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貧乏姫の戦争 〜異世界カードバトルを添えて~

一刻一機

第一章 〜貧乏姫の戦争〜(2)

第一章 〜貧乏姫の戦争〜(2)





「それで、結局俺はいつ帰してもらえるんだ?」


 先程までの薄暗い部屋から出て、俺は小さな部屋に連れて行かれた。
 部屋は洋風の造りで、ベッドやタンスのような必要最低限の物は揃っているが、質素で寒々しい部屋だった。


 この部屋に来るまで、かなり長い階段を登ったので、恐らくあの部屋は地下室だったのだろう。
 来るまでの途中の廊下にあった窓からは、明るい陽が差していた。
 ただし、窓はヒビが入っていたり、汚れが酷く外の景色は見えなかったが。


 もしかしたら、この部屋も牢獄とまではいかなくても、元から誰かを放り込んでおく為の部屋なのかもしれない。
 それなら、この部屋に極度に物が置いていない理由がわかる。
 椅子も無いので、部屋の隅に置かれた小さな古いベッドに腰掛けると、途端にぎしぎしと悲鳴を上げた。


「それは……すいませんが、貴方がどこから来たのかによります」
 キリアが恐縮した様子で答える。
 階段を上る途中から、キリアの態度が急に弱腰になったので、俺は少し強気に出ている。
 何故誘拐犯なのに腰が低いのかわからないが、もしかしたら彼女は只の下請で、本当は犯罪に加担するつもりがなかったのかもしれない。
 キリアの後ろで控えている老人も、しきりに額の汗を拭いている。
 ちなみに、アヴェルは物珍しそうに俺の周辺をふよふよ浮きながら「おおー」とか「ふむふむ」等と言っていたが、誰も相手にしていない。


「そんな無責任な……、そもそも一体全体ここはどこなんだ!?」


「驚かれると思いますが……ここは、聖樹の国です」


「は?」


 ――セイジュノクニ?


 キリアの思い詰めた表情に反して、俺は惚けた顔をしてしまった。
 やっぱり、只の痛い人、と言うか痛い集団なのだろうか?
 俺の頭に、「男子高校生、謎の外国人カルト集団に拉致され殺害ーー」のテロップが流れる。


 ――ヤバい、ヤバい。これは本気でヤバい連中かもしれない。


 キリアは俺が痛い・・人認定をしているにも間も、何らかの「設定」を語り出す。


「言葉も出ませんか……そうですよね。大陸で最も危険と言われる、聖樹の森のど真ん中に突然連れて来られたのですから、しかし、この国は聖樹様のご加護により危険な魔物だけでも……」
「いや、あの、そういう設定はいいんで、せめて何県かだけでも……」
「設定?」
 しまった。こういう「こじらせた」人間の妄想を否定すると、逆上したり、ますます意固地になると心理学の本で読んだことがある。こういう時は、本人の妄想に触れないまま、上手い事、俺を無事家に帰してもらえるよう誘導しなければならないのだろうか。面倒さくな。
「可哀想に……。現実を否定したい気持はわかります。しかも、非常に言いづらい事ですが、この国は戦時下にあります。貴方を元の国に送り還そうにも、その、余裕が……」
「はあ。そうっすか……」


 (戦時下……戦争中ってことか。色んな設定があるんだな……)


「あのー、それならとりあえず外には出てもいいかな?」
「え?ええ、それは勿論。ただ、森には近寄らないで下さいね。聖樹様のご加護は、森の中には及びませんから」
 おや?駄目元で、外出を申請したら許可が出た。
 やはりキリア達は、妄想癖を真犯人達に利用されただけなのだろう。
 後は、急いでどこかのコンビニにでも駆け込んで、警察に通報するだけだ。
 何の危害も加えられなかったし、最後には親切にしてくれたので、せめて警察にはキリア達の罪が軽くなるような説明をしたい。


