対ノ翼〜Melodiam orandi〜

宇宙

追憶

桜の木が光る。
「反応したんだね。」
『僕』は言った。
僕は頷く。
僕は静かに目を閉じる。
瞼の奥から記憶が流れてくる……


僕は天使と悪魔の子。
天魔と呼ばれている。
僕は天界エデンと呼ばれてる世界の中の
天国の住人だった。
父は天国の王で母は魔界国に住んでいる悪魔の
姫だったらしい。
母は僕を産むと同時に死んだようだ。
王とその召使いが世話をしてくれた。
召使いの中にシエルもいた。
優しくしてくれた。
あと一人の天使と遊んでいた。
紫髪の笑顔が絶えなくて細身だけど食いしん坊の彼。
しかしある日を境に来なくなった。
反王派の親で僕と一緒にいたことがバレたのか
パタリと来ることはなかった。
勉強もしなければと天界の学校へ行くことになった。
そもそも天界は天使と悪魔の他に妖精と呼ばれる
種族が住んでいる。
その学校には三種族が通える。
別に学校に行かなくてもいいらしい。
ただ僕は王家だからって…
まぁ僕も僕で友達が欲しかったんだ。
しかし1年から一切楽しいという感情がなかった。
僕は何度も言うが天魔で天使と悪魔の翼を持っている。
そういう訳で異端児扱いにされ生徒だけでなく
先生からも無視され続けていた。
先生からは王家ということを知ってるので
手は直接出さなかったが生徒は
そんな事を知ったことはないとばかりに
毎日毎日いじめられていた。
ある日は机の上に刃物が置かれていた。
ある日は自分の物が消えていた。
僕が何処かに行っている間ゴミ箱に
捨てられていたのだ。
父に言えば解決するかもしれなかったが
そうも行かない。
個人の問題に王である父を頼る訳には行かなかった。
ただただ地獄のような日々は1年半続いた。
あまりにも辛かったし悲しくて……。
恐らく黄泉の世界で感じた寂しいとかそんな感情は
これだったのであろう。
そんな2年になったある日の放課後。
4人の不良に絡まれてしまった。
彼らは
「可哀想だな!!お前の仲間―いやそもそも
居ねぇか。グハハハハ!!」
「ハハハハ…殺してくれだってさハハハハ。
王子のお前を殺すなんてなぁ」
大笑いしていた。
ナイフとか銃とか持っていたっけ。
天使とか悪魔がお金の力で不良に頼んだのかもしれない。
汚いなってちょっとだけ思った。
ただその日無傷だったんだ。
助けてくれたからである。
金色の長髪で………。
顔が……
名前は……
どうしても思い出せなかった。
どんな顔だったっけ??
しかも何を言っていたのかも忘れている。
あの時彼は何を語ったのか…?
それからいじめは無くなった。
彼が守ってくれていたのかもしれない。
よくわからないが。
卒業式の日も彼がいた…気がする。
顔をしっかり見ているはずなのに思い出せなかった。


今思い出せる記憶はこれだけのようだ。
もし『僕』が言っていた金色の太陽は
彼の事なのかもしれない。
存在が消えている…のかもしれない。
思い出せそうで思い出せなくて
しかも少しずつ原型を留めてなくて
砂のように消えてゆく。
嫌な予感がした。
彼の存在が完全に消えてしまいそうで。
心がざわつく。


もう…これ以上僕の目の前から消えないで。

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コメント

  • 姉川京

    とても面白いです!続きが投稿されたらまた読みに来ます!
    これからもお互い頑張りましょう!
    あともし宜しければ僕の作品も読んでください!

    1
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