気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹が自分をわざわざ呼び出すのは絶対にプライベートな話に違いない。
 というのは、主治医を務める患者さんの容態などを報告する場合には医局の皆にも情報を共有するために――他の医師もそうだが、祐樹は特にAiセンター長としての責務や救急救命室で、例えば開胸心臓マッサージのように手の離せないことも多いので尚更だった――医局で話すのが通例になっている。重篤な場合は医局長の柏木先生同席で黒木准教授とか教授執務室で電子カルテを各々見ながらといった形を取っている。
 だからこのような廊下の死角になっている所での立ち話というのはプライベートな話だ。
 誰も居ない自宅で親密な話をするのも大好きだが、白衣姿の祐樹は一際神々しく眩しく見えるので、病院内で内密の話しをするのも蜂蜜のような黄金色に煌めいていて大好きな時間だ。
「久米先生の直訴の件か?」
 ああいうことを医局の中でするには皆が面白がっていて、そして了承済みであることは明白だった。
 そして祐樹も乗り気だったので、その件だろう、多分。
「そうです。貴方が医局を出て行かれた後に柏木看護師主導で『公的』な写真と、こっそり流通させる『私的』な感じの二種類を撮りたいという要望が有ったのですが、どう思われますか?」
 「私的」と聞いて鼓動が薔薇色の羞恥しゅうちが心を染めていくような気がしたが、常識的に考えて写真館で撮る写真なので公序良俗に反するような物ではあるハズがないだろう、多分。
「私的とは?」
 祐樹が可笑しそうなそして愛おしそうな表情を浮かべて自分を見下ろしていた。その瞳の輝きに射すくめられて鼓動が紅色に弾んでしまう。
「少し密着度が高い程度です、もちろん着衣はつけたままですよ。
 公的なのは椅子に座った貴方の肩に私が手を置く程度です。
 私的なのは後ろから貴方の首に両手を回して、少し身体の距離が近付く程度だと聞いています」
 そんなモノに――二人の関係に心を配って下さる祐樹のお母様以外に――需要が有るとは思っていなかったが、自分の知らないことが世の中には多いことも知っている。だから、自分達のそういう写真も望む人が居るのだろう、具体的な人数は知らないが。
 私的といっても、そんなに目くじらを立てるほどのモノでもないだろうし、どうせ収入は医局から外科親睦会に流れるお金なので、収入は多い方が良い。
「その程度なら別に問題ないだろう?
 私はてっきり……」
 視線を絡めた祐樹の黒い眼差しが悪戯っぽく輝いている。
 そして。
 

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