「お、おお!?」
 部屋を一歩出ると、まるでお城のようなエントランスホールに出た。
 床には赤い絨毯が敷かれ、半円状にカーブした階段がある。
 ただし、さっきまで居た部屋同様に、立派なはずの赤い絨毯は薄汚れており、ホールのあちこちに蜘蛛の巣が張られていた。
 多少の汚れに目を瞑れば、かなりの立派さだ。
 予想外の豪奢な設備に、俺はかなり驚いた。


 しかし、大きな木製の扉を開けると、俺の目の前には、更なる驚愕の光景が広がっていた。







 エントランスホールだと思っていた場所は、もっと高い階層の中二階だったらしく、遥か下・・・に見たことも無い風景が広がっていた。


 黄色や緑、あとは時々橙色が見えるが――広大な畑、畑、畑――そして、この風景に輪郭を描くように広がる深い森。
 どうやら、俺がいるこの建物は本当に城らしく、この城を囲う城壁が見える。
 城壁の向こうには、申し訳程度の建物――もちろんビルなどではなく、景色にマッチした洋館だ――が、ぽつぽつと建っているものの、視界の九割以上を畑が埋めている。
 畑の中には、のんびり作業している人達が、ぽつんぽつんと居るのが見えた。


「な、な、な……」
(どう見ても日本じゃないだろ、これ!?)
  想像を遥かに超えた光景に、俺は唖然として何も言えなかった。


「どうです?これで、ここが聖樹の国だと信じてくれましたか?」
 驚きの余り硬直している俺の背後から、キリアの声が聞こえる。


「な、なんだこれ!?」
  しかし、俺はキリアの声に応える余裕も無く、背後を振り向いた途端、今度こそ腰を抜かしてしまった。


 城を下から突き抜けるように、巨大な樹が生えている。
 まるで、樹が城を食い破った様に見える。


 腰を抜かしたおかげで、空を見上げる形になり、ようやっと樹と判別できたぐらいだ。
 頭上高くの枝には、青々とした葉が生い茂っている。
 余りにも幹の部分が長いので、どれだけ葉っぱがあっても、太陽の角度次第で、きちんとここにも太陽の陽があたるようだ。


「なんだって……これが聖樹様に決まってるじゃないですか」
 何が気に食わないのか、キリアが膨れ面で俺に説明してくる。
 あ、膨れた顔のキリアも可愛い。とか、思わず思考が現実逃避してしまいたくなる。
「いやいやいや!ホントにそういう設定はいいから!ここは日本じゃないのか!?」
「ニホン?どこです、そんな国は……聞いたこともありませんが……」
「いや、でも、あんたそんな流暢に日本語を話しといて……」


「それは我の魔法、『思念伝達コミュニケーション』のおかげじゃ!」


 俺とキリアの会話に、アヴェルが割って入って来た。
 折角、アヴェルが浮いているのは手品だと思っていたのに「魔法」とかって……もう、何もかも信じてしまった方が、心が楽になる気がする。
 我ながら自分の心の弱さにびっくりだ。


 頑張れ俺の平常心。


「坊主、魔法ってそんな馬鹿な……」
「坊主では無い!我は魔王アヴェル様じゃ!」
「アヴェルって、確かに数千年前に実在したと言われる人物の名前ですが……」
 今更ながらに出て来たアヴェルに、疑いの眼差しを向ける俺とキリア。
 アヴェルの頬に、何かの食べカスが付いている。
 さてはこいつ、途中から姿を見ないと思ったら、飽きて城の散策に出ていたな。お子様め。
「伝説の中の魔王アヴェルは、燃える様な赤髪に、血に濡れた様な紅眼だとありましたが、貴方は紫髪に金眼ですねぇ」
「だってさ」
「そ、それは……」
「確かに、見たことも無い魔法をカードも無しに使っていたので、魔族ではあるのでしょうが」
 ――やはり、さっき俺に飛んで来た魔法陣は「魔法」なのか。
「って、カード?今の言い方ならカードがあれば誰でも魔法を使えるのか?」


