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貧乏姫の戦争 〜異世界カードバトルを添えて~

一刻一機

第二章 ~獣人村の異変~(9)

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「それで金貨四十もの大金を、どうやってほんの一週間で稼ぐおつもりですか?」
「ん?適当にその変の魔物を狩ってれば、すぐ稼げるんじゃないのか?」
「いえ、ざすがにそれはちょっと厳しいかと思いますが……」
 現に俺の手元には、色々と買い物をしたのに金貨三十枚と、金貨三十枚相当の魔石が残されているのだ。
 これは聖樹の森で、一週間狩りを続けた成果である。
 ならば、その半分ぐらいなら、一週間でお釣りがくると思ったんだが甘いんだろうか。
「王がお持ちだった魔石は、通常ではありえない純度のものばかりでしたが、一体全体どこの魔窟に籠ればあんな魔石が手に入るのですか?」
「魔窟ってひどいな。ここからずーっと離れた南にあるかなり大きな森だけど……」
「ここから南……まさか……あの魔の森ですか!?生息する魔物モンスターが平均で四ツ星、最低でも三ツ星と言われる!?」
「そんなすごい場所なのか?俺の友達の実家があの中にあるんだけど」
 そうか、あの森は部外者からは『魔の森』と呼ばれてるのか。
 キリア達はあの森を神聖視していたので、そんな呼び名が蔓延していると聞いたら、すごい怒る気がするけど。
「王よ。三ツ星の魔物モンスターを狩るには、弱い個体でも最低兵士十人が必要だと言われているのですよ?四ツ星なら最低百人です。そんな森に住める人間が、いるはずがないじゃないですか」
 遂にキリアは、存在ごと全否定されてしまったか。
 しかし、四ツ星で兵士百人?
 はて、キリアは四ツ星相当って言われてた発狂猿人マッドゴリラを、一人で十匹から二十匹弱倒してたんだけど……
 リアル一人軍隊ワンマンアーミーですか?
 うん。まあ、そんな森の奥に引きこもっていれば、聖樹の国は、確かに常識的には存在が疑われるだろう。
「いやいや、ちゃんと人が住んでるから。……しかし、そうなるとあの森まで戻らないとまずいかな?」
「魔の森は、かなり遠いところにあると記憶しております。一週間では戻ってこれないかと」
 そう言えば、女王巨人蜘蛛マリアに乗って、異世界では反則級の速さで進んでも一週間以上かかっな。
「仕方がないな。じゃ、近隣で一番強い魔物モンスターがいる場所を探すか」
「はい。それがよろしいかと存じます。それでは、そう言った情報を探すには一番適した場所がございますので、ご案内差し上げます」
「へえ、自分の町じゃないのに詳しいな」
「はっ。ありがとうございます。私の任務は、主に潜入や調査でございますので、潜入先の情報収集には特に気を配っております」
 最初は平服した姿勢を崩さなかったミルドが、少しにやけたドヤ顔をしている。
 まだまだ言葉遣いは固いが、少しは馴染んできてくれたようだ。
 ちょっと、いや結構嬉しい。
「じゃあ、案内を頼むよ」
「かしこまりました」


