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貧乏姫の戦争 〜異世界カードバトルを添えて~

一刻一機

第一章 〜貧乏姫の戦争〜(3)

第一章 〜貧乏姫の戦争〜(3)





 折角なのでクロスケを修業させようと、更に森の奥に入ろうかと思ったが、キリアとアヴェルから強い反対にあい断念した。
「というより、そのスライムよりもミナト様も少し鍛えられた方がよろしいかと……」
 挙句の果てに、キリアからは呆れたような眼つきでダメ出しを喰らう。
「くっ!お、俺だって体は鍛えている方だった……はずなんだけどなぁ……」
 しかし、雑魚と評されるスライムと一時間も苦戦した手前、とてもじゃないが偉そうなことは言えない。
「そもそも、魔法カードがスライムの召喚カードだけというのが無謀ですわ。人間は、身体能力で魔物モンスターに大きく劣りますもの」
「魔法カードっていうのがあれば、火の玉でも飛び出して、魔物モンスターをやっつけてくれるのか?」
「ああ……そう言えば、ミナト様は魔法カードが無い国からいらしたのですね。ええ。勿論そういうカードもあります。ですが、札束デッキを遠距離魔法だけで構成する方はいません。大抵の場合は、能力ステータスや身体、武器や防具を強化するブレスカードを一枚から二枚。遠距離攻撃用を二から五枚程度。後は旅や生活を補助してくれる非戦闘用のカードが数枚、ミナト様が先ほど手に入れたような召喚カードを一枚と言ったところでしょうか。」
「ふうん。じゃ、一人十枚ぐらいしかカードを持たないんだ。そんなに便利ならたくさん持てばいいのに」
「そうですね。ですが、それは現実的ではありません。戦闘中は色々なカードがあっても使うものは限られてくるとか、色々な理由がありますが、一番大きな理由は、人間にはカードを所有できるレベルが決まっているからです」
レベル?」
「はい。カードは使わなくても、微量ながら所有者の魔力を吸い取ります。自分の力量に見合わないカードを持てば、カードが効力を発しないだけではなく、魔力を根こそぎ吸い取られ場合によっては命を落とすこともあるでしょう」
「えっ!あ、危ないじゃん!」
「そうです。ですから、魔法カードだけに頼る事無く、己の体を鍛えなければなりません。さすれば、最少の魔法で最大の威力を発揮できるようになるでしょう。ちょっと例をお見せしましょうか」
 そう言うとキリアはにやりと笑い、胸に右手を添えた。
連携コンボ、『力強化パワーアップ』、『武器強化ウェポンストレングス』!」
「おお!?」
竜爪りゅうそう!!」
 青白い光を放ち出した右手を大きく振りかぶり、キリアはそのまま横の大木に叩きつけた。
 空気が震えるような轟音と共に、大木が倒れ、地面が揺れる。
「えええええ!?」
 キリアの体格はどうみても、平均的な十代の女性のものだ。
 その女性の細腕を叩きつけただけで、俺の胴回り以上もある大木を圧し折るだと!?
「ふう、倒れてしまいましたか。失敗ですわ。またじいに怒られてしまいます」
「いやいやいや!失敗って何が!?十分に凄いけど!?」
「本来なら、木を切断・・できるはずの技なのですが……これはただ折れただけです」
「む、無茶苦茶だ……」
 だが、こんな魔法があるならば、確かに危険な森でも抜けられるだろう。
「キリア!悪いんだが、俺にも何枚かこういうカードをくれないか?これがあれば、俺でも森を抜けられるかもしれないだろう!?」
「そ、それは先ほども言ったように、力量に見合わないカードを持てば命に係わるから……」
「でも、もしかしたら使えるかもしれないだろう?そこを何とか頼むよ!」
 俺は手を合わせ、頭を下げたがキリアは非常に苦しそうな顔で、明後日の方向を向いている。
「ミナトよ。さっきのカードをたくさん持てない理由じゃが……レベルだけの問題ではないのじゃ……」
 ふわふわと浮いたアヴェルがしたり顔で、腕を組み、深刻そうな顔で頷いている。
 ……まさか、魔法カードには何か危険な副作用があるとか?
「高いのじゃ!」
「へ?」
「魔法カードは超高級品じゃ!日常生活で使う程度のカードならまだしも、戦闘に耐えられるようなカードとなれば、たったの一枚でも最低金貨数枚はするじゃろう」
 金貨一枚がどの程度の価値かわからないが、「金」と付くぐらいなのだから、少なくとも千円二千円程度ということはあるまい。
「高いんだ……」
「はい……」
 キリアが恥ずかしそうな顔で俯いている。
 正直魔法カードは喉から手が出るほど欲しいが、高級品と聞くと身に沁みについた貧乏性が働き、急に畏れ多い品物に感じてきた。
「大変お恥ずかしい話ですが、我が国では、戦闘用のカードは正直在庫がありません。それに、帝国と戦争状態になってからは森を出入りする人間も格段に減り、外貨獲得の機会もありません。と言うか、我が国の特産品は精々野菜ぐらいですので、外で売っても元からほとんどお金にはなりません……。仮にお金が手に入っても、その時は少しでも多くの鉄を買って、農耕具を作らなければなりませんし……」
 つまり、この聖樹の国はとても貧乏な国ということらしい。
 ……何だろう。すごく親近感が湧いてきた。
「あ!そうだ!お詫びと言っては何ですが、私自ら手解てほどきをいたしましょう!」
「へ?」
「我が国は、高レベルの魔物モンスターが巣食う森の中にありますので、国民全員に戦闘技術の習得を必須としております。森を出るにせよ、やはり、ミナト様も最低限の戦闘技術は必要ですよ?」
「ええー……」
 正直気乗りはしない。
 そんな時間があれば、俺は一刻も早く家に帰る手段を模索したい。
 だが、それもこれも、全てはこの国から出られなければ意味がないのだろう。
 ……それに、正直さっきの大木が折れるような技には興味がある。
 俺だって男だから、強くなることに憧れはあるのだ。
「はぁ……。わかったよ。俺に、今みたいなバーンと大木を折れるような技を教えてくれよ」
「おおっ!本当にいいんですね!?やった……ついに、私にも弟子が……!これでじいの地獄の特訓から逃れられる口実が……」
「え?」
「いえいえいえ!何でもありません!こっちの話ですわ!」
 ほほほと笑うキリアに若干の不安を覚えたものの、こうして俺の特訓がスタートとすることになった。