 ああ、俺も普通に魔法とか言っちゃってるし。


「何を言ってるんですか?むしろ、魔族でも無いのに、カードも無しにどうやって魔法を発動するんですか?」
「俺の国では、カードって遊びの道具だったり、占いの道具でしかないかな」
「はあ、贅沢な国からいらしたんですね。釜戸に火を着けたり、お洗濯するための水はどこから持ってくるんですか?」
「いや、それはコンロを捻れば火が着くし、蛇口を捻れば水が出るけど……」
「それは魔法なのでは?」
「えーっと……」
 俺は一瞬言葉に詰まる。
 上手く説明できないので、いっそ魔法と言うことでいいかもしれない。
  

「と、とにかくその魔法カードって言うのがあれば、魔法が使えるんだろう?俺を家に帰すための魔法とか無いかな、具体的には飛行機とかタクシーとか……あ、でも俺パスポート持ってないや……」
 もう、ここが日本である事にはもう期待しない。
 あんな樹齢何十万年みたいな樹が、日本にあるなんて聞いたことも無いし。
 せめて、魔法(妄想)でも、ファンタジーでもSFでも何でもいいので、帰る手段を見つけなければならない。
「ヒコウキ?パスポート?貴方の国の魔法ですか?ただ、そもそもで国から出るためには、聖樹の森を抜けなければなりませんが……」
「そうか、俺は、あのでかい森の外から拉致されて来たのか……。ん?俺をここに連れてきたのも、魔法の力って奴なんだろ?なら、俺を送り帰すことも当然できるはずじゃないか」
「いえ、それが……大変申し訳ございませんが、それこそ我々としましても、意図して貴方を召喚しようと思ったわけではなくて……正直どうして貴方が呼び出されてしまったのか、我々も首を傾げているところです」
「え?どういうことだ?そもそも、あんな地下で大勢で何をしていたんだ?」
 これでやっぱり、変な儀式サバトをやっていて、貴方よりも生きのいい生贄を探していますとか言われたらどうしよう。
「そ、それは……」
じい、良いのです。この様子では、彼は帝国とは何の関係も無いでしょう。我々は彼に事情を説明する義務があります。――我々は、帝国との戦争を控え、この地に眠る風竜ウィンドドラゴン様をお呼び奉ろうとしていたのです」
 ――竜。今度はドラゴンか……。いよいよ、現実離れしてきたな。
「はあ……」
「おや?反応が薄いですね……。それでですね、此の地と彼の地を結ぶ魔法『ゲート』を使用したところ」
「何故か、俺が出てきたと」
「……はい。全ては、こちらの不手際としか申し上げられませんが」
「いや、それはもういいんで。ってことは、その『ゲート』って奴があれば、俺は帰れるんじゃないですか?」
「そ、それが……『ゲート』は、使い捨てタイプのカードで、しかも七ッ星。国宝の魔法カードでしたので、もう手元にはありませんし、簡単に手に入れることもできません」
 キリアが沈痛そうな面持ちでかぶりを振る。
「ううっ……、やはり議会で無理を通さず、素直に売ってしまえば、国庫数年分の資金になりましたのに」
「爺っ!今更それを言うのはお止めなさい。それに、あんなランクのカードをどうやって売るつもりなのです。それに、国宝のカードを売るなんてご先祖様に申し訳が立たないでしょう」
「しかし、それがあれば鉄や布を仕入たり、姫様のドレスを新調することも……」
 こてこてのコントのような遣り取りをする二人だが、どうにも演技には見えない。


 しかし、国庫数年分だって!?
 この国の予算がどの程度か知らないが、少なくとも百万円、二百万円のレベルではないだろう。
 考えようによっては、そんな重要な物を使って出てきたのが、戦争で全く奴に立つはずもない俺か……。
 俺が悪いわけじゃないのに、すごい、悪い事をした気分になってしまう。
 これも身に染み付いた貧乏性のせいだろうか。


