進め!非常識ガールズ!

ルルザムート

第3話 part2 カッチリ王子とあたおか王女

廊下


右を見る、ハルちゃんは居ない、次に左を見る、ハルちゃんは居ない、結論:ハルちゃんが居ない!
「大変…!」

いつ何が出てきてもいいようにケースを持って片っ端から部屋を開けていく
いない!いない!いない!
ウルフルズの件もある、未知の場所で大声は出せない

「完全に見失った…」
こうなるとこちらから見つけるのは不可能に近い、なぜならハルちゃんは無音で全力疾走したり踏み台も無しに天井のダクトによじ登って移動したり、意味もなく気配を消したりするから向こうから見つけてくれるまで待つしか無い

さっきの部屋に戻ろうか…?いやダメだ、あの部屋の主がいつ戻ってくるか分からない、それにあの部屋の匂い…ハルちゃんは気付いてなかったようだけど

「血の匂い…だよね…」
これだけ広いんだ、ああいう場所が他にもあると考えてほぼ間違い無いだろう、急いで見つけてもらわないと…

それから私警戒しつつこの洋館内を散策する
早く見つけて…ハルちゃん…

「…」

「…」

「…」


どれくらい経っただろうか?もうかなり長いこと歩いている気がする、そう思いスマホを見るが
「…!」
まだ5分しか経ってない…

心配のあまり時間の感覚が少々おかしくなり始めている、そしてそれは時間感覚以外にも…

「どうして私を置いていくの…?」
影月 遥は私の物…私の所有物なのに…いつも私を置いて…
ケースの取手を握る手に力が入り、ギチギチと音がする

「さっきもそうだったなぁ…『勝手に居なくなっちゃってごめんね』なんて言ってたくせに…また居なくなって…」
…閉じ込めちゃおう
「…ふふ」
そうしよう、閉じ込めよう、私の部屋に、閉じ込めよう、鎖で繋いで、閉じ込めよう、ずっと一緒に…ああ、でもそうだ

「閉じ込める前に…勝手に居なくなったお仕置きをしなくっちゃ…」
そう、こんな風に!

「っった!」
左手の握り拳に痛みが走り我に帰る…壁が凹んでる…
おちつけ、落ち着きなさい井上 桜…ハルちゃんには悪意が無い、それにもうあんなことはダメ、そうダメなの、いい?井上 桜

「ふぅ…よし」
落ち着いた…さてと、とりあえずここを散策してーーー
「こんにちわぁー!フラルドお姉さんよ〜!」
「ーーーッ!!??」

突然の不意打ちにあげかけた悲鳴を抑え込む、突然の不意打ちって頭痛が痛いみたいに聞こえるね…
「ビックリしたかしら?…うんうん!気配を消した甲斐があるわ〜」

「…!」
うっ…!この人…!
けばけばしいまでのピンク髪のロングに下着って言えば信じてしまえそうな挑発的な服…それに加えて…

「ん?あー、これ?まー初めて見たら驚くわよね〜」
バサっと広げた黒い翼はそれだけで私を包み込めるほど大きい…それによく見たら歯もおかしい、これではまるで吸血鬼だ

「んー?大丈夫よ?私、『今は』お腹いっぱいだし」
こっちの考えてることを察したかそう言ってニヤニヤと笑う女性

「自己紹介しましょ!私はフラルド・アルコット!吸血鬼!あなたは多分…井上 桜ちゃんね?お友達から話は聞いてるわよ〜」
お友達…って!

「ハルちゃん!ハルちゃんのこと知ってるの!?」
「ええ、短かったけど良く知ってるわ」
ニンマリと嫌な笑いをする女性に若干たじろぎそうになるがとりあえず質問する

「良かった…それで今どこに?」
「ここ」


「え」
返答が返ってきた瞬間…世界が凍りついた。それまで普通だった心臓の鼓動や息遣いが荒くなっていく

………
女性は…自身の腹部をぽんぽんと叩いている…
理解したくない、『それ』が何を意味するのか理解することを頭が拒否している、そして…思考とは無関係にアタッシュケースを握る右手に力がこもる

