気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹が心配そうな表情を浮かべて自分を見つめていた。
「もしかしてお気を悪くなさっています?」
 驚いて目を見開いてしまう。
「え?何故だ?」
 祐樹の考えることは以前よりも分かるようになってきたものの――伊達に長い時間一緒に居たり話しているわけではない――大目に見積もって60%程度だろうとも思う。
「いえ、貴方の艶姿を――厳重にロックを掛けているとはいえ――仕事の合間の息抜き兼リフレッシュの源にしているからです。不謹慎だとお考えならば謝りますので……」
 謝られる要素が無いような気がしたが、自分の感じ方はどうやら他の人とは異なるような気もしていたのも事実だった。
「私以外の他の人間の画像で祐樹がリフレッシュしているというなら、物凄く傷つくが……。いや、傷つくというか、少し不愉快な気分になる程度かも知れないが、私の……そのう、他人には見せたくない画像であっても、そんな顔とか姿を見て、祐樹が元気で職務に戻れるのならば寧ろ嬉しいが?」
 自分だって――共著の本の原稿を書くとか祐樹のためにマフラーを編むとかの、祐樹を身近に感じられる作業の時以外には――二人で写った写真を見たり祐樹のプレゼントしてくれた品物を取り出しては眺めている。流石に祐樹の際どい写真など持ってはいなかった。
「写真と言えば、二人で正装して撮影するのだろう?その写真は台紙付きの立派な――私はドラマの中でしか観たことがないが、お見合い写真にでも使えそうな――物なのだろう。
 その台紙付きのも自分用に欲しいが、ネガがもしあるのだったら普通の写真のサイズにも縮小して貰って、そして私も祐樹に倣って持ち歩くことにしよう……。と言っても私はロックの掛かる紙入れは持っていないが」
 持っていなくても買いに行くことは出来そうだし、自分の行きつけのお店には確かそういうカギ付きはなかった記憶が有るので日本人が最も好んでいると噂の高い――ロゴマークがこれでもかというほど品物全体に散っているので個人的にはそれほど好きでないものの――鍵が掛かる小物入れを売っていたような記憶が有った。
「お見合い写真が台紙付きだったのは20~30年以上前のことだと思います。
 ウチの母が与った適齢期のお嬢さんの写真は普通のスナップ写真でした」
 その言葉を聞いて、文字通り身体が凍えた上に硬直してしまう。
「祐樹にお見合いの話しが出ているの……か?しかも、お母様が乗り気……」
 頭の中が混乱して、何を言っているのか自分でも判然としないまま、譫言うわごとめいた言葉が震える唇から出た。
 すると。

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