「自力であの森を抜けるとなれば遭難しそうだなぁ……はあ。どうしよ」
「聖樹の森を自力で抜けられるおつもりですか?遭難する前に、魔物モンスターに食べられてしまうと思いますよ?」
「あーはいはい。モンスターね。どうせ熊とか狼とか猪でしょ?」
「いえ、熊も猪も狼もおりませんが……でも、凶暴な猿や野犬だけではなく、蜘蛛や蜂のような凶暴な昆虫類も出ます。諦めてください、とても貴方一人では……」
「へ!?猿とか犬ぐらいなの!?じゃ、楽勝じゃん!じゃ、魔法も何もいらないから、せめて森を抜けて人里まで行く最短ルートと、食糧だけでもくれないかな」
 俺はベッドから勢いよく立ち上がった。
 ここに引きこもっていれば、何をされるかわからない。
 もしも、さっきのローブを着たあのカルト集団が戻ってくれば、今度こそ変な儀式の生贄にされるかも知れないのだ。
 なら、多少危険でもさっさとここから逃げた方が賢明だろう。
「は、はあ。それぐらいで良いなら……」
「ありがとう。助かるよ」


「ミナトよ。止めておけ。聖樹の森は、大陸で一番凶暴な魔物モンスター共が棲みつく森じゃぞ?」
 アヴェルがふよふよと、俺の周りを飛びながら忠告してくる。
「ははは、安心しろよ。これでも喧嘩は強い方だったんだ。ちょっと立派な木の棒一本でもあれば、猿や犬ぐらい何てことはないさ」
「ふむ?ミナトは、そんなに腕が達者だったのか?狂暴猿人マッドゴリラや、双頭巨犬ダブルハウンドを棒一本で倒せるような達人には見えぬがの?」
「ん?マッド……?何だって?」
狂暴猿人マッドゴリラじゃ。四本の長い剛腕を振り回す、ミナトの三倍ぐらいの大きさの猿じゃ」
「いや、それ猿じゃないだろ!?ゴリラって言っちゃってるし!そもそも、ゴリラだって、腕は四本も無いし、俺の三倍もの大きさは無いぞ!?」
 俺の三倍って五、六メートルあるって事じゃないか!?
 アヴェルの嘘か冗談であって欲しいと、俺はキリアとその背後に控える老人に視線を向けたが、二人とも首を横に振る。
「本当です。しかも、狂暴猿人マッドゴリラは群れで動き、簡単な道具を使う知恵も備えていますので、一匹どころか尻尾の先が見えただけでも、全力でお逃げ下さい」


「無茶苦茶だ……」
 俺はがっくりと項垂れ、ベッドに再び腰を落とす。
 普通なら信じないが、ここに来てから既に現実感が麻痺してきている。
 あの深い森の奥に、そんな化け物が本当にうようよ居るような気になってしまい、先ほどの勢いはすっかりと萎えてしまった。


「少なくとも、カードの一枚も持たないで森に出向くのは自殺行為でしょう。爺、何枚かミナト様に見繕って差し上げて」
「姫様、今は在庫が……」
「……え?もうそんなに足りないの?仕方がありませんね、最低限、召喚カードだけでも都合しなさい」
「かしこまりました」
 落ち込んだ俺を見て、悪いと思ったのか、何やらその「カード」と言うものをくれるらしい。
 正直、そのカードをクラスメイトからもらったのが、そもそもの元凶なので、あまり欲しいとは思えなかった。
 ただ、「召喚カード」と言うのは何とも「男の子」の心をくすぐる響きだ。