 ◇


 ミルドが紹介してくれた施設は、「クエスト斡旋所」と呼ばれる、いわゆる「何でも屋」のような場所らしい。
 金さえあればどんな依頼クエストでも出せるため、正規ルートで発生しない仕事が行きつく終着点であり、実力さえあればいくらでも金を稼げる場所だとか。
「いらっしゃいま……せ……?」
 俺とミルドが重い木の扉を開けると、中にはカウンターが三つあり、並んでいた武装した男女が一斉に俺達の方を振り返った。
 同様に俺達に視線を向けた、受付らしきやたらと露出度の高い女性の反応が、今のこれである。
 気持ちはわかる。
 日本のコンビニで、俺みたいな面付き兜フルフェイスマスクを被った人間が入店したら、何もしていない無くても即行で警察に通報されるだろう。
 しかも全身黒づくめのままだ。
「金になる仕事が欲しい」
 若干顔を引きつらせている女性の表情を窺がい、大変申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、ここで挫けてしまうぐらいなら、最初からこんな格好はしない。
「は、はあ……恐れ入りますが、当斡旋所のご利用は初めてでしょうか?」
 質問形式だが、ほぼ初見の客だと断定されてしまった。
 当たり前か。こんなインパクトの強い不審な人間を忘れるはずもない。
「ああ」
「では、あちらのボードに貼られている依頼クエストのみが受注できますので、ご確認下さい」
 受付の女性が示した先には、部屋の中央に置かれた大きな掲示板があり、そこに何人もの人間がたむろっていた。
 しかし、彼らのいずれも実力者らしい雰囲気は無く、どうにも高額な依頼が掲載されている様子はない。
「あのボードに、金貨四十枚稼げるような依頼クエストはあるか?」
「金貨四十っ……!?お客様……本気でおっしゃってます?当斡旋所でも、さすがにそういった冗談は受け付けていませんわ」
 受付の女性は、ビジネススマイルを浮かべているが、こめかみには怒りの四つ角が浮いていた。
 あれ?金貨四十枚ってそんな感覚なのか?
 いい加減、本気でこの世界の貨幣価値を勉強した方がいいのかもしれない。
「冗談じゃない。本気だ」
「っ……!?」
 しかし、こちらも時間が無い。
 俺は本気度を示すために、剣に手をそっと添え、偽りの怒気に魔力を載せた。
 周辺で、小さな悲鳴や誰かが転んだような騒ぎが聞こえたが無視だ。
 受付女性も顔を青ざめ、冷や汗をかいている。
「おい、いいじゃねえか。アレを案内して差し上げろよ」
 そんな騒ぎを察したのか、カウンターの奥から、頭が禿げ上がった中年男性が現れた。
「アレって……まさか、アレですか?しかし所長。アレは城からの特注依頼クエストで……」
「そんなこと言って、もう一月も誰も達成クリアしてねえんだ。いい加減、あの馬鹿な役人共の催促がうざったい。少しでも可能性があるなら、どんどんとハンターを送り込めばいい」
「そんな事を言ってさっきも、あんな小さな……!」
「おい、貴様ら王がお待ちだ。何か情報があるなら、早く吐け!」
 受付で待っている俺達を放っておいて、カウンターの中の男女が口論を始めたを見て、ミルドが横柄な態度で諫めた。
 そうか……ミルドって、俺以外にはこういうたいどなのか……
「まあ……斡旋所は、いかなる依頼クエストも最終的にはハンター様の自己責任が原則ですのでいいのですが、私はハンター様が減れば必然的に消化される依頼クエスト数も減るので反対なんですよ……はあ、でも、いいです。わかりましたよ」
 なおもぶつぶつと文句を聞えよがしに言っていた女性だったが、すぐにカウンターの下から一枚の丸められた紙を取り出した。
 紙はいわゆる羊皮紙(羊がいるかどうかわからないが、ブメの皮なら同じかもしれない)らしい、分厚い皮の紙だ。
赤竜レッドドラゴン……!?これはさすがに……」
 紙を覗き込んだミルドが絶句している。


『アシド火山の赤竜レッドドラゴンが狂暴化しており、被害が急増している。至急、これを退治し、証拠として赤竜の角を斡旋所に提出せよ。報酬:金貨七十枚。認定星数ランク:六ツ星。尚、赤竜の魔石、素材全般も高値で買い取ります』


