日常を取り戻したい学生。

No.誤 全知の間違い。

「運動神経がいい人が2人…?あ!俺?」
「平さんは違います。」
「アッハイ。」
「億山さん運動神経良いですね~。なにかスポーツしてたりします?」
「いや、別に…」
スポーツをやっていなかった訳では無いけど、打ち込んだものはなかった。
「ふぅん…。烈花ちゃんは?」
「バスケしてました!」
「してた、ってことは辞めちゃったの?」
「ちょっと仕事が忙しくて…。」
本当の事なのかな。バスケをしてたって。確かに身体付きがいいんだよな。腹筋割れてるし健脚だし。何より手のグリップ力が強い。ボール片手で持てそうだ。因みに腹筋いつ見たかはノーコメントで。そんな事より、
「幽さん。」
「どしたの秀一くん?」
「あの…スレンダーマン?の倒し方って、」
「いえいえ違います。消し方です。」
「…?消し方と倒し方って、違うんですか?」
「違いしかないですよ~?例えば、あれと対面して倒すことって出来ると思います?」
「いや全く。」
「ですよね。それが倒し方です。」
「成程。で、消し方ってどうするんですか?」
「そんなにがっつかないでくださいよ~。欲求不満なんですか?」
…自分でそんなこと言って恥ずかしくないのか?男が男に言うのは弄りとしてまだわかるけど、女が男にって。俺だったら言えない。恥ずかしいもん。言われても恥ずかしい。今多分赤面してるからな。ただそんな事も意に介していないのか、幽さんは淡々と話を進める。
「もっと簡単な方法もありますよ。スレンダーマンの獲物の対象を殺すんです。まぁ今回は烈ちゃんが対象なので烈ちゃんを殺すとか。」は?」
平がすごい反応速度だった。人知を超越したんじゃないか?それでも全知には及ばなかったらしく、平の声が鼓膜に届くよりも早く、口が動くよりも早く。
「もちろん殺す気は無いです。誤解しないで下さい。あくまでも可能性です。そして実行する事もありません。されることもありません。予想ではなく確定事項です。」
「…はい。」
流暢な語り口で話す。紙に書いてあるものを読むように。
平は先手を打っていたはずだ。質問するのも話を進めるのも、いつもこちら側が先だった。でも後手後手に回ってる。決定してるのか、それとも。




「今から消し方の説明をします。質問は3回。それがリミットです。
「なんのリミットなんだ、って?その時が来たらわかりますよ。
「まず平さん。君は戦力外です。が、キーマンです。妹さんの精神安定剤です。君は一番に妹さんの所へ着いてください。誰よりもです。絶対に。
「え?どこにいるか分からない?始まりの場所です。北極学校です。頑張って探してください。
「そして秀一さん。あれに関わらないで、あなたは平さんを担いで一緒に探してください。以上です。
「自分が一番の戦力になる?知ってます。でも、他人に優しすぎるからこの立場なんです。そんなわけない?見間違えんな。見当違いもいいとこだ。
「そして烈ちゃん。君が1番重要です。スレンダーマンと対面してください。あれは獲物を確実に殺します。でも自分から手をくだすことは無いんです。連れ去ります。そして隠します。手を下さずに餓死を待ちます。という事はそれまでは殺されません。あれにとっては少女はお人形なので自殺も許しません。傷があったら嫌ですもん。
「あぁ、対面と言っても戦わなくていいですよ?手から逃れるだけでいいです。見失わず、逃れてください。
「なんで烈ちゃんなのか?あれに魅入られたからです…あぁ、リミットですね。来ますよ。烈ちゃん逃げてください。