 もらるものは、もらっておこうかな。


 まずは、カードの使い方から説明してくれるらしい。
 俺達は森の入口まで向かうことになった。







 城を出ると、城壁の周りには、もうもうと煙を上げる鍛冶屋や、様々な肉が下げられた肉屋等の他、他の建物よりも背の高い洋館が建っている。
 威勢の良い売り子の声や、人々の笑い声がそこかしこから聞こえてくると、国は違えど人の営みはあまり変わらないのだなと実感させられる。
 その建物のそばを歩くたびに、アヴェルがあっちこっちと飛んでいくのを抑えるのが大変だった。
「戦争中って言ってたけど……、ずいぶんと穏やかな雰囲気なんだな」
「ええ。我が国の民がちょっと変わっていると言うのもありますが、この地には聖樹様の加護がありますから。そうそう危険な事にならないという安心感が、民の間では広がっています」
「聖樹様って、あの大木が護ってくれるのか?」
「はい。正確には聖樹様のおかげで繁栄した、森が護ってくれるんですけどね」
「ああ……なるほど」
 あれだけの深い森だ。
 帝国とやらにあるかどうかはわからないが、戦車のような車両はもちろん、馬すら容易には入れないだろう。
 それに、俺はまだ見ていないが、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする森らしい。
 だが、逆に言えばそんな森を擁する、この国に攻める価値があるのだろうか。
 今のところ、豊かな農作物ぐらいしか見ていないが。
 あ、あと美人のお姫様キリアがいるか。
 人によっては、戦争を起こしてでも奪いたいと思う美貌だと思う。


 お店などがあった一画から、ちょっと離れればすぐに、農園をイメージさせる広い畑ばかりの風景が広がり、穏やかな情景が続いている。


 そして、その農園風景をしばらく進むと、森の入口についた。


「さて、ミナト様。こちらが召喚カードになります」
 キリアは俺に一枚の緑色のカードを差し出した。


召喚サモン「     」』風属性 ★★
【『隷属スレイブ』で捕獲対象を捉え、『召喚サモン』で任意の時に、使用者の近辺に捉えた対象を呼び出す事ができる】


 カードには、見たこともない謎の細かい文字が書かれているが、何故か読むことができる。
 これも、アヴェルの魔法の効果だろうか。
 カードに絵は描かれていないが、四角い枠と、その上に星が二つ描かれている。
「これは、風属性の二ツ星カードになりますの、土属性の魔物モンスターであれば三ツ星級。風属性であれば同じ二ツ星級。その他の属性の魔物モンスターであれば、一ツ星級を捕まえる事ができますよ」
……何だその、風属性とかって。いや、ゲームとかで良く見るんだけども、同じように捉えていいんだろうか?
 それよりも、もっと気になる単語が出てきた。
「契約?魔物モンスターと契約書でも交わすのか?」
「いえ、魔物モンスターを屈服させたタイミングで、召喚カードを使い、相手が貴方を主人と認めれば契約できます。簡単に言えば、半殺しにすればいいって事ですよ」
 お姫様がイイ笑顔で半殺しとか……
「とりあえず、やってみた方が早いんじゃないかな」
「そうかも知れませんね。では、森に入りますが、絶対に私の側を離れないでください。巨人蜘蛛タイタンスパイダー数匹ぐらいなら、私でもどうにかなりますが、双頭犬ダブルハウンドとか出れば、逃げる暇もなく喰い殺されますよ」
  

