Astral Beat

奈園 緋兎

変性

 《ーーーーの体構造を変性、再度地上に再生します。》

 ......。はい?

 《潜在異能力体 Astral beat α を起動します。》

 なんて?て言うかこの一面暗闇な空間はどこ!?
確か僕は、今日発売のゲームを買いにいって、それで....。

......そうだ、確か巷で噂の殺人鬼にうっかり遭遇して殺されたんだ。

うわーーーーーっ!せめてあのゲームをクリアしてから死にたかった!


 《能力名「Astral beat α」のデータによる変性が完了しました。》

 うおっ!?

そういえば、さっきから聞こえてくるこの謎の声はなに。

....... てか、異能力がどうとか言ってたな。

 えっ?これってもしかして、ラノベやらなんやらで王道な、異世界転生展開か!?

.....いや、ねーか。まあ、そんな展開になっても、よく考えたら困るだけだかな。

 でも、じゃあ、この声は一体....。


 《全ての変性プログラムが終了しました。此より再起動します。尚、再起動には、時間がかかります。》


その瞬間、僕の意識が遠のいた。



 少し時を遡る。
 
それはある梅雨明けの頃、レジ袋を手に下げ、彼は家路を急いでいた。
 
彼の名は、神崎 嶺夜(かんざき りょうや)。

どこにでもいる普通の男子中学生だ。

この日は休日。

 しかもちょうど予約したゲームの発売日だった。
 

「ついに...ついにこの時が来た!早く帰って早速プレイだ。」


 そんなことを言いながら、嶺夜は細い路地へはいった。

 この道を使うと、通常より数十分早く家に着く。

 その路地を歩いていると、ふと異臭に気が付いた。

 (...鉄の臭い?....進行方向だし。....一応確認しなきゃな。)

 既に嫌な予感しかしない。

 異臭の方向へ歩みを進める。
 
そして、目を向けた先には、予想の斜め上を行く光景があった。

 両脇の壁や、地面のアスファルトが赤く染まり、その中心には、動かなくなった人型の肉塊が横たわっている。

その前に別の人型がたたずんでいた。

 その人型には見覚えがあった。
 
連日ニース等で報道されいた連続殺人鬼だった。
 
その時、鈍い光を見た。
 

「えっ......。」
 

その瞬間、過去の思遺出(トラウマ)がフラッシュバックする。

 血の海に沈む肉塊(りょうしん)。
それぞれの手に握られた刃。


「あっ...。」
 

 思わず声が出てしまった。

 きらりと輝く物が見えた後、空を仰ぎながら意識を失った。
 
どこか遠くで声を聞いた後、 一拍おいて目が覚めた。


 「あっ、起きましたか。具合はどうですか?」


 こ、これってもしかして本当に異世界転生展開!?


 「異世界転生.....?何...あっ、あのゲームのことでしょう。それなら、ベッドの横に置いてありますよ。」


 病院でした。

 そりゃそうだよな。てか、阿保な妄想が声に出てたらしい。


 「えっと、何でもありません。あと、具合は問題ないです.......?」


...... 何だ?

 何か女の子の声がしたような?

 しかも何か僕のさっき言った内容と全く同じだったような..。


 「?....今先生を呼んで来ますね。」


 そう言って、看護士は病室の外へ出ていった。

 よし、状況を整理しよう。

 確か僕は殺人現場に遭遇して、そして発作が起こり、身動きが取れなくなったところでサクッ....。


(そういえば、僕は何をされたんだ?)


それにあの殺人鬼は異様だった。

 いや、殺人鬼だからとかそういう事じゃあなくて、あの鈍い光だ。

 あれは刃物ではあった気がするが、ナイフとかじゃあなくて、例えるならしっぽみたいだった。


(新しい兵器かなんかか?)


