気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「サインにも色々違いが有るのですか?」
 祐樹が興味深そうに聞いていた。
 元総理のお祖父じい様も――賛否両論有ることは知っていたが、有名な「宰相」なので「ここだけの話」めいたものを聞きたがる患者さんは居るだろう、いや政治・宗教、そして「恋人や夫婦の行為」は3Sのタブーだとは知っていた。誰がどんな風に気を悪くするかは分からないのだから――サインではなくて揮毫きごうを求められることは有りそうだが、サインとしての需要としては百合香ちゃんの伯父さんの方が高いし、芸能人なので3Sの禁忌タブーには触れないので祐樹もナースとか事務の女性と世間話をするネタだと捉えているのだろうか。
「はい。漫画家さんは――と言ってもウチのような家に招かれるような人はアニメ化・映画化は当たり前でコミックスの売り上げも億単位の人ですが――慣れた感じでさっとイラストを描いて下さいますね。サインも物凄く可愛いとか一見読めないのですけれど」
 祐樹が何かを思いついたように唇を開いた。
「ああ、巧みに文字を図案化していますよね。書店のサイン会に行った時に店長室で拝見した覚えが有ります」
 自分でも知っている漫画家なので、国民の9割が知っているだろう人のサインが飾ってあったのを思い出した。
 名前を図案化……という祐樹の的を射た表現に感心してしまっていた。そう言われるとそんな感じだった。
「後は、達筆なのか、早く書くために一筆書きみたいな感じで書きなぐったようなものも有ります。
 これは芸能人に多いのですが、サインを書き慣れているのでしょうね。ほら、ドラマのロケとかに行ったりプライベートな時間でもファンの要望に応えなければならないんですから。だから、時間短縮のためでしょう。こんな綺麗な字で書く人は滅多にいらっしゃらないので、大切にしますね……」
 百合香ちゃんが二枚の名刺の表と裏をしげしげと眺めている、満足そうな笑みを浮かべて。
「芸能人は時間短縮ですか……。まさか病院ではサインを強請ねだるスタッフは居ないでしょうが、伯父様がお見舞いにいらしたら、患者さんにはそういう遠慮がない人も居るかもしれませんね。
 そういう場合にもサインに応じるのですか?芸能人は」
 日本一の私立病院の御曹司の岩松氏とかそういうレベルの人なら芸能人と「友達」付き合いを――と言う名のお互いを利用しようとしている関係――していてもおかしくないが自分とか祐樹などはそんな人脈はない。
 だから。

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