 だから、お姫様よ。何故そんなイイ笑顔でそういう事を言うんだ……


 ◇


 森に入ってすぐの場所で、魔物を探すことになった。
 勿論、何かあったらすぐに逃げるためだ。
「で、どういうのを捕まえればいいんだ?」
「んー。土属性で、あんまり強くないのと言えば……岩石蜂ロックビーとか、もしくはちょっと無理して泥人形マッドドールとかでしょうか。ドール型は、荷物の運搬用として商人の方とかに人気ですよ」
「じゃ、その泥人形マッドドールを狙おうか」
 俺とキリアが方針を決めたところで、横槍をいれる者がいた。
 もちろん、今まで大人しくしていたアヴェル君です。
 『爺』と呼ばれていた方は、ここに来なかった。城にたくさん仕事を残しているらしい。
「ふっふっふ……蜂だの泥では、我が主の下僕として相応しくない!」
「いや、ちょっと待て!」
 何だか嫌な予感がする。
「魔王アヴェルの名において命ず……」
 アヴェルがその短い腕をかざすと、前方の空間には、地下で見たものよりも、かなり大きい魔方陣が出現した。
「ちょ、アヴェル!何をする気だ!?」
「はっはっは!我がミナトに相応しい従者を呼んでくれようぞ!その名も、地上最強最悪の竜種、闇竜ダークネスドラゴンじゃ!!」
「ド、ドラゴン!?しかも闇種って、貴方一体!?」
 キリアが、その名を聞くと顔を青ざめさせる。
 やっぱり、ドラゴンってやばいのか!
「おいおいおい!アヴェル、ちょっと……」


「魔王アヴェルの名において命ず!『門よ開けオープンゲート』」
  

「うわああああ !!!……って、おい。アヴェル。何だこれ?」
 いや、実はちょっと予想してたけどさ。
 この自称魔王様のやることだからな……


 俺達の前には、黒くて丸いモノが落ちていた。
 ソレは、半透明で中心部には赤い玉が見える。ぷにぷにとした動きから、固体よりも流体に近いことが想像される。
 これってもしかして、アレか。
 ファンタジー特有のアレか。
 俺の目の前でついに、わざと目を逸らし続けていた現実が突き付けられようとしている。
「……うむ。黒溶蟲だな」
「かっこ良く言ってるけど、スライムだろ?」
「よく、知っておるな!」
 俺の目の前には、プニプニして丸い、ロールプレイングゲーム等ではお約束の、スライムとしか思えない物体が居た。
 ああ、やっぱり必死に考えないようにしてたけど、やっぱりここ、日本じゃないって言うか、地球ですらないな……。
 本当は、あの巨大な樹とか、魔法陣とか見た時点でそう思っていたんだけどさ……。
「これのどこが闇竜ダークネスドラゴンだって?」
「あー、ほら。黒いじゃろ?」
 だからどうした。
 と、思いつつも、それ以上の子供いじめを止める。
 別に俺が求めるのは、強い魔物や、便利な魔物等では無い。
 単に召喚カードの仕組みが見たかっただけだし、ファンタジーの定番と言えば、やはりスライムだろう。
「ま、折角アヴェルが呼んでくれた事だし、こいつで召喚カードを試してみようかな」
  俺の言葉を聞き、アヴェルが顔を輝かせている。
  この顔を見てしまえば、やっぱり止めたとは言えそうに無いな。
「ミナト様、本当にその魔物でよろしいのですか?『風属性』のカードでも、スライム程度なら問題ないでしょうが……スライムを使役するなんて、見たことも聞いたこともありませんよ?」
「別に、只の実験だから」


 とは言ったものの、このスライムと戦うのは意外に大変だった。
 自分を主として認めさせるには、他人の手を借りてはダメらしい。
 かといって、俺が攻撃すると、なかなか倒せないのだ。
「ミナト様は全然ダメですねえ」
 ぐっ。キリアみたいな可愛い女の子に言われると、すごく悔しい。
「よく、これで棒一本で狂暴猿人マッドゴリラを棒一本で倒す等と豪語したものじゃ」
 くっ!お子様にまで馬鹿にされた!