「おお、金貨七十枚。これでいいじゃん」
「王よ、赤竜ですよ!?普通は最低でも万の軍隊を率いて倒すような魔物モンスターです!いくらなんでも無茶です!」
 俺は短絡的に、金貨の枚数に目が眩んだが駄目らしい。
 ミルドが必死に俺の腕を引いている。
「そうなのか?」
「……おいおい、そんな事もわからんとは、お前さんどこの田舎もんだよ」
 てっきり、からかわれたのかと思い、剥げた中年男性を睨んだが、逆にあきれた顔をされてしまった。
 しかし、ここで「実は異世界の地球ってとこから来ました」と言えば只の頭がおかしい奴だと思われる。
「そうじゃない。こんな簡単な依頼クエストで本当に金貨七十枚も出すんだな?と言う意味で訊いたんだ」
 俺は開き直って、わけのわからない態度を取ってしまった。
 自分で言っておいてなんだが、万の軍隊が必要な魔物モンスター退治を簡単って……「異世界から来ました」と言い張るのと、同じぐらい頭がおかしいと思われるんじゃないだろうか。
「ほう、豪気な奴だな……嘘は言わねえ。これは城からの発注で、支払いに間違いはない。斡旋所として保証してやるし、赤竜を狩れるような奴を騙そうとするなんて、そんな馬鹿はそもそも存在しねえよ」
 だが、剥げた中年男性は俺の言葉を信じてくれたらしい。
 真面目な顔で太鼓判を押してくれた。


 通常で考えれば、洒落や冗談のようなレベルの依頼クエストらしい。
 しかし、俺にはこの依頼クエストを達成できるという奇妙な確信があった。
 六ツ星級という事は、女王巨人蜘蛛マリアと同レベルである。
 ならいけるんじゃないか?





「あの禿げ親父は、人間にしてはかなりのレベルでしたね」
「そうなのか?」
 俺達が斡旋所から出ると、ミルドが溜め息混じりにそう呟いた。
 褐色の額には汗が浮いている。
 まだきちんと戦ったところは見たことがないが、普段の身のこなしや魔法の使い方を見るに、ミルドもかなりの強さだと思うが、そのミルドが緊張する程なのであれば、あの禿げた中年男性はかなりの強者だったのだろう。
 見た目は山賊Aみたいな顔なのに。
「ふむ。そのレベルのおっさんが、危険だって言うぐらいなんだから、やっぱり赤竜って強いかな」
「王よ。斡旋所でもおっしゃってましたが、本気だったのですか?……いえ、それとも流石は王という事でございますか」
「いや、流石も何も実感が湧かないだけだから」
 ドラゴンなんて、純百%ファンタジーな存在が、どれだけ怖いと言われてもわからんのです。
 むしろ、妹が本気でキレた時を思い出せば、その方が何百倍も恐怖を覚えるのである。
 まあ、ドラゴンと言えば、どんなゲームや小説でも中ボスみたいな扱いなのできっと強いのだろう。
「やっぱり戦力の増強はするべきだよな。赤竜狩りで金貨七十枚ももらえるなら、今の手持ちもパアッと使ってもいいだろうし!」
 俺は面付き兜フルフェイスマスクの中でほくそ笑んだ。
 赤竜の報奨金は想定以上の額だった。
 これなら、今まで我慢していたものが買えるのだ。
「王も意外と子供っぽいところがございますね」
 ミルドはそんな俺を見て、呆れたような微笑ましいものを見るような、何とも言えない微笑を浮かべている。