「ーーーごちそうさま♪」
「ッ!!!」
それを聞いた瞬間、アタッシュケースを…いやアタッシュケースとしてしか見せていなかった武器を女に向けて叩きつける

「キャッ、あなた見かけによらずえっぐい武器持ってるわね〜」
取手の裏の指紋認証によりさっきまでアタッシュケースだったチェーンソーを振りかざす

…全てが許せない。
目の前の女が。ハルちゃんと一緒に居なかった自分が。勝手に1人で行ってしまったハルちゃんが。
「ーーー殺してやる」

刃を稼働させ、どうしたらこの女に後悔させられるか考え…ようと思ったがやめた。
だってハルちゃんが居ないのであればもう意味は無い、だから特に何も考えず殺すことにした

「うわっ、ガチギレ!にしたってキレ具合がすごい!」
「よくも…!よくもっ!」
頭、胴、腕、足、どこを狙ってるか分からない、いやどこも狙ってない、が正しい。メチャクチャに振り回されるチェーンソーの刃は壁や床に嵐が通ったような傷を付けながら女へ向かう

「あぶなっ」
ーーーが、女には当たらない、それはそうだ、こんな馬鹿な戦い方で当たるわけが無い、でも私に理性を持った戦いなんてもう出来なかった

「もー、それ直すの私達じゃ無いんだからそろそろ大人しくして…ねっ!」
「!?」
ブンという音の直後壁に張り付けられる感覚、いやこれは本当に張り付けられている、私の後ろに見えない壁がある

「グッ…くっ!」
身体が全く動かない…!
「あなたのお友達、ハルちゃんもこうやって捕まえたのよ、人間とは思えないほどすばしっこくて苦労したケド」

…あっけない、とても。コイツと私じゃ勝負にすらなっていない、体の中で暴れ回る殺意は女を引き裂こうとしているがよく分からないものに阻まれずっと空回りしている
「…殺しなさいよ」

人間は諦めが早い生き物だと思う、もちろん人によるだろうけど…できないなと思ったことに対しては途端に感心がなくなるものなんだな…とか思ってる

「えー?殺すなんて物騒なことしないわよ、ただ…むふふふ」
女はぴろんっと自身の桃色の長い髪を指先でつまみ、ゆっくり歩み寄ってくる
はぁ…なんだか…あっけなかったなーーー

ーーーこちょ
「へ?」
こちょこちょこちょ
「んひゃっ?!」
こちょこちょこちょこちょこちょ
「いやはははははは!!??」
なにやってんのコイツ!?

「へっへっへ、もがき苦しむがよい〜あ、ホントにマズくなったらちゃんと言ってね?窒息死とか笑えないし」
「ちょ、やっ、くすぐっはーあははははは!!!」
お構いなしに女はくすぐる、くすぐる、ひたすらくすぐる

「ここでダブル!二刀流よ!」
!もう片方の手にも髪を摘んで…や、やめて!
こちょこちょこちょこちょこちょこちょ

「ひーっ!はははーっははははは!!!」
いき、いきがでひっーーー
このままではホントに死んでしまうかもしれない!でも笑いすぎて喋れない!

「人間も悪魔も笑うのがいちばんってね〜」
も、もーダメ…うん?
今女の肩を誰かが叩いて…
「うん?どちらさまーーー」
「お客さんに一体…!なにしてんだバカ姉ーっ!!!」
「ぱわーげいざっ!?」

衝撃波の…柱?に吹き飛ばされて女の上半身が天井に刺さる
「ひ、ひどいわあーちゃん…」
何が起こってるか全くわからないまま私はべしゃりと床に落ちる

「ぜーぜー…」
「うわっ、桜ちゃん大丈夫…?」
「え」
多分安心したからだと思う、ハルちゃんの顔を見たら…私はそのまま眠ってしまった


第3話 part3へ続く



↓武器紹介

桜のアタッシュケースがなぜチェーンソーに変形するのかについて、元々このチェーンソーはとある屋敷の植物園に勤務する庭師が手入れ工具をなんとかコンパクトにできないかと考え、アタッシュケースと工具を一緒にしてしまえばいいのでは?という考えのもと作られた手入れ用具…を伐採師用に改良を加えたものである。もちろん本来は武器としては使わないし重量もあるので振り回すようなものではない、使いもしないのに桜は頑なに持ち歩いている、本人曰く余程のことが無い限り使う気は無いというが…使った回で言っても説得力無いな、コレ

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