーを雇っておくのだそうです。もちろん、タクシーと同じようなメーターがついている車なのですが。
 その車を予め関係者用とかスタッフオンリーの駐車場に停めておいて、コンサートが終わった瞬間にハイヤーへと急ぎ、その時点で二万や三万はかかっているらしいのですが、アイドルグループが出て来たら即座に追っかけを開始するそうです。
 そもそもホテルは分かっているのですから、部屋に入る権利を複数持っていますよね。ですから、何階かもお目当ての人を尾行したら分かるわけです。
 そして、その階以外はキャンセル扱いにしてしまうのだそうです……」
 祐樹も理解出来ないという感じの笑みを浮かべていたが全く同感だった。
「確かにそんなお金を遣っていたら、100万円などは直ぐに消えてしまいそうだな……。
 元患者さんなどで凄い世界に住んでいる人が居るのは知ってはいたが、そういう人とはまた異なる価値観の持ち主だ……」
 元患者さんは――相場よりは高いとはいえ――自分の手技を受けてQOL生活の質向上という目的を果たす対価としての手術費用とかのお金を払ってくれていた。
「彼女達は何を目的にしているのだ?アイドルとの結婚とか」
 お金を支払うのは何か目的が有るのだろう、多分。少なくとも自分はそう思って生きてきた。
 たとえば服を買うためにお金が必要だし、祐樹と素敵な夜を過ごすためにホテルの部屋を取ったり、レストランの席を取ったりしてきた。その次のデートでは祐樹が同じようなことをしてくれていたが。
「特に求めてはいないそうです。一緒に居る空間が有るとか、その程度だそうです。ホテルの階まで一緒にするのも、その延長線上だそうですよ……。本当のところはそのアイドルと親しくなれれば良いとは思っているでしょうが、そこまでは望んでいないのだそうです。
 話は随分逸れてしまいましたが、趣味に費やすお金はどれだけ出しても構わないという層が一定数存在するのです。
 だから、そのお金を上手く稼いで外科親睦会の活動資金に回せれば、ウチの医局の評判は上がります。
 ああ、柏木看護師に監督めいた権限を与えるというのも良いですね。
 彼女の言う通りの写真を摂って、それを裏で捌いて貰うのが最もバレないですし、効率的です。
 だいたい、そういう趣味のことは、ハマっている人間に聞くのが一番手っ取り早いですし。
 どうですか?」
 祐樹が窺うような視線を送ってきた。
 そして。

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