日常を取り戻したい学生。

No.亖。覚えのない障り。

「…は?」
何を言ってるんだこいつ。いつもこいつは頭のネジが四本くらい外れてると思っていたが、これは流石に無いだろう。ボケたのか?俺の家で話した時の感じか?いや、ここでそれをやったのだとしたら感覚が呆けているだろ。全知全能って、そんな人がこの世にいるわけないだろう。
…いや、全能は居たな。俺が人を意味もなく人に嫌悪感を向ける理由になった人。あの人とはもう会いたくない。
まぁ、それはそれとして、だ。全知全能なんているわけない。100%だ。こればっかりは言いきれる。前語りで自分の事を完璧人間といった手前、何を言うかと思うだろうが俺のは喩えで。平は結構な真面目な感じでの話。かなり違う。天と地、月とすっぽん、全知と全能ほどの差がある。どうせこんな流行り話は大抵の人間がつまらない与太話とでも捉えているだろうに。全知全能なんて妄想の話。あるのならば既に噂では済まないくらい有名になっているだろう。
「先程言った通りですよ。半分違います。」
ほら、やっぱり噂の範疇じゃ…ん?半分?どういうことだ?半分?半分違うってことは半分が正解ってことだろ?っていうことはまさか全知か全能のどちらかなのか?
いやいやそんなわけが無い。可能性はゼロではないがゼロに近い。大体0.0000000000001%位の確率…いや、これに後0を10個つけたいくらいだ。
「何ですか皆さん。鳩が鉄砲くらったみたいな顔して。半分当たりで半分違います。これが答えですよ?」
待て。今別のことの方が気になった。全治とか全能より何だ鳩が鉄砲くらったみたいな顔って。死んでるだろそれ。鳥になんてことしてるんだ。生気のない顔って言いたいのか?
「…どういうことでしょうか?」
平が切り出した。
「半分当たりって。」
「言葉の通りですよ。全知に片寄った不完全…中途半端な存在です。」
普通より知識量が多いだけですよ。と、付け加える。悲壮感が漂っている。過去にそれに関しての何かあったのだろうか。
…いや、今はそんなことよりこの人全知に片寄っているって言ったのか?いくら自信があってもそんなことをいえるものなのか?知識に自信があっても全知とは違う。知識は勉強で身に付くものであり、全知は勉強で身につくものでは無い。全てを知っているのが全治なのだ。
「そうですか。…何かすみません。」
「いやいや、良いんですよ?その代わりと言ってはなんですが、私も平さんに質問があるんですよ。私も質問に答えたので、答えて貰えませんか?」
「俺に質問…?まぁ、良いですけど。」
「なんで私にそんな質問を?与太話じゃないとでも思ったんですか?それとも、与太話でもいいから縋りたい何かがあったんですか?そうですね…例えば、不可解な現象によって何か大事なものが消えた…とか?」
妙に流暢に話をする。まるで初めから知っていたかのように。
「…まぁ。大体そうです。やっぱり全知なんじゃないんですか?」
「私は予想を述べただけなんで。当たっているなら勘がいいだけですよ。知識があるのと全知は違います。」
やっぱり変な感じだ。疑うべきなのだろう。そして離れるべきなのだろう。でも離れられない。疑えない。何故かはわからない。引き込むような話をしているわけでもなく、淡々と話しているだけなのに。話を聞いてしまう。聞けてしまう。まるで旧知の仲だったかのように思える。
「秀兄?」
幽さんの話しを聞いていた所を劣が袖を引く。
「どうした?」
「帰ろう?ここからは平さんと幽さんの話になりそうだから。」
「…そうだな。じゃあ、今日はこの辺で。」
「ん。気をつけて帰れよ~」
帰りを促すとは。何かを感じたんだろうな。と、言うか劣は引き込まれる感覚は無かったのだろうか。まぁこんな風に袖を引いてくれなければここで佇んで話を聞いていただろう。何かを感じ取ることも無く。ただ、この場合は遅かった。身長の高い男が公園の入口に佇んでいた。それは…そうだ。見まごう事などない。なんせさっき家で写真を見たばっかりだ。
スレンダーマンだ。
ずっとこちらを見ていたようだ。いや、見ていたのかは分からない。その男は、顔が無かった。
