気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「そして、ホームズの時代よりは100年ほど前にイギリスで同性愛というだけで牢獄送りになった人間がいるようです。
 ですから『特別な関係』だということも多分なかったのでは?
 そもそもホームズは、今では禁止されているコカインの常習者という記述が有りますが、今でいうところの栄養ドリンクの感覚で摂取していたので当時としては罪に問われないようです。
 ですから同性愛という『犯罪』を犯すことは考えられないのではないでしょう。たとえ小説とは言っても正義の味方なわけですから、そういう『違法行為』を設定で盛り込むのは流石に控えるでしょう」
 百合香ちゃんは感心したような感じで長いまつ毛に縁どられた目を煌めかせながら頷いている。
「そうなんですか?18世紀とか19世紀は西洋では同性愛が犯罪だったのですね。
 勉強になりました、よ」
 祐樹も感心したように言ってくれた。
「良く分かりました。だったら『特別な関係』ではなかったということで大丈夫なのですね。一つ賢くなった気分です。
 それにお二人ともの名刺が頂けてとても嬉しいです。
 そして看護師さんがおっしゃっていたのですが、お二人で本を出して、そしてそれが好評なのでサイン会も……。もちろんご本は買わせて頂きます。そこにサインをして頂ければとても嬉しいです」
 祐樹が悪戯イタズラっぽい笑みを浮かべている。そういう表情も祐樹に良く似合うので見ているとこちらまで幸せになってくる。
「本だけで宜しいのですか?名刺の裏にも書きましょうか、サイン」
 百合香ちゃんが日光に照らされた百合のような笑みを浮かべた。純白の、そしてカサブランカよりかはーー確かスペイン語で「大きな家」だったように思うーー小ぶりの花のようだった。まだ六歳なのでそんな笑みなのだろうが、このまま遺伝子のイタズラがーーといってもこの華麗なる政治家一族は元首相のお祖父さんを始めとして皆整った顔をしているので隔世遺伝の悲劇もなさそうだけれどもーー起こらなければ名前の通りの女性に育つだろう。
 そうなれば英語力とか内面だけではなくて、外見も外交の武器になるだろうな……と内心感心しながら見ていた。
 百合香ちゃんは小さな指でーーただ、指輪が似合いそうな細さと長さは十分有ったーー大切そうに二枚の名刺を持ってこちらへと寄越した。
「では、お言葉に甘えてサインをお願いします」
 すると。

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