対ノ翼〜Melodiam orandi〜

宇宙

僕の本当の名前は―

広場らしきところまで出てこれたが
誰もいない。
しかしながらこの空間あまりにも
不気味すぎる。
血まみれの地面、空は真っ赤で
物凄く怖い。
寂しい怖いよ…。
誰かいないの…?
……ってあれ?前にこんな事無かった??
あった気がする。
記憶未だに全てというか
ほとんど取り戻せていない。
「みーつけた」
少し声が高めの男の声が後ろからする。
恐る恐る振り向くと……悪魔だった。
大きな2本の角、尻尾、翼。
真っ黒で異様な雰囲気を漂わせる。
「俺と一緒に来てもらうか。」
絶対に行ってはいけない。
そう頭の中で警鐘を鳴らす。
僕は後ずさりする。
怖い。誰か……。
「大丈夫ですか?こっちです!!」
いきなり誰かに腕を捕まれ凄い勢いで走り出す。
「えっ!?」
驚いた理由はその誰かというのも悪魔だった。
執事みたいな悪魔。
「ご無事で良かったです!
早く見つけたかったんです。」
「もしかして…僕を知ってる人?」
「ええ。勿論ですよ。だって…「スパイだからねぇ」」
もう一つの声が上から聞こえる。
「レイオス!!何故ここに!!」
その悪魔は上を見て目を大きく開ける。
「あれ知らないのかい?トップがどうなったか。」
「っ!?あの人に何かあったのか!?」
「やっぱり知らないんだねぇ」
さっきから何のことを話しているかさっぱり
わからない。
この悪魔スパイだったの…?
何の??
「とにかく王子様は連れて帰るから君はいち早く
トップの元に行くといいよ。」
「君に任せられないですよ。」
両者の睨み合いが続く。
「あーあ。早く行かないから追手来たねぇ。」
レイオスさんは余裕な笑みを浮かべる。
確かにさっきの声が少し高めの男が高速で
走っている。
「…仕方ない。
絶対に妙な真似はしないでくださいね?」
そう言って悪魔は飛んていった。
しかし声が少し高めの悪魔が高速で近づいている。
「さて邪魔者は消えてもらおうか。」
レイオスさんは腰の剣を抜き高速で悪魔を切りつける。
血が大量に飛び散る。
ただでさえ血糊が大量の地面の上に
大量の血が流れる。
その光景が異様だった。
「やりすぎじゃない…?」
「やりすぎか……。ハハハハッ!!
君を狙おうとするやつを殺すのはやりすぎって!?
ホント面白いよ君。実に滑稽だよ。」
「だからって殺すのは……。」
おかしいよ。
そう言いたかった。
レイオスさんの目線がとても鋭くて
痛かったのだ。
これ以上喋ると殺すぞとばかりに……。
「さて…これからどうしようかなぁ。
そう言えば、君。金色の長髪の男は
見なかったかい?」
「金色の長髪??見てないけど。」
「そう……。クロウ君来てないか…。」
クロウ……?金色の長髪の男だろうか。
聞いたことあるようないような…。
でもそれどころじゃなかった気がする……
「それ言えばしずくは!?」
一番忘れてはいけない。
「しずく…?あぁあの子か。シエル…さっきの
悪魔と一緒にトップの元に帰っていったよ。
君を放っておいてね。」
「そんな……」
しずくは悪魔と一緒にトップと呼ばれる人の
もとに行ったのか。
でも連れ去られたって事は……?
あるかもしれない。
「あっ言い忘れてたけどあの子も悪魔だ。
自ら行ったのさ。あの人達は君の敵となる。
まぁすぐにそんなこともなくなるだろうけどね。
そんなことより…」
レイオスさんの目線を後ろに向ける。
「どうしたの…?」
「誰かくるね。」
僕もレイオスさんの目線の先を見る。
何か飛んでくる。
金色の大きな翼。
「見つけたァァァァ!!!」
大声で叫ぶ。
「うわっ……派遣かぁ。」
レイオスさんは真顔になる。
あまりに嫌そうだ。
そんなに嫌な人なのか。
飛んできた人は地面に降りてきた。
その人は金色の大きな天使の翼に
グレーかかったぱっつん前髪で後ろ髪が長い。
髪色はエメラルドグリーンにグレーかかった色。
黄色と水色のオッドアイで
なんと言っても僕よりも遥かに高い身長の
男だった。
「お前のややこしくさせたせいで
寝られないんだがどうしてくれるんだよ!!」
「そんなこと言われてもねぇ。君は見たところ大天使アルチェンジェイムかい?」
「その通りだよ。ったく…お前仮面についてる
星印、闇の神の使いだろ?あの神も呆れてたぞ。」
聞きなれない単語ばかりでこんがらがる。
全く気にしてもいなかったがレイオスさんの
仮面の端っこに半分の星印が刻まれていた。
闇の神の使いだったのか。
というか神という存在がいたんだ…。
「そっちが…あぁ。
こいつと離れたほうが身のためだぞ。
俺と一緒に帰ったほうがいいと思う。
というかあの金髪はいると思ったが
いないのか?」
「金髪は見かけてないよ。
僕とそんなに何かあったの?その金髪さんは。」
「あ…そうか…。覚えてないんだったな。
あとで教えてやるよ。それよりも…。」
男の人はレイオスさんに真顔で詰め寄る。
「お前のせいで寝られねぇわ、お前と
こいつの監視命令下されるわで…。
寝かせろ!!!!」
「そんなに寝たいんだったら寝たら
いいと思うけどなぁ…」
「あの…僕の監視って?」
「はぁ…。溜息しか出ねぇわ。どっと疲れる。
そうだよ。監視命令下されたんだよ。
金髪の代わりにな。」
一体僕は記憶が失っている期間
何をしたんだろうか。