俺と劣は同時に逃げた。平はスレンダーマンに気付いていない。幽さんは…微動だにしていない?見えているはずなのに。おかしい。あれを見ても怖気づかないのはおかしい。
いや、そんなことを考える暇はない。
「っ…!平!」
「んぅぅうう?!」
俺は走りながら平を抱き上げた。それと共に劣は幽さんを抱き上げた。いつもだったらこの状態ならこいつを置いていくことで生存確率と相手の動きの読みの正確さを上げていただろう。動きの癖は何度も見ないとわからないからな。ただ、今回ばかりはこいつの情報が大切になる。気がする。
推察の域を出なかった推察が確信になった。家で出したスレンダーマンの写真。幽さんに言われたことに対しての反応。
あれになにかされたのだろう。
「最短で行くぞ!」
「何処に!」
「どっか!」
俺達は思い切り跳んだ。そして家の窓縁を伝い、屋根を走り、塀を通り、路地裏を通り、行き止まりでは壁を蹴って上へ行き、ありとあらゆる手を使い逃げた。途中後ろを振り向いた。追ってきているかの確認だ。来ていた。走ってきていた。進○の巨人の奇行種みたいな追いかけ方をしていた。あれを見た時の恐怖は過度な運動をしても頭から離れることは無かった。
「逃げ切った…かな?」
「うん…たぶん。」
流石に疲れるな。軽く50km位走ったんじゃないか?
「いやー、驚きましたね。まさかスレンダーマンが現れるなんて。一旦であれど撒けるとは思いませんでしたよ~。」
「…あの。」
平が口を開く。
「俺が話そうとしたのはあれの事です。」
「へぇ~。」
「…あれが2日前、女の子を連れ去るところを見たんです。」
「ただの女の子じゃないでしょ?」
「…幽さんは本当に鋭いですね。そうですよ。連れ去られたのは─────俺の妹です。」
「それで私に声をかけたんですか。」
「全知全能と聞いていたので。…でもそんなわけないですよね。あんな与太話に縋ったのが馬鹿でした。それに、こんなことに烈花ちゃんも幽さんまで巻き込んで。」
すみませんでした。と言った。
「大丈夫ですよ。そんなに気にしてないんで。」
幽さんは剛胆というか…飄々というか。掴みにくい。掴めない。そういえばさっきのスレンダーマン。平は背中を向けてたけど、幽さんは完全に見えてたはずなんだけど…。なんかここでその話振るの変に勘繰ってると思われそうでやりにくいな…。
「幽さん私たちより早く見つけてなかった?」
言った。劣言った。すごいメンタル。ズバッと言える所凄いわ。
「話に夢中で気付かなかったよ~。まぁ、目の端には映ってたけどね~。」
「その時に教えてよ~!」
「ゴメンね。目の錯覚かと思っちゃった。」
成程納得。あんなのが目の端にいたとしても自分の目がおかしいと思うよな。一瞬で現実だと認識した俺たちの方がおかしいのか。
それはそれとして…
「平。俺も巻き込んだのに謝罪の一言もなしか?」
「え?秀ならいいかと思って。」
「はぁ!?流石にお前それは無いだろ!」
「それに俺の事置いてくか悩んだろ。それでおあいこってことで。」
「…ったく。今度は迷い無く置いてくからな。」
やっぱりネジ外れてたわ。巻き込んだ上にそれをチャラにしようとするとは…。
「そんな事よりあれはどうするんだよ。」
「あー…。でも、とりあえず女性陣には帰ってもらった方がいいかな。幽さんも烈花ちゃんもあんなのに巻き込んだ挙句ここからも巻き込む訳には行かないでしょ。」
平の中では俺を巻き込むのは確定事項らしい。
「そしたらどうするんだよ。烈花もお前よりか戦力になるぞ。」
「でも女子だし…。」
「…帰したとしてその後どうするんだよ。」
「その消去方法教えましょうか?」
と、いきなり幽さんが言った。
まさかな。スレンダーマンの消去方法なんてある物なのか。と言うか消せる物なのか?
「え?」
「言ったじゃないですか。私は全知に近いんです。あれの消し方知ってますよ?それに、」
運動神経ずば抜けている人も偶然2人居るようですし。と。

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品