気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

 祐樹も輝くような笑みを浮かべて自分だけを見詰めてくれているのも。
 同じ写真の中に――もちろん、サイン会とかで撮影した画像とか、更に以前にさかのぼると地震の時のニュースやドキュメンタリー番組などは二人で行動することが多かったせいもありその映像がインターネットの中では静止画として使われていることも有ったものの――ドラマの中で観た漠然としたイメージが正しければという前提での推論に過ぎないけれど、立派な台紙や薄紙に包まれたモノの中に二人して収まるというのは特別感が強い。
 こういう連想が正しいかどうか全く不明だが、江戸末期から明治初期の歴史上の人物が写真を撮られる時のような特別かつ格別感――当時の人間は写真を撮ると魂も抜けるという迷信を持っていた人も多かったと何かの教科書で読んだ覚えがある。
「私も、ご存知のように皆の厚意に甘えさせて貰っているので、土日なら大丈夫だが」
 流石に医局の中では同じ家に住んでいることは伏せてあった。だから当然休みの日のスケジュールなどは知らない感じで――逆に知っている方がおかしい話になってしまう程度のことは自分にすら分かる――祐樹がわざわざ聞いたのだろう、皆の前ということもあって。
「前からの人気もさることながら、今は共著の本の効果で更に盛り上がっているので、こういう旬の企画は早い方がいいだろうな……、か…いや教授や、田中先生フィーバーの白熱振りがヒートアップしている――まあ、どこが最高値なのかは分からないものの――注目度が以前とは異なっているので」
 柏木先生は外科の親睦会のリーダー役も務めてくれているので、事務局をアテにしないお金作りに熱心なのも確かだった。その柏木先生がそう言ってくれたのも大変有り難いことだった。
「承りました。直近の土曜日で大丈夫ですか?」
 医局備え付けの固定電話を手で押さえながら久米先生が爪先立ちをして――多分痺れた足を回復させようとしているのだろうが――確かめてくる。
「私は問題がないが……。ゆ、田中先生は?」
 この土曜日は二人きりの家で寛いで過ごす計画だったが、そういうことは知らないフリをしておく方が良いだろう。
「ここで、東京の彼女とデートとかはナシだぞ」
 柏木先生が茶化す雰囲気の笑みを浮かべながらも、釘を刺す牽制球を投げているのは、お金にシビアだと言われている――実際は知らないが――大阪の商人のような気持ちからだろう。祐樹は相変わらず架空の恋人が居るという設定を貫いていたので。
「はい、彼女も最近は忙しいようでして、なかなかデートもままならない状態です。だからこの土曜日は空いていますね」
 祐樹の口角が魅惑的に上がっている。そういう不敵な感じの笑みを見るのも大好きだった。
 確かに祐樹も自分もプライベートに割く時間が減っているのも事実で、そういう点では嘘は言っていない。
「分かりました。13時に予約しても大丈夫ですか?」
 二人して同時に頷いた。と同時に祐樹は普段以上の早足で自分のデスクへと向かってから引き返して来た。
 そして。

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