名前を棄てた戦士たちは今日もそこいらで暗躍するようです。~ハム~

ミルクプリン

序章…2


「先生は何でワタシを協力者に選んだんですか?」

    昨日と同じ時間同じ場所で二人は向かい合っていた。大きい雲が遠くの空に見えた。下のグラウンドでは隊長蟻かんとく軍隊蟻やきゅうぶいんの怒声が鳴り響く。

    昨日とは違い理央りお達基たつきは持ち込まれた木製のベンチに座り話をしていた。相変わらず仮にも教師であるはずの達基たつきの手には煙を吐く煙草がある。

「んー。僕も軽く生徒と教師の経歴を調べたんだけどね。君が一番面白かったからだね」

「そうですか」

    あまりつつかれたくないことでもあるし、嘘じゃないのはわかったので理央りおは次の質問に移る。

「原因、犯人、動機。どれか一つでも判明してますか?」

「わからないから僕らの所に回ってきたって言うのが正解だな。僕達も一切情報をつかんでいない」

「成る程です。最後の質問です。ワタシのことをどの程度知ってますか?」

「20××年○○月△△日##時¥¥分□□病院に生まれる。
四歳の頃、両親が離婚。養子に出され五つ前の里親に引き取られる。数ヵ月後施設に戻され、五歳のとき某一流企業の社長夫婦に引き取られる。しかし、社長夫婦の脱税が発覚。二人は逮捕され、再び養子に出される。七歳のとき警察官の父と専業主婦の母親に引き取られる。しかし、半年後、服務規程違反が発覚。父親は懲戒免職。再び養子に出される。次に八歳のとき一般会社員の夫婦に引き取られる。母親からの体罰があった模様。半年後業務上横領が発覚し家庭は崩壊。養子に出される。九歳のとき役者の父親とソムリエの母親に引き取られる。四年後、父親の死体遺棄、殺人が発覚。犯人隠匿罪も兼ねて夫婦は逮捕された。また養子に出される。その後、現在の病院の院長夫婦に引き取られる。その病院には黒い噂が絶えない。
本人の性格は至って冷静。物事を落ち着いて判断する。頭の回転も早く教師からの評判も高い。同年代の交遊関係はあまりない。
マスコミ業界、財政界、裏社会、等多方面に影響力、太いパイプを持つ。裁縫、料理、踊りなど、分野を問わず才能を見せる。
武道や殺し合いの心得がある。銃火器の扱いにも精通している。自傷癖がある。って程度しか知らない。あとは、山登りに行くことがあるってくらいか」

「うわぁー。ある程度ってレベルじゃないですね。ストーカーですね。変態ですね。お巡りさんここにいまーす」

「いや、お巡りさん僕だから。さて、冗談もこのくらいにして、こんなレベルでこの事件を探っても誰からも何も出てこなかった。表面上は……。」

「怪しい奴って誰ですか?」

    達基たつきは「心の中を先読みするな」と文句を言いつつ答える。

「三人いる。一人は英語課の鈴木すずき幸輝こうき三十五歳。彼が赴任した年から事件は始まった。当時から大型の車を所持している」

「ああ、いつも、女子生徒を気持ち悪い目で見ながら、今年は誰にしようかなー。とか考えてる人ですね。」

「うん。さり気無く公安こちらが掴んでない重要な話しが出たな。」

    理央りおは「先生二人目は?」と急かす。

「二人目は用務員の田中たなか敬二けいじ七十歳。経歴不明。これが一番の理由だ。調べようとしたら上から圧がかかった」

「その人は、元政府公認のプロの暗殺者でしたね。年齢による運動能力の低下と仕事中の怪我が原因で引退して。政府のプログラムで色々書き換えてセカンドライフを満喫中らしいです。本人もほのぼのした生活に満足してるみたいですよ。因みにワタシの顔見知りでもある」

「そりゃ、出てこないわけだ。国が動いたんだから。三人目は近隣住民の大黒おおぐろ幸枝さちえ五十四歳。この学校を卒業。生徒も利用する喫茶店の経営者。十年前から急に羽振りがよくなった」

「ああ、あそこの。生徒から読んだ情報だと。付けが一定額に到達した生徒を拉致って地下にある施設で売春させて上前を跳ねるって言う商売をしてるらしいです。写真撮って脅迫して数回から数十回に渡ってやらせてるとか。利用者から大分搾ってるらしいし、羽振りがよくなったのはそのせいでは?    後ろにいる後援会ヤクザの皆様にも一応聞いたから間違いないですね」

    達基たつきは最早自棄になっていた。駆けずり回って調べた情報が直ぐに答え合わせされていくのだから。

「これは一般の警察に垂れ込んどく。」

「いや、やめた方がいいです。あれでも情報屋の役割を担ってるし、政界からアウトローまであらゆる方面に顔が利くので。摘発なんてしたら表の市街地が血で血を洗う戦場と化しますよ?」

「よし、聞かなかったことにしよう」

「さて、英語課の鈴木すずき幸輝こうきを早速調べてみますか?」

「そうだな。僕が適当に拐って来るから尋問してくれ。場所はどうするか」

「第二倉庫はどうですか?    あそこならあまり使われてないし、校舎からも入り口が死角になっていて人も近寄らない。使えると思いますよ。」

「そこでいいな。犯人なら証拠押さえて失踪ってことにして確保するから。」

「どうします?    決行日。ワタシは暇なのでいつでもいいですけど」

「上司と相談させてくれ。夜にでも話をつけてくる」

「早くしないとワタシが殺ししとめますよ?」

    理央りおは楽しみすぎてついつい先走ってしまう。

「勘弁してくれ。尻が重い上司を動かすのは大変なんだ。せめて今日が水曜日だから来週にしてくれないか?関係省庁への根回しとか裏付けに時間がかかる」

    焦ったように達基たつきは止めに入った。準備なしにそんなことされても困るからだ。

「ワタシだったら病死に見せかけて殺れますけど?」

「いや、それでも待ってくれ。誘拐した子達の所在とか色々調べないといけないから」

「わかりました……。」

    渋々と言った感じだが納得する。

「わかってくれたならそれでいい。因みにどうやって消すつもりだったんだ?」

「お友達から買い付けたモウドクフキヤガエルのバトラコトキシンの毒矢で背後から仕留めようかと」

「止めなさい。即死だから」

    達基たつきは真顔で止める。バトラコトキシンとは人がそれに触れるだけで絶命してしまうような毒物だ。ただの人間にそんな毒はオーバーキルも甚だしい。

「え、やっぱりトリカブトの数時間苦しめてから殺すパターンがよかったですか?」

「いや、そういうことじゃなくてだね……。」

「でも針に毒を馴染ませるの大変だったんですよ!    スリルがあって……。それに、飼育下で毒を維持させるのに成功するのは何気に凄いんですけど」

「まあ、そうなんだが。っていうか、結局楽しんでるじゃないか」

    毒物の調合も理央りお得意分野しゅみだったりする。

先生あなたも感じてみますか?    死の恐怖スリルを」

    そんな問答があと少し続いたと言う。


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