かなりの暴言を吐かれた。なんでだ。かなしい。劣は魅入られているらしいし、平がキーマンだし俺は雑用だし。もっといい役回りなかったもんかね。ってか探せって言われても全部の場所を回る訳には行かないしな。ちょっと視察時間も欲しかったな。とか考えている内にあれが来た。
スレンダーマンが来た。
獲物で、狙われるのは劣。分かっていた。だからこそ動く事がわかっていた。平が劣を庇うことが。どうせ平の事だから殺さないって言っても庇うからな。なので劣とアイコンタクトでこういう話をした。
平が来たらそれを担げ。
了解。
この位のアイコンタクトだった。そして結果平は劣を庇った。ここまで俺の考え通り。しかしここからは想定外だった。スレンダーマンは、
劣に一撃を入れようとした。
幽さんの言っていることと違う。人形に傷をつけないんじゃないのか?中々大振りの打撃だった。隙も大きかった。しかし超迫力と高速さで竦んてしまった。でも、流石俺。意に反して反射神経が光速で動く。
平を担いで逃げる烈を横目に──────
俺はスレンダーマンの一撃を受けた。
幽さんも横目に見えたが、これは想定外らしい。顔面蒼白。元から青白いけど。あれだけ全知をチラつかせていたのにここで間違えるとは…ん?待て。この状態はおかしい。前提が幽さんの情報が間違えではない必要があるが、獲物を確実に殺すスレンダーマンが1人目の獲物が死なないままで二人目を狩りに来るのか?2日。それは餓死までとしては短い。平の妹は死んでいないはずだ。
そしてもう1つ。
何故攻撃をしたんだ?さっきも思ったが、人形に傷をつけないんじゃないのか?攻撃をするのはどうしてだ?全く分からない。あれに対する知識が少なすぎる。いや、決して少ないわけじゃない。むしろ普通より多いはずだ。でも分からない。でも今はそれを考える時間はない。きっとこんなことを考えている内に2撃目が来る。考えろ。脳を回せ。酸素を回せ。超えなくていい。人知で考えろ。


…あーわかんね。無理。答えが出る気がしない。なんだよスレンダーマンって。フィクションじゃないのかよ。っていうかあの三人は逃げれたし、もう良くないか?肋骨も3本くらい折れてるし、腕の骨折れてるし。何より多分肺片方潰れたわ。息出来ない。そりゃ酸素も回らんよ。あれは俺の顔覗き込んでるし。久々にこんな怪我したわ。このレベルだと全治まで1週間か?長い。まぁちょうど春休みだ。ゆっくり休もう。
とか考えていると、
「しゅーちゃーん!どーしたのー?」
とか聞こえてきた。幻聴だろうか。俺しゅーちゃんじゃないし。なんでこんな時に他人の名前が…あ。思い出したくないこと思い出した。秀ってしゅうって読めるから、ってそう呼んできたヤツいたな。全能の人。はぁ。あいつ嫌いなのに今思い出すか。あー。顔まで見えてきた。スレンダーマンなんか苦しそうだし。ありえない事起きまくりだし。
「しゅーちゃんはまだ生きたい?」
そりゃそうだ。そうに決まってる。まだ18にもなってない。やり残ししかない。多分これから劣も養わないといけないし、平にまともな考えもたせないといけないし。こんな所でじゃ死ねない。それに元々この程度の怪我じゃ死なないし。
「し、、なな、い」
「おけぃ!」
何がOKなんだ?…ん?痛くない?息ができる?
みたいなことも起きないし。普通にきつい。今の流れ的にあれ?怪我が全治してる!とかの流れでしょ。
でも、気配が消えてる?あれの圧迫感がない…?
「んー。ここからはしゅーちゃんの生命力にかかってるよー?背丈おばけはどっかやったからがんばえー!」
うざ。めっちゃうざい。なんだよがんばえって。背丈おばけって。
「…うる、、さ。」
「ん!生きてるー!凄ーい!」
…マジでなんだこいつ。
…え?受け答え?現実!?え?やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!優香なの?だったら死にたい!そっちの方がマシ!優香は無理無理無理無理無理無理無理無理無理!だれか!助けて!死という救済を求む!
「んー、だいじょぶそーだし家に帰れる?」
何を言いたいのこいつ。言葉の意味がわからない。
「おうち来る?それともおうち行く?」
連れて帰ってくれるってこと?どういう事なの?
「帰り、たい。」
「おけー!」
そう言うと彼女は俺の袖を掴み引き摺りながら家へ連れていってくれた。

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