 そう、俺が我慢していたものとは……


「いっらしゃいませー。あれ、さっきのお客さん?もう、金策はついたのかい?」
 さっきまでいた不愉快な奴隷商館のすぐそばにあった、カードショップに来た。
 本当は「魔法屋」らしいが、俺の感覚では「カードショップ」である。
 奴隷商館と同様に、高級品を扱っているためか、店の内外に武装した男達が立っている。
 店内には、各種カードががっしりとしたガラスケースに収まり、その輝きを放っていた。
 今まで殺伐とした状況だったから気にした事も無かったが、魔法カードは銀色の金属板の上に、そのカードの効果を示す絵と文章が描かれており、裏面にはルビーのように輝く赤い石を砕いた粉で複雑な紋様が刻まれ一種の芸術品のような趣がある。
「さっきも言ったが、四ツ星以上のカードは展示していないだけで、店の奥にあるけど相応の実績があるハンターか、城の紹介状が無いと売れませんからな?」
 ちっ。念押しされたか。
 最初に来た時、金にモノを言わせて一番希少レアなカードを買おうとしたからな。
「アシド火山ってとこに行くんだけど、何かお薦めはあるか?」
「んん?火蜥蜴ファイアリザードでも狩るのか?あそこは、溶岩蛙マグマフロッグ岩石人形ロックゴーレムなんかの三ツ星、四ツ星級も居るから無理せんほうがいいぞ?」
 カードショップの主人は、いかにも魔法使い然とした、白く長い髭を生やし、濃いグリーンの尖った帽子とローブを着ている。
 今まで街の中を歩いても、一人もこんな格好をした人物はいなかったので、恐らく彼の趣味なのだろう。
 ただ、顔を全て隠している不審人物オレにも、色々親切にアドバイスしてくれるから、きっと良い人なのだろう。


防火幕ファイアガードスクリーン』火属性 ★★★
【術者周辺の熱源に直接魔力を作用させ、過剰な熱量が術者に対し届かないよう調整する事ができる】


精神強化マインドアップ(中)』祝属性 ★★★
【魔力を付与することで、一時的に魔法に対する抵抗力が向上される他、心理的負担が軽減される】


熱源感知ヒートセンス』火属性 ★★★★
【術者周辺に発生している熱の強弱を感知する】


岩石壁ロックウォール』土属性 ★★★★
【周辺の岩石を用いる事で、簡易な防壁を形成する。物理的な防御はもちろん、弱い魔法も防ぐ事が可能】


召喚サモン「     」』火属性 ★★★★
【『隷属スレイブ』で捕獲対象を捉え、『召喚サモン』で任意の時に、使用者の近辺に捉えた対象を呼び出す事ができる】




 更に、アシド火山攻略に必要と思われるカードも教えてくれたので、その全てを買う事にした。
「勧めておいてなんだが……本当に全部買うのか?」
 色々まけてもらってたが、カード五枚でしめて金貨三十枚。
 特に『岩石壁ロックウォール』は一枚で金貨十二枚と言う超高級カードだったが、気にしない。
 ぽんと金貨三十枚を即金で払った俺を見て、ミルドが顔を引きつらせているが気にしない。
 何度も言うが、異世界の金がいくらあっても、日本で使えないなら無意味なのである。
「何とも豪快な坊主じゃの。気に入った!無事アシド火山で強力な魔物モンスターを捕まえられたなら、うちで高く買い取るからな!その金でうちの秘蔵品を買っていくがよい」
「え!?もっとすごいカードがあるのか!?見せてくれ!」
「駄目じゃ駄目じゃ!本当は五ツ星以上のカードは、取引の際に国の許可証が要るんじゃ!その秘蔵品は、ちょっと理由ワケがあって持っとるだけじゃから、所持してるのがバレただけでも不味いんじゃよ!」
 いや、それただ単に早く処分したいだけなんじゃ。
「そんなの、ほぼ初対面の俺に言っても大丈夫なのか?」
「ふん。こちとら何年客商売やっとると思っとるんじゃ。どうせ、お前さんもワケ有りじゃろ?それに、お前さんは誰かに言いふらして喜ぶような玉ではあるまい」
 参った。
 さすがは年の功と言ったところか。
「爺さんには勝てないな」
「ふぉっふぉっふぉっ。何をしにアシド火山なんて危険地帯に行くかしらんが、必ず帰って来てまたうちで買い物しとくれよ」


 ……上客と思われただけな気もするが、これも激励の一種と思って受け止めておこう。


 ところで、本当にアヴェルとキリアはどこに行ったんだろう?
 いつでもどこでも俺にひっついていた、アヴェルがいないとちょっと寂しくなってきた。
 どこかで泣きべそをかいていないか心配だ。
 キリア?キリアは別にいいや。
 どうせどこかで、嬉々としてその拳を振るっているであろう事は、想像に難くないのである。
 

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