気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

25

 百合香ちゃんという「名は体を表す」というか高貴かつ無垢なカサブランカのような小さなレディの前で――考えていることが分からないとはいえ――不埒なことが脳に浮かぶのはどうかと思った。自分は性的嗜好が少数派に属しているとはいえ、対象は同性だし裕樹という、かけがえのない恋人まで居る。だから同じく少数派の少女趣味などは全く持ち合わせていないし、単純に可愛いなと思って見ている。多分、大人の女性が少女とか赤ちゃんを微笑みながら見たり、笑顔で手を振ったりするのと同じ感情だろう。百貨店とかたまに行くスーパーマーケットなどで、そういう場面を目撃したことは多々あった。
 百合香ちゃんの病室に百合の花がないのはある意味当然だったが、彼女に似合う花は間違いなく聖母マリアの花としても名高い百合の花だろう。
 病院でお見舞いの花が許されているのは個室患者さんだけだったが、百合の花は香りが高すぎるという点と、枯れた時に首が落ちる感じで朽ちていくので不吉な花として忌まれている。
 そんなことを考えながら、取り敢えず椅子の件は頭から追い出して本を音読した。
「教授も、田中先生と同じように……、そして家庭教師の先生の発音と同じですね。
 イギリスの上流階級と――あの国では日本以上に階級制度が未だに強く残っているそうですね。日本では皇族の方も私達庶民と同じアクセントですし、お言葉だって同じですもの――同じ発音をなさる教授や田中先生は流石だと思います」
 確かに日本のNHKと同じようなBBCテレビで放映される女王陛下などのスピーチのアクセントは庶民とは異なっている。
「皇族方ともお話しをなさったことがお有りなのですか」
 先程のカラーの挿絵の椅子が脳裏をチラついてしまっていて……本の音読作業に集中出来ない、集中力には自信を持っていたにも関わらず。
 ページを捲る時に百合香ちゃんがそう言ってくれたので、これ幸いと会話に戻ることにした。
「はい。父に連れられて参ったことが有ります。宮様方にはお子様方がいらっしゃるので、そのお話相手として」
 確かに――入院当初はワガママな言動は有ったが、百合香ちゃんほどの人でも心臓の手術を前提にした場合、不安とか緊張が募っていたせいだろう――普段の百合香ちゃんなら何方様なのか具体的には知らないが宮様のお話し相手として、お父様も安心して任せられるのだろう。
 そのお父様とかお母様の期待によりいっそう副うように心臓を完治させるのが自分の仕事だ。
「それは凄いですね。その宮様は『~じゃん』のようなお言葉遣いなのですか?」
 クイーンズイングリッシュではない下町訛りの会話の場合、翻訳者がそういうふうに日本語訳をすることが多かったので、違うとは知っていたものの、そう聞いてみた。
 すると。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く