 後になって思えば、この時の選択が如何に甘いものだったか……後日俺は、深い後悔をする事になる。




 7


 聖樹の国は、城というか城から生えた巨大樹を中心として、その北から東にかけて全域を深い森に覆われているが、西から南にかけては砂浜と海が広がっている。
 そのため、聖樹の国の畜産と農耕以外に漁業もそれなりに盛んで、野菜、肉、乳製品、魚介類と豊富な食材に溢れた土地だった。
 もっとも、それ以上に森の中に魔物モンスターも豊富に溢れているので、誰も移住しようとして来ないらしいが。


 さて、俺が何を言いたいのかと言うと、砂浜と言えばランニングだ、ということだ。


「うおおおおお!?」
「ふははははは!止まってはいけませんよ!?止まったら死にますからねー!」


 砂浜を全力疾走する俺の後ろから、キリアが魔法カード「風弾エアシュート」なるものを振りかざしながら、同様にすごいスピードで追いかけてくる。
 イイ笑顔がマジでやばい。


「武術の基礎はまず、足腰!そして体力から!」


 砂が柔らかく走っても地面からの反動が十分に得られずスピードが出ない。
 しかし、後ろから追いかけてくるキリアが魔法を放つ度に、砂がぼっこぼっこ吹き上がっていく。
「ふ、ふざけんなああ!ぎゃあああああ!?」
「あ。当たっちゃった」
 苦情を言おうと振り返った俺を、空気の塊が吹き飛ばす。
 六十キログラムはあるはずの、高校生男子の肉体を冗談のように空を舞うとは……
 俺は現実逃避した頭で、そんな事をぼんやりと考えているが、わずか一瞬後には砂浜に体が叩きつけられる。
「ぐ、ぐふっ……」
 危ないのはお前だ!
 と言いたいが、衝撃で肺の空気が抜けてしまい、声が声にならない。
「駄目ですよ、止まったらー。危ないですからね。はい『治癒キュア』」
 そんな俺を、キリアが胸元から取り出した別なカードで、魔法を使うと段々と呼吸が楽になった。
 それどころか、疲労した筋肉さえ回復している気がする。
「はいっ!治りましたね?さ、次行きますよー!」
「え、ええええ!?ふざけんなああああ!ぎゃあああああ!」




