気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「私はてっきり公序良俗に反するような写真を撮る積りかと思ってしまっていた……。
 それが杞憂で本当に良かったと思っている」
 祐樹が心の底から可笑しそうな笑みを浮かべて、そして愛おしそうな瞳の輝きで自分を見ていた。
「そんな貴方の姿は私一人で独占したいので許可なんて出しませんよ。
 それこそ、公序良俗に反するような写真……。百合香ちゃんのお屋敷の家具が送られて来たら撮りましょうか?」
 頬が上気してしまう。祐樹が望めばどんな恥ずかしい恰好でも出来るとはいえ、病院の廊下で立ち話で――誰も居ないのは確認済みだったものの――交わす内容ではないので。
「……というのは冗談です。
 私は貴方ほど卓越した記憶力に恵まれているわけでは残念ながらありませんが、二人きりの時にどれだけ甘く熱く乱れて下さったかは私の脳に刻まれていますので、くっきりと。
 そういう意味では写真は必要ないですね……」
 こんな際どい話を職場、しかも医局のすぐ傍で交わして良いのかと周りをそっと見回したが、何だかエアポケットにでも入り込んだような感じで人の気配が全くしない。
 患者さんは夕食の時間だし、定時上がりの人間は帰宅途中だろうし宿直の人間は夕食を摂りに行っているのだろう。
「以前、鴨川の河原で撮った写真とか……ああいうのは?」
 四条大橋から鴨川の河川敷に降りて行って――ちなみに等間隔に並ぶカップルは何でも知っている祐樹の解説により、橋から近い人達ほど付き合って浅い日しか経っていないらしい――誰も来ない場所で素肌の肝心な場所を厳選して外気に晒された覚えが有る。そして、あられもない姿を祐樹の携帯で撮られたことも……。
 祐樹は口角を上げた笑みを浮かべている。その唇が見た目よりも柔らかいのを知っているのは、病院内で自分一人だと思うと何だか誇らしい気分になってくる。
「あれは、そもそも貴方が恥ずかしがるからです。それに羞恥心しゅうちしんが加わるとよりいっそう艶っぽくなりますし、乱れて下さるでしょう。
 あの画像は救急救命室勤務のちょっと一服という貴重な時間に見るとくたくたに疲れ切っている身体も心も鮮やかに活力が甦るので、いわば栄養ドリンクとかビタミン注射の代わりです。
 どんな強力なビタミン剤より――それこそ杉田師長がご愛用なさっているような厳選されたモノですが――効き目は抜群ですから、私にとって。
 画像とはいえ、貴方の艶姿を拝見すると疲れなんて吹っ飛びます。
 私にとって滋養と強壮に効くのは貴方そのものですから」
 すると。

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