日常を取り戻したい学生。

No.弌。お風呂事変

「あのさぁ…」
「…はい。」
「家まで来るのはまだいいよ?」
「いいの!?」
「は?」
「家に入ってもいいの!?」
「ダメだよ!!常識考えて!?ピッキングして入ってくるのまじで頭おかしいと思わないのか?」
「わかった…次からピッキングしないよ…。」
「違う。分かってない。入るなって言ってるんだ。」
「…」
「でさ、学校までもまぁいい…待て、違う本当はそれもダメだ。」
「…はい。」
「でさ、そこまで許した上でさ?なんでその上を行こうとするの?」
「?なんのこと?」
「風呂だよ!何お前風呂まで入ってきてんの!?普通に考えて男女二人で風呂とかありえないからな?!」
 ここでこの状況を説明しよう。簡単に言うと裸の男女2人が風呂に入っている…いや、違うんです。犯罪してないです。どちらかというと被害者です信じてください。
…なんかもう信用戻らない気がするから取り敢えずここまでの経緯を話そう。
 まず初めに女の方が万同劣。殺し屋だ。そして今の語り部であり被害者である僕が億山秀一。
 え?被害者アピール激しいって?本当のことだから。
 …経緯を話すと言ったものの、どこから話したものか…。うーん。そうだな。学校から家に帰ってきた時のことから話そう。簡単に言うと家に帰ると万同が熱烈な歓迎をしてくれた。
 こめかみにむかって上段飛び後ろ回し蹴りをするという歓迎をしてきた。びびった。顔に出してないけど。ぶぉんって風切る音聞こえたし。当たったら死ぬもん。ぜったいしぬもん。25cm上まで正確な蹴りって普通出来ないだろ。
 まぁそこで死ぬと話が終わるので、僕は持ち前の反射神経でガードした。しかしそんなことを気にすることも無く彼女は腰に携えていたナイフ…いや、長さ的にナイフはナイフでもサバイバルナイフだろうか。それを僕の胸へと投げた。先程のガードで僕は両手が塞がっていた。なので上段蹴りで飛んできたナイフを弾いた。そこまでも計算の内だったのだろうか。彼女は、こめかみを蹴るためにあげた足が地面に着くと共に僕の軸足をタックルの要領で取りに来た…が、それは僕が計算済みだった。先程のナイフを止めるために使った足を振り下ろし、彼女の頭を揺らす程度で振り落とした。要するに軽い踵落としをした。僕は殺人犯にはなりたくないんだ。
 そして彼女は軽く脳震盪が起こったようで、そこで倒れた。実はこのバトルは帰宅した時の恒例行事みたいなものだったりする。
 いつもならここでピッキングするなとか説教するのだが、実は僕は今日から春休みで、気持ちよく休みたいという願望があった。なので説教なしで僕は風呂に入った。癒されたい時は風呂が1番である。基本的に他人は不可侵の領域なのだ。基本的にはな?そして湯船を沸かして風呂にはいった。
 さて、問題はここからだ。僕は湯船に入り少しうとうとしていたんだ。癒されていたんだ。そしたら、バン!という音と共にドアが開き、その瞬間に人が入ってきた気配がした。癒しを感じながらウトウトしていたので目は閉じていた。だから気配だけを感じ、僕は
(あーまた説教しないといけないのか…風呂まで殺しにくるとか流石にちょっと…。)
とか思っていたが、心配する点が的外れもいい所だった。
 その時はいつもの様に彼女がどのような攻撃をして来るのか。その点に集中していた。その為に観察しようとした。人間は何をするにも予備動作や分かりやすい癖がある。それを観察することで5手先まで理解する。それが今回は間違いだったのだが。観察しようとした相手が裸だったのだ。うん、もう一度言おう。裸だったのだ。びっくりした。観察しようとしていたのでよりびっくりした。目を離そうとしても離せなかった。驚くと人間動けないな。その隙を狙ってなのか、飛びついてきた。流石にそれは論理的にも倫理観的にも不味いので金縛りにあったかのような身体を無理やり動かし避けた。彼女の方は飛びついたのを避けられてそのまま壁にぶつかった。痛そう。そして今に至る。
「何で風呂に入っちゃ駄目な痛い!」
頭を叩いた。親が子供をしかるような感じで叩いた。