と、そこで病室のドアがノックされた。


 「ど、どうぞ」


 すると、白衣を羽織った女性が入って来た。

この人が先生だろう。
 
その人は、嶺夜を見ると、


 「なんだい、首を跳ねられたってのに随分と元気そうじゃないか。」


 「おい、何で少し残念そうなんだ。」


 「それはおいといて、まずは、自己紹介でもしよう。私は菊池 杏子(きくち きょうこ)と言う者だ。」


 「はあ。」


 「....嶺夜、だったか、首の具合を見たいんだが、いいか?」


 「ええ、どうぞ。」


 しばらくの間、杏子は嶺夜の首を見ていたが、やがて顔を上げて呟いた。


 「しかし綺麗なもんだね。蘇生や回復系の異能は何回も見たがここまで完璧に治せる異能は見た事がない。」


 今この女医は何つった!?


 「は?あんた何言ってんの?アニメの話?」


 すると杏子が、何言ってんのこいつ。という目で見てきた。

腹立つ。


 「.....なんだ。新規の能力者か。その説明は後でするよ。それより、ほら」


勝手に納得したらしい杏子が、手鏡を渡してきた。
 

「とりあえず、それで首を見てみな。」


 .............えっ?


 「な、綺麗に治って、どうした?」


 その手鏡には、いつもの見馴れた自分の顔ではなく.............。

 何故か白皮症(アルビノ)の美少女が映っていた。

そういえば、起きた時から違和感はあった。

何故か妙に重い部分と、いつものアレの感覚がなくなっているのと、女の子の声と言う違和感がなぁ!


「...えああああああああああああぁぁぁっ!?」


「うおっ!?ど、どうした!?急に奇声開けて。」


と言うか、今まで気付かなかったのが不思議である。


 「...そういえばあんた、学生証の顔写真が今の顔と違ってたよね。まあいいか、それも含めて異能について説明するよ。」


 「異能って言うと、よくアニメなんかであるやつですか?」


 「いきなり落ち着いたね。...まあ、そんなとこ。
ここでの異能力ってのは、能力体ってやつに感染
しておこる、能力体感染症って言う病気の後遺症
のことを言う。」


 「能力体?」


 「能力体ってのは、他の生物に寄生して、その生物の遺伝子に自らの遺伝子を組み込んで変性させる謎生命体なんだけど。」


 「何それ?」


 「さあ。けど、それに感染すると、異能が発現するか、死ぬかの二択になる。」


 「まあ、遺伝子がおかしくなるからか。」


 「そう。抵抗に成功するか、適応するかしないと死ぬ。出来れば漏れなく異能が発現する。」


 「そうなんだ、じゃあ僕のこれも異能が発現したせいなのです?」


 「そうね。でもまさか性別がクラスチェンジするなんて思いもしなかったけど。」


 「まあ、そうでしょうね。」


 「動物系は知ってるけど。」


 「へー。ところで、これどうしたら治せるんですか?」


 「無理ね。」


 「へ?」


 「おおよそ、その状態で異能を使ってない状態だろうから、元の状態には戻れない。そもそも遺伝子が変わってるから諦めるしかないわね。」


 「そんな......っ。」


 「詳しい事は、検査しないことにはなんとも言えないけど。...確かにこれは厄介ね。」


 「何故?」


 「異能の存在は秘匿なの。今のあんたの状態をどうやって説明するんだい。」


 「あっ。」



 「そういえば、あの殺人鬼は何だったのですか?」


 「あの殺人鬼は今も逃走中。先に殺されたやつは私が蘇生した。」


 「先生も能力者?」


 「ええ、能力名[慟哭ノ消失]って言うやつ。」


 「なるほど、分からん。」


 「でしょうね。」


 「あの殺人鬼も能力者?」


 「ええ、そう。能力名[刃尾]他にも同件の事件を起こして追われている。」


 らしい。

 今回は死者がいないから良かったが、他の事件では、死傷者がでているだろう。

  恐ろしい異能犯罪者だ。

 今後、関わりたくないな。


「今から検査をするから、準備が出来たら声を掛けて。」



 こうして、殺人鬼に殺された僕は、異能と言う特異性を持って人生を再開した。

 普通の日常、普通の人生。これらが、どれほど幸せであったのか、

僕が現実を思い知ることになるのは、すぐ後のことだった。


コメント

  • 癒雨

    いいじゃん
    これからも書いていってね!

    6
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