ただ悪魔と天使の間に生まれただけ……
あっ…もしかしてそれが原因……?
それならまぁ仕方ないのかもしれない。
「記憶どれぐらい覚えてるかわからないが
取り敢えず上に帰るか。あっお前はちゃんと
闇の神の元に帰れよ。神も弟もお怒りだぞ。」
「えー面倒くさいなぁ。帰らなかったら
余計面倒だし仕方ないかぁ。じゃあまたね。
王子様。」
レイオスさんはなんと砂となって消えた。
「はぁ…面倒なこと押しつけあがって。
じゃあ取り敢えず帰るか。
そういえばこの世界にいるってことは
ある程度記憶思い出したんだよな?」
「うーん…ある程度というより本当の名前と
自分の存在って事だけなんだ。
それよりこの世界ってどういう事?」
「説明面倒だな…。ざっくり言うとここは人間界と
天使や悪魔が住んでる天界エデン
狭間の世界だな。黄泉の世界とも言われてる。」
「天界か…。」
きっとそこに僕についてわかるかもしれない。
本来帰るべき場所なのかもしれない。
じゃあ何故いつの間に人間界に来ていたのだろうか。
それにやはりシエルと呼ばれた悪魔と
しずくが気になる。
レイオスさんは敵になる予定だったと言うが…。
訳がわからないことが沢山で頭がこんがらがる。
「おい。大丈夫か?」
心配そうに天使が覗き込む。
「えっ…大丈夫だよ。」
「それなら良かったが記憶全然思い出せてないな。
よくこの世界に飛ばされたな。」
「えっと…どういう事??」
さっきから聞いてばかりだな。
ちょっと申し訳無い気持ちになった。
「そうだな…。立ち話も嫌だし天界の入り口
まで飛びながら話すか。こっちだ。」
天使は金色の大きな翼を広げて空を飛ぶ。
僕の翼が飾りじゃない事を願いながら
ジャンプをしてみる。
意外と簡単に飛べた。
「凄い……。」
僕はただ目を丸くしていた。
下が血で真っ赤なのは残念だが。
「話してもいいか?」
「あっ、うん。」
「天界の理で記憶を失くした天使や悪魔は
下界に堕ちるっていう訳がわからないのがある。
誰かが違う誰かの為に神に頼みこんだ……っていう
噂もあるが…。それは置いておくとして
お前記憶失くしたから堕ちたんだ。
結局思い出したからこっちに戻ってきたってわけ。」
「なるほど……。」
何となくはわかったが…。
確かに変わった理だな……
一体何が原因で記憶が消えてしまったのだろうか。
あと二人が言ってた金髪の人。
後で教えてくれるらしいけど
凄く気になる。
「着いたぞ。」
金色の翼の天使は降り立つ。
僕も続けて降り立った。
真っ赤な森の中だった。
森の中に木がない所があって
そこには井戸がぽつんとあった。
「ここ?」
「そうだ。あそこに井戸あるだろ?
あそこを飛び込むんだよ。」
「井戸に飛び込む!?」
下手したら死にますよ!?
えっ……。
マジですか。
「大丈夫大丈夫生きてるから。」
そういう問題でも無い気が……。
「怖いか??慣れると全然大丈夫だ。」
慣れたくは無いかもこれ。
金色の翼の天使は僕の腕を掴みグイグイ引っ張る。
覚悟しなければならないのか……。
仕方ないか…。
金色の翼の天使を信じるしかないか…。
結局井戸の近くまで引っ張られた。
井戸を見ると真っ暗。
底が見えない。
凄く怖い。
「飛び込んでくれ。」
えーー。
怖いぞ……。
金色の翼の天使は僕の後ろに回り込み
いつでも落とそうと待機していた。
本当の悪魔というのはこんな人なんだろうかと
思った。
覚悟を決めても凄く怖い。
思わず後退りしてしまう。
「はぁ…遅い。早く行ってくれ。眠いから。」
金色の翼の天使は遂に僕の背中を思いっきり
押した。
僕はその勢いで井戸の縁に手をかけたが
勢いが強すぎてそのまま顔面から綺麗にダイブ。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
僕の叫び声が井戸内に虚しく反響する。
「うるさいな…俺も行くから!!」
上から聞こえた。
物凄いスピードで落下するものの底が依然として
見えない。
何時まで落下するのだろうかと思った時。
キーン
耳鳴りがした。
それと共に何故か急に強烈な眠気がする。
瞬きだけと思い一瞬目を閉じたが
それ以降意識は消えていった。





「思い出しちゃった?」
僕は目を覚ます。
真っ白な空間に巨大な桜の木。
あぁここは夢だ。
目の前には『僕』。
黒髪で外はね。
そして瞳の色が赤と黄色のオッドアイだ。
僕は問いで頷く。
「そっか。」
『僕』は桜の木に見上げる。
「この世界は変わってしまった。
あるべき姿が異なってしまった。
金色の太陽の存在も消えてしまうかもね。」
『僕』は微笑む。
「あるべき姿??金色の太陽って?」
僕は『僕』に手を伸ばす。
しかし『僕』は幽霊のように実体がなかった。
「太陽の存在が『僕』から消えかけている。
それは辛くて悲しくて虚しい。
存在自体『僕』のように消えてゆく。」
『僕』の体が少しずつ透明になっていく。
「『僕』の本当の名前呼んでみてよ。
この木が反応するかもね。」
僕の本当の名前。
天使と悪魔の間に生まれた子の名前。
「僕の本当の名前は―」



ルシエル。
ルシエル=ローザベルト。
それが僕の本当の名前だ。

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