「風呂に入るのがダメな訳じゃないんだよ。何で他の人が入ってる時に入ってくるの?」
「え?」
「え?」
「入りたかった…から?」
「なんで疑問形なんだよ。」
「嘘だかいった!?!」
叩いた。嘘だからって正面切って言うとは。
「じゃあ本当は何でなんだよ。」
「はたかない?」
 少し目を潤ませてそういった。流石に心が少し痛んだ。だから、
「分かったよ。変なこと言わなければ叩かない。」
と、約束した。
「じゃあ話すね。まず確認したいんだけど男の人は女の人と風呂に入るのはろまんってやつなんでしょ?」
「いきなりだな…。まあ確かにそうかもな。」
「それは女子のろまんでもあるわけなんですよ。」
「そうか。」
「じゃあどっちも満たしちゃおう!ってかんじったい!??」
 3度目。叩いた。
「叩かないって言ったじゃん!」
「変なこと言わなければって言ったろ!」
「え?変な事言った?」
 4度目。叩こうとしたが流石に手が痛いので辞めた。
「って事は殺しの予定じゃないってこと?」
「うん。」
「」
「だから一緒に入ろうったいよ?!!」
 4度目。叩いた。手が壊れても知らない。
「常識を知れ。もう俺が出るからお前はお前で風呂に入れば?」
「秀一は入らないの?」
「上がるって言ったろ。」
「じゃあ私もいいや。」
「…じゃあ僕が入るって言ったら?」
「私も入る!」
もうダメだこいつ。
「ヤダって言ったら?」
「うぅ…はーいーりーたーいー!いっしょにはいろーよー!」
 駄々をこね始めた。保育園児かよ。はたから見たらやばい奴だな。近くで見てもやばい奴だけど。
まぁ。まぁね?倫理観とか色々言って平常を装っているけど。正直言うとこいつと風呂に入るのは満更でもない。むしろ普通だったら嬉しいだろう。はいそこ犯罪って言わない。こいつ結構プロポーション良いから。さっきので見ちゃった。はいそこも犯罪って言わない…いやこれはやばいか。まぁとにかくそこは置いといて正直入りたい。でもやってしまったらそれこそ犯罪でありアイデンティティが壊れてしまいそうだ。さて、どうしたもんか…と考えていたら、ピンポーンと聞こえた。なんだろう。通販は頼んでないのだが。だがしかし助け舟であって欲しい。
「おーい!誰かいますかー?ってか居るだろヒデー!入るぞ!」
不味い。アイツだ。平だ。
 平について説明しよう。あいつの名前は平 等也。学校の奴で何故か僕にお節介を焼く奴だ。気が弱いくせに行動は大胆なんだよな…。だから多分風呂の近くまで来るだろう。そして着替えがふたつあることに気づいて風呂を覗くかもしれない。あいつならやりそうだ。
 とかそんなことを説明している暇はない。この状況を見られたらまずい。通報されることは明らかだ。どうしたもんか。
「どうしたの?」
「平が来た。」
「あいつかよ…どうするの?殺る?」
「いや、ダメだ。何言ってんだお前。いきなりスイッチ入れんな。」
「だってあんまりあいつ好きじゃないんだもん。」
「そういう話してる暇はない。これを見られたらさすがにまずい。」
「うーん。…後で一緒に風呂に入ってくれる?」
「は?いきなりどうしたお前?」
「入ってくれるならどうにかするよ?」
 背に腹は変えられない。一生が終わるか、1時間が終わるかだったら1時間に決まっている。
「あーもう分かった!風呂あとではいるからどうにかしてくれ!」
「おっけー」
そう言うと湯船に隠れて蓋をした。そうじゃん。そうさせれば良かった。無駄な約束した。
「うぉい!ヒデ!返事くらいしろ!」
こいつもか。こいつもなのか。覗くどころか問答無用で風呂に入ってきた。僕の周りには【非】常識人しか居ないのか。
「おい…」
「なんだよ!」
「流石に怒るよ?」
「アッハイ。」
本当に気が弱い。
「風呂から上がるから待っといて。」
「ワカリマシタ。」
出てくれた。物わかりの良い奴で良かった。
「おい、レツ?」
「ん?」
「僕が上がった後あいつに気付かれないように出といてくれ。」
「後でホールケーキね」
「…分かったよ。」
そう言って僕は平の所へ向かった。

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