 結局、スライムに相応のダメージを与えるまで、小一時間を要してしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「よし、今なら召喚カードが使えるはずじゃ!」


 「わ、わかった」
 キリアからもらった緑色のカードを取り出すと、俺は一度胸にカードを置き、スライムに向けた。
「『隷属』(スレイブ)!」
 魔法陣が浮き出て、そのまま黒いスライムを囲う。
 感情も何も感じさせない、只のボールもどきだが、スライムが僅かに頷いたように見えた。
 魔法陣が回転しながら、小さく閉じていくのに合わせスライムも小さくなり、最後には俺の手に持っていたカードに吸い込まれるように飛んできた。
「お、おおー……」
 正直、今までで一番魔法っぽい演出だ。
 何の絵柄も無かったカードの表面には、あの黒いスライムの絵が描かれ、「闇溶蟲ダークスライム」の文字が浮かんでいる。
「これで、そのスライムは、ミナト様の下僕として働いてくれることでしょう。……何ができるのかはわかりませんが」
 キリアは、軽く手を叩いてはいるが、多分、誉めてはいない。
 いくら俺がもらったものとは言え、城の貴重な備品を雑魚に使ったので、複雑な気持ちなのかもしれない。
「とりあえず、一回呼び出して見ることじゃ」
  カードを眺めていた俺に、アヴェルが言った。
  カードに書かれていた隷属スレイブの字が消え、代わりに『召喚サモン』と書かれている。
「『召喚サモン』!」
 俺が声に出して詠むと、先程の現象が逆再生のように発生し、カードから光る魔法陣と共に黒いスライムが出てきた。
 スライムが、もそもそと動きながら俺の側に来る。
 ……何となく、こいつの考えている事がわかる。これが契約の効果なのか?
 どうやら、俺はこの黒いプニプニに懐かれているらしい。
 うん。意外と悪い気はしない。
 可愛いじゃん。スライム。
「どれ、さっそくこやつの強さを見てみるといい。『力を示せオープンステータス』と唱えるのじゃ」
「ああ、わかった。『力を示せオープンステータス』」
 スライムの真上に、読めない文字が浮かぶ。
 カードの文字は何故か読めるのに、これはわからない。
 仕方がないので、文字を真似て地面に描き、それをキリアに読んでもらった。


  「   」ブラックスライム★
体力 ★
魔力   
攻撃 ★
防御 ★
素早 ★
知性   
精神   
特性:闇属性、衝撃吸収、魔素吸収
特技:溶解、影真似


 キリアがスライムのステータスを読み上げながら、微妙な表情を浮かべている。
「ふ、普通のスライムよりはちょっと強そうですね!」
「う、うむ!それに、影真似はレアな特技じゃぞ!」
「いや、弱くても別にいいんだけどな。ところで、このステータスの一番最初にある空白は何だと思う?」
「ああ、そのスライムに名前を付けれるのじゃ。折角だから、名前を付けてやると、ますます魔物から懐かれるぞ!」
「名前ねぇ……じゃ、黒くて丸いから『黒丸』かな」
「それは、安直すぎじゃろ……」
 お子様に、呆れたように溜め息を吐かれた。
 ちょっとムカつく。
「じゃ、じゃあ。黒いスライムだから、『黒スラ』だ!」
「ミナト様のセンスが悪いのは、戦闘センスだけじゃないんですね……」
 ぐはっ!ひ、ヒドイ……
 さっきから、キリアのキャラが崩れてきている気がする。
 最初のお嬢様然とした雰囲気から徐々に、毒が滲み出てきているような……
「くっ……!じゃ、お前の名前は『クロスケ』だ!もう決まり!」
 俺が名前を付けると、クロスケがうねうね動いて喜んでいる。
 適当に付けた名前だが、クロスケは嬉しそうだ。
 クロスケは、俺の側にすり寄ってくると、トプンと影の中に潜り込んだ。
「おおっ!?」
「これが、影真似か。ミナトの影と一体化できるようじゃの」
「これって、このまま攻撃できれば無敵なんじゃないか?」
「一撃で相手を倒せればの。クロスケの攻撃力では、敵に自分の居場所を教えるだけじゃ。影真似は影の形を真似しとるだけだから、攻撃されたら普通にダメージを受けるぞ」
 こいつ、ホント弱いのな……


 こうして、俺は謎のペットを手に入れた。



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