名前を棄てた戦士たちは今日もそこいらで暗躍するようです。~ハム~

ミルクプリン

序章…5

    ヴーン ヴーン……

    その晩ワタシの電話が鳴った。寝る前だったが取り敢えず出た。相手は彼らからだ。本当はもう受けるつもりは無かったのだが……。まあ、楽しければそれでいい。

    先生達が昼間訪ねてきたのはイレギュラーだった。彼らが仕掛けて行った盗聴、盗撮の機材は「残念でした」という言葉と共に回収してある。

『「ワタシよ。」』

『「JSAJ イチ キュー」』

トゥー トゥー……。

    短い言葉を告げると切れてしまった。 これでかけ直しても繋がらないだろう。これは飛ばしの携帯だ。

    電話を切ったワタシは郵便ポストに投函された封筒をあける。出てきたのは一枚の紙だ。意味不明の文字がそこら中にかかれている。悪戯だと思われるだろうがこれは依頼書だ。決まった折方を順番に行って出てきた文章を紙に書き出した。

→→→→→
タイショウ……ウエムラ ハルキ
ネンレイ……サンジュウ
ショクバ……ウエムラコウギョウ
ショク……ケンチク・ヤクブツミツバイ
ジュウショ……▲▲県▲▲市▲▲町▲▲ー▲
キゲン……ゲツマツ
ホウホウ……シテイナシ
ショリ……ナシ
→→→→→

    悪くない。受けることにしよう。

    これはワタシの仕事だ。現在公安との仕事を受けているがこの際気にしない。

    少しパソコンを弄ったあと、ワタシは商売道具を持つと、お手製のセキュリティーを発動させて部屋を出た。

◆◆◆◆◆

    時刻は深夜一時を回る。ワタシの立つ建物の屋上から見下ろせばいつかのように夜だと言うのに首都高速道路は車が忙しなく行き交っている。

    空模様は生憎の曇り空だ。もう暫くしたら降りだすのだろうか。動きが早く、ほほを撫でる風は温く湿っていた。

    ワタシは無駄に眩しい下界のそれらに目をくれず、一キロほど離れたマンションの最上階の部屋を見る。

    ギターカバンを下ろし、そこからL96A1えもの得物を組み立て、地に伏せて構えてスコープから覗く。弾は8.58×70㎜弾だ。対象はその一室の大きな窓辺に立っていた。

    ワタシには関係ないが事前の調べによると、その情報を信じるならば厚めではあるがガラスは防弾ではないようだ。

    ボルトハンドルを操作してコッキングを済ませる。後は集中だ。スコープの先の対象は一人で呑気に酒を啜っていた。私は口ずさむ。

「【━━音よ 消えよ━━】【━━命なきそれらを 透けよ━━】」

    ビルの高所に吹く風がワタシに吹きつける。息を吸い込むと一定のところで引き金を引いた。弾が出る音は鳴らない。カランと言う薬莢が落ちる音だけ響いた。

    ワタシの打ち出した弾丸は風切り音も出さずに無音で正格に対象の頭へと貫通した。途中のガラスは割れた形跡はない。体を貫通した弾はまたどこかへと飛んで行った。

    部屋には男がバタンと倒れる。

    完璧だ。ワタシの仕事はもう終わり。仕事道具を片付けてから落ちた熱々の薬莢をハンカチで包み、ポケットに回収する。

    空は曇天。暫くすれば未明まで雨が降る。硝煙も洗い流されるという寸法だ。

    ワタシはのんびりと部屋に帰るのだった。

◆◆◆◆◆

    私は先輩方と分かれたあと彼女を監視していた。彼女とは椎名しいな先輩が連れてきた女子高生の猪狩いがり理央りおである。

    今日の昼間、理央の部屋で聞いたことは衝撃的だった。どうやらこの世界はまやかしらしい。あまりにも現実離れしすぎていて受け入れられない。

    そもそも、この二十一世紀の世の中でそんなものがあるとは信じられない。魔法や妖怪なんてただの幻想。幽霊の正体は枯れ尾花が私の常識だった。

    それどころか先輩にも理央にも着いてきたら死ぬとまで言われた。その上で係長は着いて行けという。あくまで私は一般的で常識的な公務員だ。公共の奉仕者だ。一応キャリアと呼ばれるエリートでもある。そこまで言われたら薄っぺらい私のプライドが許せない。

    私は個人で動いている。こんなの先輩達にばれたらどやされるに違いない。でも、私はどうしても納得できなかった。

「ん?    動いた。」

    部屋の明かりが消えて理央が部屋から出てきた。路上演奏でもするのだろうか。遠目からでもわかるギターカバンを背負っている。

    マンションから出てくると突然来た黒い車に乗ってどこかへと行ってしまった。この時間だ。身軽さ重視で私は徒歩。タクシーを拾うには厳しい。私は見失ってしまった。



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