気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「長岡先生だって伊達に慶〇幼稚舎から高校、そしてT大は出ていないでしょう?T大はともかく、慶〇ボーイはお金持ちでスマートでだと聞いています。そういう男性に囲まれていたハズの長岡先生が貴方にエスコートを頼むことも多々ありますよね。
 恋愛対象として見ていないとは思いますが、れっきとした頼りがいの有る男性として認めているのでしょう」
 祐樹にそう指摘されて、半ば納得、半ば疑わしい気持ちになる。
「私が彼女のことを手のかかるので放っておけない妹のように見ているのと同じく長岡先生は、私のことを兄のように思っているのではないか?お互い一人っ子だし……」
 祐樹は唇に緩やかな笑みを浮かべながらも広い肩を竦めている。
「私も一人っ子なので、経験則で申し上げることは不可能なのですが、子供の頃に仲が良かった兄妹でも、兄が妹の思う通りにならなければ、あからさまに避けられることの方が多いようですよ。
 だから、貴方の場合は立派にエスコートしていると思います。
 それに比べて久米先生は……」
 祐樹も、そして柏木先生も久米先生にかなり親身になっていることは知っていた。
 久米先生は医局のムードメーカーだし、心疾患専門なので比率的に高齢の患者さんが多いがそのウケも物凄く良い。何でも元気な孫を見ているような気持になると伝聞ではあるが良く耳にしていた。
 それに、コミュニュケーション能力に全く自信がなかったために――今は、意識して高めようと頑張っているが、その成果は自分でも疑わしいレベルだ――入局の条件に外科医として優秀そうという大前提の次に会話力を重視して採用している。
 その狭き門を通ったのだから、久米先生がご年配の患者さんに気に入られるのはある意味当然なのだが、妙齢の女性にはそうでもないらしい。
「まあ、ずっと男子校で、女子と接したことのない人だとああなるのかな……とは思います。
 だから、その『失われた六年間』を埋めるために何とか頑張ります。
 で、そのご褒美と言ってはなんですが……、写真館では、ギリギリセーフの写真を撮らせて下さいね。
 その方が売れ行きも絶対良いですし、外科親睦会にプールしておくお金は多い方が好ましいです。
 何しろ、この前の折鶴勝負の時に貴方と私が作った作品が高額で競り落とされていますし、次は貴方と私の写真となると、ウチの科が親睦会でも稼ぎ頭になりますよね、ダントツの。
 そうすれば、おのずから発言力も増しますので」
 そして。

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