 ◇


「さて、次に大事なのは防御、つまり相手の攻撃を防ぐ技術ですね!」
 砂浜で幾度も幾度も空を飛ばされたと思ったら、やっと次の練習に移れるらしい。
 文章にすれば、わずか数行なのに、実はここまで来るのに既に一週間が経過している。
 このキリア譲。最初はいかにもお嬢様然としていたが、しばらく一緒にいるとその本性が解ってきた。
 この女、ただのドSである。
 そして、武術バカだった。
 どうやら俺が彼女の「初弟子」と言う事になるらしく、俺が初めてこの国に連れてこられた時にキリアと一緒にいた「じい」さんに、弟子が出来たと嬉しそうに紹介していた。
 ちなみに、この間、アヴェルは聖樹の国の間をフラフラと飛び回り、すっかり国の子供達と仲良くなったようだ。
 子供は子供同士で遊ぶのが、やはり一番なのだろう。
 ただ、夜寝る時は必ず俺の腹の上にびったりとくっついて寝るので、何故こんなに懐いているのか、毎度首を傾げつつ大した重さでも無いので放っておいている。


「と言うわけで、私がこれからミナト様を殴ったり蹴ったりしますので、全力で防いで下さいね」
「わかった。……って、まさか以前見せた木を折るような魔法を使うつもりじゃ!?」
「あはは。まさかですよ。そんな事したら、ミナト様なんて簡単に真っ二つになっちゃいますよ」
「……骨折とかじゃないんだ」
「樹よりも頑丈な自信がおありで?」
「んなわけないだろ」
 魔法が無いなら、如何にキリアが武術を嗜んでいようと、女性の細腕である。
 特にキリアの手足を見ても、特段筋肉が付いているように見えない。
 これなら、そんな手足がぶつかっても酷い事にはならないだろう。
「えいっ」
「ぐふっ!?」
 だが、軽く突き出されたはずの、キリアの腕はするりと俺の懐に入りこみ、鳩尾に深々と突き刺さった。
 内臓が全部ひっくり返されたと錯覚するような衝撃が全身に広がり、口から液体が溢れる。
「駄目ですよ、油断したらー。えいっ」
「まろっ!?」
 先程と同様に、ふわりと放たれたハイキックだったが、やはり避ける事もできず的確に俺のこめかみを捉える。
 脳どころが天地が揺れのかと思うダメージを負い、思わず飛び出した変な叫び声と一緒に、俺は砂浜の上を転がった。
「ちょ、ちょっと待て!具体的な防御技とかを教えてくれてからじゃないのか!?」
「んー。いざと言う時には、頭で学んだことはとっさに出てきませんから。やっぱり、こういうのは、まず体で覚えるべきだと思うんですよね」
「無茶苦茶だ!」
「大丈夫です!男は根性だって、いつもうちのじいが言ってましたから!」
「ふ、ふざけんああああ!ぎゃあああああ!?あれ、デジャブ……が……」


 打撲や打ち身どころか、骨折ぐらいでも軽々と治してしまう『治癒キュア』の魔法カードの効果は偉大だった。




 ◇


「では、これが基本の最後ですが、いよいよ攻撃ですね!」
「おー……」
 前述の防御練習でも一週間を消費している。
 キリアの中で、ワンクールは基本一週間なのだろうか。


 あ、ちなみにこっちでは一週間は六日らしい。
 基本的に十二が神聖な数字であるらしく、一日は午前十二時間、午後十二時間、合計で一日二十四時間と日本と一緒であるが、「一時間」の間隔を知らせるものが城の鐘の音しか無く、日本の一時間と同じかどうかは定かではない。
 ひと月の中に「陰の週」六日と「陽の週」六日が二回ずつ。つまり二四日で「一ヵ月」を刻み、その一ヵ月が「陰の年」六ヵ月と「陽の年」六ヵ月合計で一年間は地球に居た時と同様に十二ヵ月らしいが、日数計算にすれば一年間が二八八日なので、やはり感覚に多少の誤差が生じてきている気がする。


「攻撃練習に関しては、防御の時のように、いきなりやれとは言いません」
「おー、それはすごくいいね。正直、いきなり私と戦えとか言い出すのかと思ってたよ」
「私は、弱い者いじめをするつもりはありませんので……」
 ……今さらっと、弱いって言われた!
 まあ、先日の防御練習で魔法を一切使わないキリアに、良いようにあしらわれキリアのレベルの高さは十分に身に染みたので、今なら弱い者扱いされても逆に納得してしまう。
 俺は別に格闘技に詳しいわけではないが、体感上キリアのレベルなら、魔法を一切使わなくても普通に日本の総合格闘技とかヴァーリトゥードゥに出場して、余裕で優勝をかっさらうだろう。
 だが、城の爺さん曰く、そんなキリアがまだまだ未熟者らしい。
 恐るべし異世界。


