気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

51

 自分の性的嗜好がマイノリティだということもあるが――そしてそのお蔭で祐樹と生涯に亘る恋人になれたのだから微塵も後悔はしていないし寧ろ誇りに思っていた――それ以前に性的なモノは人目ひとめを憚ってするものだと思っていた。
 高校の時に描いていた未来予想図でも院長先生のご令嬢と結婚して後継者になるということは当然跡継ぎ問題も浮上してくる程度は分かっていた。行為自体は保健の時間に習ったので知っていた。どうすれば安全だとか、妊娠のリスクが有るかとかそういう知識まで。
 その時に思った結婚生活でも、そういう行為は寝室のベッドでしか行わないものになるだろうと漠然と思っていた。
 まあ、その元婚約者は不幸な事故で亡くなってしまったので、話は全てご破算になってしまったが。元婚約者については格別な思い入れはないけれども、義父と呼び損なってしまった院長先生の厚意は今もとても有り難いと思っている。御嬢さんが亡くなった後に医学部に入ってからも約束した援助を律義に届けて下さったのだから。普通に考えて御嬢さんが居なくなってしまった以上、自分に投資するメリットなどないにも関わらず。
「どうしましたか?」
 祐樹の声が心配そうな響きを孕んでいた。セピア色の追憶にひたってしまったことを微かに恥じた。何しろ今の自分には太陽の輝きにも等しい祐樹という黄金色のオーラを纏った恋人が居るのだから。
「いや、何でもない。
 服はファッション雑誌のように凝る必要はないだろうが、それなりに統一感を出した方が良いのだろうな。
 彼女達がどのようなことを私たちに期待しているのかは全く分からないが。
 その点については祐樹の方が詳しいようなので任せることにする……」
 祐樹も男性向けのファッション雑誌を購入してはいないものの、救急救命室の「凪の時間」の暇つぶし用に色々な種類の書籍や雑誌が持ち込まれて回し読みされることは知っていた。
 だから、お洒落にこだわりの有る医師がそういう雑誌を置いていくことも有るような気がした。
「そうですね……。スーツの色は変えた方が良いのはもちろんですけれど、ネクタイを色違いにするとか、ワイシャツをお揃いのモノにするとか。
 写真館では着替えも大丈夫みたいですし――ほらお子さんの七五三参りの時に撮る写真で、最近多いのが和服姿とふわふわのドレス姿の2パターン、いや人によってはそれ以上も有るようでして――着替え室も広く取ってあるそうです、ネットで見ただけの知識なのですが」
 お揃いのシャツを公衆の面前で、しかも後々まで残る形で着られるのかと思うと思わず笑みを浮かべてしまう。
 すると。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く