気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 確かに自分は日本語での冗談が分からないし、口に出したこともない。スルーされたり、全然笑ってもらえなかったりしたら精神的にキツいものが有るので。
 ただ、先ほどまで英語の本を音読した関係で脳がそちら寄りになっているのかもしれない。アメリカでは――祐樹に会うのが怖くて医学部卒業後すぐに渡米した。英語は大学入試とか医学部のレポートや論文などが英語で書くようにと指示されたのも多かったので読み書きは全く不自由ではなかったが、話すのは苦手だったので同僚とか病院繋がりの人の英語を丸暗記で臨んだ。アメリカ人は手術の時ですらジョークを言っていたので、そういうものかと思って英語では冗談が言えるようになった。
 その余波が押し寄せて来ているのかもしれない、英語限定というのが我ながら情けないが。
 祐樹は患者さんと冗談も交わせる親しみやすい主治医として医局では有名だった。それに引き替えわが身は……と思ったことがあるが、この調子だと日本語の冗談デビューも近いかもしれない。
 ただ、曲がりなりにも教授職なので、お追従ついしょう笑いとかは充分有り得る。
 この際、祐樹に「冗談の練習をしたいので面白かったら笑ってくれ。面白くなかった場、祐樹ならどう言うか教えてくれ」と頼むのも良いかもしれない。
「イギリスは階級社会だと直接聞いてもいますし、ご本でも読みました。ホームズやワトソン医師はどの階級だったのですか?」
 祐樹はそんなことを考えてもみなかったという表情で自分の目や唇を見ていた。
「貴族などのアッパー・クラス、医師や大商人などはアッパー・ミドル・クラスかミドル・クラスが有りましたね。ホームズが活躍していた時代は特に厳しかったようですね。ワトソン医師も大病院を経営しているわけではなかったのでミドル・クラスではないでしょうか。ホームズもスコットランド・ヤードに認められていたとはいえ、収入などは依頼に応じての、いわゆるお寿司屋さんで言うところの『時価』みたいなものです」
 祐樹がプッと噴き出した。次の瞬間、見た目よりも柔らかい唇を手で隠している。もしかして自分の発言が可笑しかったのだろうか?だとすればとても嬉しいので後で聞いてみよう。
「そういえば依頼人が持参した1千ポンドが物凄く高い!とか書いていた覚えが有ります。日本の弁護士みたいに大体の相場があるわけでもなさそうですね、ホームズの場合は。
 もう一つ聞きたいのですが」
 そして。

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