「では、まず正拳突き十万回からいきますか!」
「よーし、やるかー!……って、十万回もできるか!冗談だろう?」
 せっかく、後ろから魔法を撃たれたり、いきなり袋叩きにされる理不尽から解放されたと思ったら、今度は違う理不尽が襲ってきた!
「いえいえ。本気マジです。まずは、体に手を前に出すという動作を浸み込ませなければ、いくら技を覚えても無駄ですからね。とりあえず十万回もやれば、否応なく体が覚えてくれますよ!」
本気マジか……」
「もっとも、いくら何でも今日中とは言いません。一週間以内でいいですよ。まずは、強くても弱くても、遅くても早くてもいいので突きを十万回やって下さい」
 にっこりと花が咲くような笑顔で告げるキリア。
 でたよ、キリアのイイ笑顔。
 この数週間で、キリアのこの笑顔が出たときは本気の時だと理解している。
 ただし、一週間で十万回という事は一日一万回以上突きをしなければならないという事だ。
「ふんっ、はっ、ほいっ」
 キリアに見せられた動きを真似して、突きを放つ。
 百回、二百回は余裕だった。
 だが、千回当たりで息が乱れ始め腕が重くなってくる。
「ぐっ……!」
「ほらほら。腕が下がってますよ。無駄な動作が入ってるから疲れるんですよー」
「ぬあああ!でりゃああ!」
「声出すと余計に疲れますよー」


 結局一日目は五千回も出来なかった。




 8


 少年の突きが風を切る音を聞き、私は驚愕していた。
 最初は、只の興味本位と贖罪から始めただけだった。


 見知らぬ国から私たちの儀式に巻き込んでしまった、見慣れぬ服装を纏った少年。
 スライムと一時間戦ってようやっと勝てるような貧弱な少年だったが、武門の一員としていつかは弟子を持ちたいと思っていた私には、好都合な人材に思えたのだ。


 何せ、小さく貧乏な我が国ではあるが、一応その国の王の長女。つまりは、姫殿下と呼ばれるような立場の人間である。
 国中の誰もが、私に話しかける時は畏まり、くだけた様子は見せてくれない。
 もっとも、小さな国であるし、私も父様もそこまで偉ぶるつもりもないので、家臣団や家来の人達もそこまで堅苦しい思いはしていないはずだ。
 だが、それでもやはり「壁」はある。


 それをあの異国の少年は一切感じさせない。


 だから、正直別にそこまで大成しなくても、自然な感じで私と「武」で交流してくれれば……その程度の思いだった。
 爺もそんな私の思いを組み取ってくれたのだろう。
 まだまだ己の武の道中にある、未熟な私が弟子を持つことを黙認してくれたのは。


 だが、結果はどうだ。
 彼は一週間基礎体力訓練を終え、一週間で私の攻撃を防げるようになった。
 全くのド素人だったはずなのに。


 そして、普通なら一ヶ月でも終わらない、突き十万回のノルマを達成しようとしている。


 たったの五日間≪・・・・・・・≫でだ。


 背筋は無理なく伸びやかに伸び、重心が大地にまっすぐ刺さり、足腰はしっかりと大地を掴んでいる。
 ただの正拳突きが、すでに一個の技として完成しつつある証拠だった。


「爺、どう思いますか?」
「まだまだ、これからですが、恐らく……天武の才をお持ちなのでしょうな」
「……」
「姫、悔しがる事はございません。技術的なモノを含めれば、それでも彼が姫に追いつくまでは、少なくとも数年はかかるでしょう」
「それはつまり基礎的な部分では、すぐにでも追いつくという事でしょう?」
「ほっほっほ。腐ってはいけません。戦場には『天才』なんて掃いて捨てる程おりましたが……そんな者程、戦地では無理をしてすぐに死んでいきました。大事なのは、才能ではありません。自分の身の程をよく理解し、自分を律する力を身につけることです」
「……わかっています」
「ですが……」
「ん?」
「彼の動きは、少し変ですね」
「変とは?」
「うまくお伝えできませんが……しいて申し上げるならば、本当は彼は武器を使うのが、本来の戦闘スタイルなのではないですか?」
「実力を隠していたという事かしら?数週間前まで完全に素人の動きだったのに?それが、素手どころか武器を持てばますます碌な動きはできないはずでは?」
「そうですなぁ……まあ、恐らく気のせいでしょう」


 思わずにらみつけるように爺を見てしまったが、爺はそよ風程度にも感じていないようだ。
 爺は顎鬚を撫でつつ、城の中に戻っていった。


 爺に八つ当たりしてもしょうがないことだ。




 私は、ため息を一つ吐き、彼が十万回の突きを終えるのを確認すると「治癒キュア」を片手に、彼の元に駆け寄った。



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